愛が止まらない
「イ、イヤだ」
と、ずりずりと慎吾は俺から離れようとする。
「高槻さんっ」
なぜそこで高槻に頼る、慎吾。
おまえの兄貴はこの俺だぞ!?
「…いいこだから。…来い、慎吾」
俺にしてはひきつりつつも最大の譲歩で作った笑顔のご開帳に…、なぜびびる慎吾。(ムカッ)
「うっ…うぇっ…高槻さぁん…」
ぐぐぐっ…。
慎吾に擦り寄られ、困った兄貴だね、とかなんとか言いながらおまえの顔は笑っているぞ、高槻。
うれしいか、高槻。
楽しいか、高槻。
………………ケッ。(怒り倍増中)
「慎吾、高槻はな、善良そうな振りで、考えてることは俺と一緒だぞ。あぶないから、来い、慎吾!」
「う、うぇーっ…」
ちっ…ミスったな。いま高槻への怒りで顔が鬼のようになっていたらしい。
慎吾を必要以上に怖がらせてしまった。(反省)
「とにかく。脱げ、慎吾」
「イヤだーっっ」
手を伸ばして、慎吾につかみかかろうとした俺の手を、高槻が代わりに跳ね除ける。
「駄目だよ、芹沢」
というやさしげで常識ぶった奴の言葉は、
「せっかちだね芹沢。慌てるこじきはもらいが少ない、って言葉、知ってるだろ?」
くくくくくっ…と笑い声のオプションまでついて俺の耳は同時翻訳中だぞ、高槻っっっ!!!(…エスパー芹沢)
待て。
…フッ…落ち着け、芹沢貴奨。
俺は、誰だ!?
…芹沢だ。
そう…泣く子も黙る、四季グリーンホテルの、コンシェルジェだ。
俺の前に道はなく、俺の後ろに道はできる…。(じ〜ん…)
Go ahead!!
恐れず進め!!
「高槻。勝負だ」
「………へ?」
こんなバカな返事を返すのは、もちろん可愛いバカな弟・慎吾だ。
高槻の返事はと言えば、
「…勝負!?(くすっ)」
…聞いたか!? 芹沢っっっ!!!
くすっ、だぞ、くすっ!!!
天下の芹沢に対して、くすっ!!!
…負けられないな、この勝負。(炎)
「慎吾くんのこの状況からして、闘わずして勝ってる感じだけど……。それで
おまえの気が済むんなら」
さ、慎吾くん、脱いで。
と、慎吾のシャツの裾をそっと指でつまんでもちあげようとする高槻。
ぬぉぉおおおおおおおおっっっ!!!!!
なぜっ、抵抗しない、慎吾ーっっっ!!!
おまえはそういうとこが甘いんだ甘いんだ、あ・ま・い・ん・だーっっっ!!!
と、ふとこちらを慎吾が見た。
ああ、やっぱり、俺たちは兄弟なんだな。
弟を見守る兄の視線に気づいたか、慎吾っ!!(感動中)
「…こ、こわいー…」
と、高槻に抱きつく慎吾。
「芹沢っ、スマイル、スマイルっっ!!」
小声で高槻に注意され、はっとした俺も心の中で反芻する。
スマイル、芹沢っ!
向井君のせいで慎吾はただいま絶賛傷心中…。
こういう慎吾が、またかわいいのだ、シマリスのようで。(向井君、ありがとう)
可愛い慎吾をより可愛く飾りつけようと、高槻と共同戦線をはって出かけてきたのに…肝心の慎吾を怖がらせてはな…。
俺としたことが…。フッ…。(貴奨が苦笑)←駄洒落に凝る芹沢であった。
とりあえず、これはひとつ貸しだな高槻。
ここ(←慎吾の服を脱がせる権利らしい)は、おまえに譲るさ。
しかし…勝負は非常なものだ。
俺を甘く見るなよ、高槻。
俺の心が通じたかのように、高槻は不敵な笑みを返した。
わかってるさ、芹沢。
ヤツの目が、そう俺に宣戦布告してきた。
ちょうどほどよく慎吾も剥けた感じだ。(かわいい)
よし、じゃあ始めるか。
「…Ready,go!!!」
俺たちは狂ったように店内を駆け巡り出した。
そう、ここは、高槻の行き付けのブティック内。
慎吾に似合うピッタリフィットな服をプレゼントするためにやってきた店。
ただ、慎吾に服を選んでやろうとして、その前に邪魔な着衣をこの兄の手で脱がせてやろうとしただけなのにな…。
兄の心、弟知らず。
慎吾の恥ずかしがり屋にも困ったものだ。(苦笑)
とりあえず、慎吾の本当の兄として、この勝負は負けられない。
慎吾を真に愛する兄は、この私だ!!(←仕事の癖が出てきた)
高槻、おそるるに足らず。
フッ………。
待ってろよ、慎吾…。
いま、ちょーベリーナイスなシャツでおまえをくるんでやるからな。
(…ああ、かわいい。/うっとり)←想像中。
…そして、店員と客の視線に晒されたままの哀れな半裸の弟を残して、兄弟愛爆走コンビはわが道を突き進むのであった。(完)
****余談****
ところで。
なぜ、慎吾くんの服を先に脱がせておいたんですか…??
芹沢 「私が見たててダッシュで持ちかえった服を、慎吾がすぐに着られるようにだ。
私は、1分1秒の無駄をも嫌悪する。それが私だ。(フッ…)」
高槻 「………たのしいから。(くすっ)」
おわりっ♪