投稿(妄想)小説の部屋

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No.48 (2000/06/14 21:21) 投稿者:紫翠

to Heart・・・(1)

 その夜、硝子をばんばん叩く音で目が覚めた。
 ・・雨が降っているらしかった。
 寝る前にはあんなに綺麗に晴れていたのに。

 中途半端に目が覚めたからか、眠気はちっともこない。
 ・・・こんな雨の夜は嫌いだ・・・
 心が弱くなる気がするから。
 考えなくてもいいことを考えてしまうから。

 ねぇ、二葉。
 今何してる?・・・寝てるか。
 当たり前だよね、俺はなんだか眠れなくって二葉のこと考えてるよ。
 なんでだろう、二葉に出逢ってから俺、弱くなったのかな。
 今までこんなことなかったのに。
 夜中に目が覚めても、誰かの声が聞きたいなんて思ったこと、なかったのに。
 声が聞きたい
 側にいて欲しい
 側にいたい
 二葉の温もりに触れていたいよ。
 ただ逢いたくて、逢いたくて、逢いたくて。

 知らない間に頬を伝って流れ落ちた涙は、ぽとりと手のひらに落ちた。
 ぎゅうって胸の奥が痛くなる。
 一人で二葉のことを考えると、いつもここが痛くなる。
 そうしたら、逢いたくてしかたがなくなってくる。
 逢いたいんだ、二葉。
 声が聞きたい。
 電話したら、怒られるかな・・・?
 こんな夜中にどうしたって呆れられるかも。
 たった一言聞ければ、それでいいんだ。ほんとに、それだけで・・・。

 電話しようか迷っている時、手に持っていたケータイが着信を知らせた。
 ・・二葉だ・・今頃、なんで?
『大丈夫か?』
 ケータイの向こうから聞こえてくる声は少し掠れてて・・・。
「どう…して…?」
 ずっと聞きたかった声を聞いたとたん、俺は喉がつまるような感じになった。
 二葉の声だ・・・。
 そう思うと涙がどんどん溢れそうになる。
『なんか、胸ンとこが痛くなって目が覚めて・・・、
 そしたらお前が泣いてるような気がしたから・・・。忍?』
 なんでわかるんだろう、俺のこと。
 ますます、俺は声が出なくなった。涙も止まらない。
『忍?なんかあったのか?』
「ふ、たば・・」
 嗚咽で名前を呼ぶのが精一杯だ。二葉の声が、耳の奥で甘く響く。
 冷えていた体がだんだんと熱を取り戻しているみたいだ。
 二葉は声まで熱いんだね。
『・・・忍、愛してる・・・』

 雨はまだ止まない。相変わらずばんばん硝子を叩いてるけど
 でも俺は、もう一人の雨の夜をおびえたりしない。
 温もりは俺の側にある。


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