愛が止まらない 2 〜sleeping beauty〜
「慎吾…? おい、起きろ」
客が来てるというのに、ソファで寝こけるとは。
フッ…まだまだ子供だな、慎吾。
「う…ん…健さ…」
また向井君、か…。(ため息)
いいかげん向井君のことは忘れろ。
いや…忘れられるわけ、ない、な。可哀相に。
こんな慎吾を見ると、兄としてやはり向井君を近づけるべきではなかったのだと今更ながらに悔やまれる。
そう…たとえどんなに慎吾にうらまれたとしても…。
(くっ…そ、それはしかし、つらい…)
「慎吾…」
そっと不憫な弟の前髪をかき上げるようになでてやる。
と、慎吾の目に光るものがあった…。
うおおおおおおおっっっ!!!
か、かわいいぞ慎吾っっっ!!!(ありがとう、向井君っ!!)←芹沢人格崩壊開始。
我が弟ながら、慎吾の寝顔は可愛い、絶品だっ!
そんなことは今更言うまでもないこと、充分承知している!
しかし…!!!
くっ…!!
こういう事態ははじめてだっ!!!
まさか、こんな慎吾が見れるとはっ!!(しかも生だっ!)
…これも、兄弟の醍醐味だな。(じ〜ん…)
とひとり感動の波に身を任せていると。
ジィー………。
…………なんだ、この音は…!?
不審に思い振り向くと、そこには。
「高槻…っ」
おまえか…。
今夜は珍しく上京してきた高槻と慎吾を交えて食事に行き、そのまま高槻を誘ってうちで飲んでいた。…さっきまでは。
が。風呂に行ったはずの高槻が、なぜ、ハンディカム片手にここにいる!?
「なにをしている、高槻!」
「しっ…おまえの声が入っちゃうじゃないか。…第一、見てわからないのか? 芹沢。(くすっ)」
お、おのれーっ…!!!
見てわかったが、訊いてみただけだっ!!
…フッ…待て。
落ち着け、芹沢貴奨。
俺は、誰だ!?
…芹沢だ。
そう…泣く子も黙る、四季グリーンホテルの、コンシェルジェだ。
俺の前に道はなく、俺の後ろに道はできる…。(じ〜ん…)
Go ahead!!
恐れず進め!!
デービッド!!
俺はマッハで自室に駆けこむと、カメラを持ってリビングに取って返した。
(ちなみにデビッドとは俺のカメラの愛称だ)
慎吾の本当の兄として、この勝負、負けられないっ!(…勝負?)
よしっ、これで慎吾の可愛いとこを激写だ!
…………激、写………。
「…高槻」
「なんだ?」
「慎吾に触っただろう…」
「………………………いや?」
「嘘をつくな! 今夜の目玉、慎吾の涙が消えてるじゃないか!」
「…ああ…。夢の中で泣いてる慎吾くんが可哀相で。つい、ね」
つい、だと〜〜〜〜っっっっっ!!!!!
嘘だ嘘だ、う・そ・だ―――っっ!!!
…これは新手の嫌がらせだろう、高槻!!
レアものの慎吾の寝顔(涙つき)を自分だけのコレクションにするつもりなんだろう、この卑怯者がっ!
と、俺が心の中で高槻批判を炸裂させていると。
「よし」
おもむろに高槻はハンディカムを片付け出して、ソファの慎吾を抱き上げた。
うぉぉぉおおおっ!!!
「高槻っなにをするっ!」
「こんなとこで寝かせておいたら風邪ひくからね」
抱き上げた慎吾に顔を近づけたかと思うと。
「慎吾くん慎吾くん?…こんなとこで寝てると風邪ひいちゃうよ?…ん!?」
人の弟の耳元で怪しげにささやくんじゃないっ高槻っっっ!!!
「…ぅっ…健…さ…」
寝ぼけた慎吾が高槻の胸元に頭をすり寄せてぐりぐりしている。
(うぉぉぉぉっ!)
「こらこら…寝ぼけてるんだね慎吾くん…かわいそうに…。寂しいんだね。わかるよ、そういう気持ち。今夜は一緒に寝ようか、ん!?」
なんだと………!?
「…うん」
だまされるな慎吾っっっっっ!!!
そいつは向井君じゃないぞっっっ!!!
(ついでに言うならおまえの兄、芹沢貴奨でもないっっっ!!!)
「さっ」
と、慎吾の寝室に向かう高槻を、俺は兄として保護者として、黙って行かせるわけにはいかない! 当然だ!!
「待て、高槻!」
勝ち誇った笑みで高槻が振り向く。(芹沢ビジョン)
「おまえは客だ。ちゃんとベッドも用意してある。…慎吾は…フッ、しかたないな、これでも一応俺の弟だからな。俺が添い寝をしてやろう」
…完璧な理論だ、フッ。
「無理しなくていいよ、芹沢。俺は慎吾くんが可愛いからね。喜んで彼の添い寝をさせてもらうよ」
喜ぶな――――っっっっっ!!!
…だから、させられんのだっ、おまえにだけはっ!!!
「とっ、ともかくっ、慎吾は俺の弟だ。俺が面倒をみるのが当然だろう」
「仕方なく見られるのは慎吾くんだっていやだよ。だから、俺が」
「俺が」
「俺が」
「俺が」
「俺が」
「俺が」
「俺が」
「俺が」
エンドレス…。
「…ん…な、に…?」
そしてとうとう慎吾が目を覚ました。
「え…あっ!ご、ごめんなさいっ高槻さんっ、お、俺っ!」
慌てて高槻の腕から逃れる慎吾。
よし、いいぞ!
「俺、いつのまにか寝ちゃってたんですね…。ごめんなさい。高槻さん。俺をベッドへ運んでくれようとしてたんでしょ?」
「いや、いいんだよ。慎吾くんがあんまり可愛いから一緒に寝ちゃおうかな? とは思ったけどね」
「子供じゃないですよ、俺…」
ちょっと赤くなって高槻に反論する慎吾…。(かわいい…)
「じゃ、おやすみなさい高槻さん。おやすみ貴奨」
バタン…。
ああ………………。
慎吾が消えたリビングは………さびしい…。
まるで火が消えたようだ…………。
「…寝るか、高槻」
「お先にどうぞ」
「…まだ寝ないのか?」
「ああ…とりあえず編集だけでもしておきたいからね。芹沢、ちょっとテレビとビデオに繋いでもいいかい?」
…はっっ!!!
「…いいよ、芹沢は先に休んでくれて」
黙々と作業を始めた高槻に、俺はすがった。
「…一緒にいさせてくれっ…」
「………これは俺のコレクションだよ?」
「…頼むっ」
「…なら、おまえも秘蔵の写真集出す?」
「…………わ、わかった」
背に腹は代えられない。
俺は、しぶしぶと部屋から1冊のファイルを取り出してきた。
タイトルは「慎吾・12歳のファンタジー」(協力:芹沢・父)。
俺だけのコレクションだったのに…。
すまない慎吾。まだ13歳と14歳は死守してるからな。(と写真に語る芹沢)
意を決してリビングに戻ると、ビデオの編集を追えた高槻が確認のために頭からテープを再生していた。
ああ………このテープは「慎吾・パールの輝きに…」と名付けよう…。
涙が、まるで真珠のように輝いていたからな…。(うっとり)
「高槻、ダビング、絶対だからな」
「わかってるって。おまえこそ、この写真…ちゃんと焼き増ししてくれよ?」
一心にビデオに見入る俺と、写真に食い入る高槻。
そんな兄たち(?)の深い愛も知らずに、慎吾は健を思い寝腐り続けるのであった。
(完)
****余談*****
ところで、慎吾くんのコレクションはどれくらいあるんですか?
芹沢 「ノーコメントだ。フッ。(余裕の笑み)」
高槻 「…芹沢にバレると困るから。ナイショということで。(くすっ)」
芹沢 「バレて困るなにがあるんだなにを持ってるんだ高槻ーっっっ!!!」
…ガシッ!!(←芹沢、取り押さえられるの巻っ。めでたしめでたし♪)