投稿(妄想)小説の部屋

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No.41 (2000/06/11 21:39) 投稿者:真城理

白雪姫8〜金髪のお客さま〜

「そんな大声出すことないだろう」
 いきなりかけられた声に驚いて逃げ出そうとした白雪姫の手をつかんだのは、若い男でした。秀麗な顔立ちに意思の強そうな瞳。少し長めの髪は綺麗な金色です。
「嫌です、放してくださいっ!」
「おい、落ち着けよ、お前…」
「どうした、忍!」
 振り払おうと思っても逃れる事のできない強い力に、怖くて涙目になった白雪姫の耳に飛びこんだのは健さんの声でした。
「テメー何もんだ!?なに忍にちょっかいだしてんだよ!」
 一瞬手首をつかむ手の力が弱まった隙に、健さんの後ろに逃げ込んで真っ白なシャツを掴んで息を潜めます。
「お前こそ何者だ?俺はただこの近くにあるフジミホテルに用があってきただけだぜ」
 その言葉に白雪姫は、はっと顔を上げました。
「あ、もしかして午後からおみえになるというお客さまですか?」
「あぁ。お前、ホテル関係者だろ?」
「はい」
 白雪姫が頷くと、若い男はきつい視線を少し緩めました。
「俺はデュオ・クローバー。チェックインは三時からと聞いていたんだが、少し早く着いたから時間潰せる所がないかって訊ねようとしたんだ」
「す、すみません。存じ上げなかったもので。もしよろしければ支配人にアーリーチェックインできるか確認してまいりますが」
「悪りぃ、いいか?」
「はい、少しお待ちください」
 急いでフジミホテルまで駆け戻った白雪姫は、庭で薔薇の手入れをしている高槻さんを見つけました。
「チーフ、今日の午後チェックイン予定のクローバー様がお見えになっているのですが、アーリーチェックインをして頂くのは可能でしょうか」
「クローバー様? 忍、その方は玄関で待っておられるの?」
 両手に薔薇を抱え、首をかしげる高槻さん。
「いえ、すぐそこの木立の辺りで待っておられます」
 白雪姫が簡単に経緯を説明すると、すぐに頷きました。
「準備自体は出来ているからね、来ていただいて構わないよ」

「さっきは悪かったな」
 チェックインをして頂いてお部屋まで案内する時に、そう謝られて白雪姫は慌てて首を振りました。
「いえ、私こそ大声を上げたりして申し訳ありませんでした」
 そう頭を下げると
「ところで…さっきの男は誰なんだ?」
 不機嫌そうになったクローバー様は訊ねました。
「健さんのことでしょうか?あの人ならガードマンなんです。このホテルは森の奥にあるので治安維持の為にホテルで依頼しているんです」
「ずいぶんと柄の悪いガードマンだな」
「すみません」
「お前が謝ることないんだぜ。さっきから謝ってばっかいるだろ、お前。ところで…いや、…そんなはずはないからな」
 何か聞きたそうにしていたクローバー様は白雪姫の顔をまじまじと見つめると、溜息をつきました。
「あの…?」
「あぁ、悪りぃ。部屋ここか?」
「はい、どうぞ…きゃっ!」
 部屋のドアを開いた白雪姫は、運んでいたクローバー様の荷物に足をとられよろけてしまいました。
 倒れる、そう思った瞬間強い力に抱きとめられます。びっくりして見上げると至近距離にクローバー様の顔があります。慌てて顔を逸らせた白雪姫は、鏡に映っている彼の腕に抱きかかえられた自分の姿を見て真っ赤になってしまいました。
「申し訳ありません、クローバー様っ!」
「あぁ、デュオでいい。お前の名は?」
「池谷…忍です」
「忍…な。今度から足元に気をつけろよ」
 そう軽く頭を叩いてくれる手は、眼差しと同じ位優しくて、思わず視線を逸らし俯いてしまった白雪姫でした。


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