投稿(妄想)小説の部屋

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No.49 (2000/06/14 21:22) 投稿者:紫翠

to Heart・・・(2)

 ・・・胸が痛い・・・
 締め付けられるみたいに胸が痛む。
 どうしたんだろう・・・
 急に襲われた胸の痛みに、顔をしかめながら俺は目を覚ました。
 まだ眠いと言っている目をゆっくりと開く。
 ・・・雨音がする・・・
 降り出したのか。

 ベッドに体を起しても胸の痛みは続いている。
 でも、この痛みは俺のじゃない。
 ・・・忍?
 お前なのか?
 また、声も出さずに泣いてるんだろう?
 一人で泣くくらいなら電話してくればいいのに。

 俺は迷わず忍の番号をダイヤルする。
 受話器の向こうから聞こえてくるのは、涙を堪えようとするあの無理をしてる声だ。
「大丈夫か?」
『どう…して?』
 忍の声は涙で少し掠れてる。何かあったのか?
「なんか、胸ンとこが痛くなって目が覚めて・・・、
 そしたらお前が泣いてるような気がしたから・・・。忍?」
 ケータイの向こうから嗚咽だけが聞こえてくる。
 なんで俺は今お前の側にいないんだろう。
 すぐ側にいれば、抱きしめてやれるのに。
『ふ、たば…』
 涙混じりの忍の声が、なんだか切ない
 超能力があったらいいって今ほんとに思うよ。
 そしたらお前のところまで飛んでいけるのに。
 忍が俺の名前だけを呼んでる。
「・・・忍、愛してる・・・」

 少し落ち着いたらしい忍は、俺の声を聞きたがった。
 なんでもいいから話して、と。
 俺は、何を話そうか迷ったけど、子どもの頃のやんちゃ振りを披露した。
 涙混じりだった声がだんだんと、笑い声を含むようになる。
 よかった、笑ってる。
 もう大丈夫だって、忍は笑って言った。
 ほんとに大丈夫なのか不安だったけど、でもその言葉を俺は信じることにした。
 今夜何度めかの愛してるを忍に送って電話を切った。

 電話を切ってもしばらくケータイから目が離せなかった。
 切ったとたん、泣いてないだろうか。
 あいつ、とことんまで我慢するから。
 側にいないと、不安になる。こんな夜は特に。
 今までもこうやって一人で泣いてたのか?
 考えだすと止まらない。よけいなことまで考えてしまう。
 明日の朝、忍の家の近くで待っていよう。
 今夜抱き締められなかった分、明日いっぱい抱き締めるから。
 だから、忍。
 もう、泣くなよ。俺のいないところで、一人でなんて頼むから泣かないでくれ。
 俺のこの腕も、この胸もお前ためだけにあるのに。


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