投稿(妄想)小説の部屋

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No.18 (2000/04/21 16:08) 投稿者:おとこ教室組合(まい&まりう)

おとこ教室・3 〜おとこ格付けチェック・序盤戦〜

 忍のピンチ(と勝手に二葉は思っているらしい)を救う為、二葉は『おとこ教室』への潜入に成功した。
 正義感からなのか、それともただのジェラスィからなのかは甚だ不明ではあるが、とにかく本人はヤル気満タン、鼻息も荒く、かかってこぉーい! と仁王立ちで壁に向かって叫んでいる。
 何やら大いなる勘違いをしてやたら怒っているらしい二葉の御機嫌を伺うように、忍は恋人の顔をそっと覗き込んだ。
「二葉…江端さんは入門を許してくれたけど…本当に、変な事なんて何もないんだからね? 暴れたりしないでね?」
「ふん、ずいぶんと江端って奴に入れ込んでんじゃねーか」
「もう、意地悪言わないでよ。…俺が好きなのは二葉だって、言ってるのに…」
「……忍……」
 忍は普段、こういった公衆の面前では、こんな告白はしない。
 ほんのりと頬を染めた忍に気をよくした二葉が、その頬を両手でそっと包み込んで自分の方へ引き寄せた。
 場所に若干問題はあるものの、雰囲気は最高、道場の一角は最早二人だけの世界……だったが。
「ねー、いちゃつくのはいーんだけどさー。江端さんにぶん殴られる前に、柔軟始めた方がいーと思うよぉー?」
 道着に着替えてきたばかりの桔梗が、これまた道着姿の絹一を引っ張り、ご丁寧に忠告しながら通り過ぎていった。
「桔梗くん…、あの、忍くんて、二葉くんと…」
「そ。もぉ、超アツアツラブラブカップルぅー。そばにいるとあてられちゃうから、俺達はあっち行ってよーねー、穐谷さーん」
 桔梗と絹一の会話に耳まで真っ赤にしながら、忍は急いで二葉から一歩だけ離れた。
 二葉の顔に『キョウ…殺ス!』の文字が浮かんでいるのには気付いていないようだ。
「そ、そうだっ。柔軟、やんなきゃ!」
 はい、そこに座って…と忍に促されて、しぶしぶ足を伸ばした状態で床に座ると、背中に忍の手が添えられる。
「(なんか…こーゆーのって、忍と同じ学校に行ってるみたいで…イイよな…ふふ…)」
 次第ににやけていく顔は忍には見られていなかったが、正面で一人で腕立て伏せをしていたアシュレイを大いに引かせた。
「あ、すごーい、二葉。柔らかいねー」
「お前も、もちっと柔らかくなってくれよ。したら、あんな体位やこんな体位が……」
「もうっ、神聖な道場でなにゆってんの、二葉っ!」
「でっ、痛てぇっ! コラ、忍、痛てぇっつーの!」
 また真っ赤になった忍の手に力が入り、強引に半分に折り畳まれた二葉が悲痛な叫びを上げる。
 そのまま二人でぎゃーぎゃーいちゃいちゃしているところに、道着に着替えてきたばかりの慎吾が近付いてきた。
「ねえ、忍くん。今日は抜打ちで『おとこ格付けチェック』があるらしいよ」
「うっそ! だって今日は、貴奨さんが寝技の指導するって言ってなかった?」
「さっきね…教官室の前を通る時、ちらっと聞こえちゃったんだ。たまには抜打ちでするのもいいだろう、って…」
『寝技』と『おとこ格付けチェック』という単語が引っ掛かったが、二葉は会話には入らずに黙々と柔軟を続けた。
 忍と慎吾が並ぶと、ここだけ女子高になってしまったかのような錯覚を受け、どうにも会話に混ざり辛いのだ。
「どうしよう…。俺、何も勉強してきてないよ」
「俺も…。自信ないなぁ。貴奨に寝技かけられるのよりはマシかもしれないけど…」
「でも、今度またDランクだったら、腕ひしぎ逆十字だって言われてなかった?」
「あー、そうだったー! ど、どうしようっ」
 焦る忍と慎吾のもとに、今度は口から火を吹きながらアシュレイが飛び込んで来た。
「おらっ、慎吾! 油売ってねーで、さっさと柔軟やっちまうぞっ!」
 そしてそのまま慎吾を小脇に抱えて連れ去ってしまう。
 会話に全く参加できなかった二葉は、まだ半分に折り畳まれたままの姿勢で、何とか忍を振り返った。
「おい…何なんだ、その、何たらチェックつーのは」
「『おとこ格付けチェック』のこと? あ、二葉は今日が初めてだもんね。二葉なら、Aランクいけそう」
 続けて忍が説明した『おとこ格付けチェック』の概要はというと……

『おとこ格付けチェック』
『おとこ教室』に於いて、月2、3回不定期に行なわれている試験。
 各種質問・問題に答える事により、自分が現在どの程度の男っぷりなのかを測る。
 結果により、受講生は
『A・真の男』
『B・普通の男』
『C・それなりに男』
『D・辛うじて男』
『E・もしかして…女?』の五つにランク分けされる。

 俺はここんとこずっとDなんだよな…と忍が呟いたところで、江端の集合を促す声が聞こえた。
「いいか、今日は抜打ちで『おとこ格付けチェック』を行う!
 第一問は、太鼓だ! ひとつはこの道50年の一流太鼓職人の作った最高級和太鼓、もうひとつは小学校の音楽室からかっぱらっ…ゲフン、拝借してきた大太鼓だ! お前達が真のおとこならば、どちらがホンモノの太鼓か、音色で分かるはずだ! 野郎共、気合い入れてけ―――!」
『う―――――っっス!!!』
 …盛り上がりを見せる道場の隅っこで、二葉はぼんやり
「ちがう…何かがちがう…」
 と呟くのだった。

 さて、二葉が『おとこ格付けチェック』の実施を伝えられて頭をくらくらさせていた頃、恋人を心配して外に集まっていた出待ちーズはといえば…。
「なあ、最近ここに集まってる奴、一人少なくないか?」
 柢王は辺りをざっと見回したが、先日まで自分と一緒に玄関前で張り込んでいたあの金髪がどこにも見当たらない。
「ああ、今日から二葉が教室に通いだしたからな」
「え? ここって、こっち側の人間でも入れんのか?」
 さあ…と首を傾げた卓也と柢王の間に、柔らかい金髪が割り込んできた。
「どうやら、例外もあるらしいですよ。全てはあの講師の判断によるものらしいけど…」
「…何で一樹がここにいるんだ?」
 卓也の肩に軽く頭を乗せ、セクハラ大魔人はふふふ、と微笑む。
「俺の場合は二葉の逆。講師に『似合わない』って断られちゃったんだよ」
「……まあ、確かに似合わないかもな……」
 頷くカイの横で、一樹がこっそり
「あーあ。せっかく、可愛い男の子達を触りまくれると思ったのにな」
 と呟いたのを聴いてしまい、この男の真の恐ろしさを目の当たりにして背筋を凍らせた。
 まさか…お前、今度はこっちにセクハラぶちかますつもりじゃあるまいな…と恐ろしい事を考えてしまったが、敢えて口には出さずにおいた。賢明な判断だったと言えよう。
「ふ〜ん……ここは講師の江端って奴の考えで物事が進められてるわけだ」
「それにしても、何とかしてアシュレイを取り戻さないと……。先日うたた寝をしていたアシュレイが、寝言で『骨までしゃぶり尽くされてもいい』とか何とか言っていたんです。いくら寝言だといっても、彼があんなセリフ言うはずがないんです」
 心底心配そうに溜め息を吐くティアに、アルも思い当たる節があるのか、弾かれたように顔を上げた。
「あ、それうちのミルも言ってたぜ。あいつ、結構中身は激しい奴だから、寝言で本音が出ただけだと思ってたけど、アレ、ここのせいなのか?」
「そういや桔梗もそんな寝言、言ってたな……」
「やっぱ、ここには『何か』があるんだ! 桂花を連れ戻さないとっ」
「全員で突入してみるか?」
 拳を固め、今にも扉をぶち破りそうな勢いのアルを、卓也が右手で制した。
「いや、もうしばらく様子を見てみよう。二葉も何か行動を起こすかもしれない」
「アシュレイ……大丈夫だろうか……」
 それぞれに心配そうな表情で『おとこ教室』を見つめる色ボケーズ一同。
 そして、はからずも皆の期待を一身に受けている二葉……
 その頃彼は、同志の期待を裏切るかのように、『おとこ教室』の異常な雰囲気に完全に飲み込まれてしまっていたのだった。


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