連鎖反応 −・+
嫌な事って、何でこう続くんだろう…連鎖反応ってやつ?『二度ある事は三度ある』って言うけど、これだって悪い事にしか使わないよね。
俺は自分の靴の先を見つめながら、重い足を引きずって駅の階段を上っていた。大きな本屋に行きたくて、寄り道した帰りだった。
さんざんだった一日を思い返して、知らず知らず溜息が口をついて出る。
まずひとつめは一時間目だった。丁度前の晩、二葉と電話で話してたせいもあって…俺はつい、進路の事とか留学の事とか二葉…の事とか…色々と考えてしまって、先生に指名されてるのに気付かなかった。いつもならこんなポカ、絶対やらないのに…!
かなりいらだった声に、ハッと顔を上げた時はもう遅くて。既に何回も名前を呼ばれた後だったらしい…。
数式を解く為に慌てて前へ出た俺の背中に、その声は突き刺さった。
「余裕だよな−、来年は受験だってのによォ」
ビクッ、とした俺は、でも振り返る事は出来なかった。『頭イイ奴は違うよな』って…そんな目をしてる奴を見付けてしまうのが、怖かったから。
そしてふたつめ。その事を引きずってたのか、ぼんやりとしていた俺は昼飯の時、飲み物の缶を倒してしまった。
大丈夫だよ、って言ったんだけど、近くにいた女の子達が後始末をしてくれて。お茶だったから、変にベタついたりしないだけマシだったけど…他人に迷惑をかけてしまったって事に、俺は落ち込んだ。もちろん彼女達は、『気にしないで?』って言ってくれたけど。
みっつめ。その後の授業の小テストで凡ミスをした…本当につまらない書き間違いで、自分でも『何やってるんだか』って情けなくなる様なものだった。
きっと、精神的な問題なんだ…何で俺って、こんなに弱いんだろう…。
点数なんてどうでもいいけど、そっちの方がこたえてしまった。
アナウンスの声が俺を現実に連れ戻した。さんざんな回想を頭から追いやり、電車が入ってくる方を見やった俺は…見知った色彩に思わず息を飲んだ。あの、金色の髪!
「ふた……」
二葉は、一人じゃなかった。
アメリカンスクールの仲間達と一緒だった彼は、ひどく目立っていた。皆格好イイ奴らばかりで…その一角だけ、華やいでいるのが俺にも分かる。
何となく気後れしちゃって、俺は声を掛ける事が出来なかった…。
俯いた俺は、邪魔だな、って感じに押し退けられながらもその場に立ち尽くしていた。
気付いた時には既に、電車は出た後で。俺はフラフラと歩いて行くと、椅子に腰掛けた。
「……ホント、俺って……何で……っ」
情けなくて、悲しくて。
膝の上に乗せたカバンに突っ伏す様にして、泣きたくなるのを堪えた。