投稿(妄想)小説の部屋

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No.23 (2000/05/10 15:45) 投稿者:真城理

白雪姫7 〜ページボーイ見習〜

「忍君、皿洗いはいいから、ベッドメーキングを頼むよ。三時には新しいお客様がチェックインなさるからね」
「はい」
 白雪姫が池谷忍という偽名で高槻さんのホテルで働き始めて一週間がたちました。初めはスタッフの食事の用意や家事の手伝いしかさせてもらえなかった白雪姫ですが、今ではお客様が帰られた後のベッドメーキングや、部屋の清掃などもさせてもらっています。自分がナイトアウト国の王女だとばれるのではないのかと心配でしたが、髪の毛を短く切り軽く髪の色も変えたので、お客様はみな白雪姫を男の子だと思っているようです。
「あれー、君このホテルの従業員?君みたいな可愛い子、一度見たら忘れるはずないんだけどな」
「ターナーさま、おはようございます」
いきなりお客様に話しかけられるのも馴れました。
「君、名前を教えてくれるかな」
「池谷忍と申します」
「忍君か。あ、そうだ、この近くに本屋ないかな」
「少々お待ち下さい。支配人に聞いて後ほどお部屋のほうに地図をお届けいたしますので」
「頼んだよ」
 プチホテルと称されるこのフジミホテルには三部屋しか客室がない小さなホテルです。
 近くにはレース場があるので期間中はレース関係者も多く訪れます。また森の奥深くにあるので、俗世の喧騒から離れて心身ともに休みたいと思う人々が口コミで集まり、中には企業のトップや王室関係者も滞在されることもある、と先輩格の慎吾から教えてもらいました。もちろんお忍びでやってこられるので偽名を使うことが多く、スタッフも特別扱いをすることはないので気にしなくていいのだそうです。
 今日のお客様はターナー様、それにランドル様御夫妻、いずれもレース関係の方々です。もうすぐ大きなレースが開催されるらしいので、午後からのお客様もきっとレース関係者の方なのでしょう。
「チーフ、ターナー様が本屋の場所を教えて欲しいといっておられました」
「そう、ではこの地図をお渡ししてくれるかな。あぁ、でも説明もあるんだったら慎吾君に頼んだほうがいいかもしれないね」
「じゃあ、俺行ってきます」
「頼んだよ」
「忍君は昼食用のパンを焼いてくれないかな。そろそろ江端君と向井君が来るころだと思うから」
「はい」
「正道も手伝いなさい」
 みんなの食事のしたくも白雪姫の仕事。余所で買ったパンよりも美味しいと誉められてから、パンを焼くのは白雪姫の大切な仕事の一つとなりました。
「しかしほんっと料理上手いよな、お姫様って座って刺繍でもしてるようなイメージだったんだけど」
「お父様が家事だけはできるようにと仕込んでくださったんです」
「卓也王が?」
意外そうな顔をした正道に白雪姫は頷きました。
「何はできなくてもお料理や家事だけはできるように、というのがお父様の方針でしたから。料理はぜんぶお父様に教えていただいたんですよ」
「じゃあ卓也王は料理上手なんだ?」
「ええ…」
 お父様は新しいお母様と仲良く暮らしているのでしょうか…。新しいホテルでの生活は忙しく、初めはこっそりベッドの中で泣いていたこともある白雪姫ですが、最近ではお城でもことを思い出す方が珍しくなりました。
 でも時々思い出す時もあり、そんな時は懐かしくて哀しくなります。
「よし、あとは少し生地を寝かしておくか」
「じゃあ私…じゃなかった僕は部屋に飾る花を摘んできますね」
 そんな気持ちを振り払おうと明るくそう言った白雪姫は、森の中へと出かけました。もちろんホテルから離れないようにという高槻さんの言葉は忘れませんが。なんといっても白雪姫はまだ継母に命をねらわれている可能性があるのです。もしかすると今この瞬間にも、白雪姫の命を狙う刺客が忍び寄っているかもしれません。
「おい…」
「きゃ―――っ!!」
 ちょうどそんなことを考えていた時に、背後から声をかけられた白雪姫は思わず大きな悲鳴を上げてしまいました。


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