「炎翠月下」3
アーシュのちっちゃな手が、ティアの指に絡んでくる。
ティアはその必死に掴んでくるアーシュに微笑みながら、自分の一人暮らしのマンションへ急いだ。そろそろ、アーシュにあの特製ミルクをあげる時間が迫っていたからである。それに、アーシュが眠たくなるのも時間の問題だろう。
グラインダーズには、アーシュに対する注意事項を聞かされたし、メモも取った。
「ごめんね、そろそろ、お腹すいたよね?もうすぐ、家に着くよ」
アーシュは、コクコクと頷く。
その愛らしさといったら、気を失う程である。
マンション近くの曲がり角を入ると、見覚えのある人物がティアの視界に入ってきた。
「ったく、何処、道草くってたんだお前?、俺より確か先に帰ったじゃねえか」
「・・悪かった、でも、用事があったんなら、携帯にでも連絡してくれれば・・・」
「・・・・・だったら、電源入れとけって。こいつがさ、お前のこと心配するんで様子見に来たんだ」
「お久しぶりです。だいぶ、体にご無理なさってると、お聞きしましたよ。・・・」
「ああ、久しぶりだね桂花(笑)・・・? どうしたんだ、私の格好がヘンか?」
桂花が、ティアに抱きついてるアーシュを不思議そうに思ったらしい。
柢王も気が付いていた。
「・・・あのさ、まさかとは思うんだが・・・お前、その子・・・・」
「ああ、この子か、可愛いだろ〜」
「ティア、私も低王と実は、同じコトが・・・今、頭のスミをかすめたんですが・・・」
「・・・え?」
柢王はティアにゆっくりと近づき、ティアの肩を ポンポン と、叩きながら含み笑いで一言いったのだった。
「・・・・、そうか、そうか、頑張れよ・・・。こんな若さで、(パパ)か・・・自業自得だな、で、相手は、どうしたんだ? まさか、押しつけられたか?!」
「・・・・柢王、私はそこまでは、思ってませんよ・・・・」
二人の言葉にティアは唖然とした・・・。
「・・・・柢王・・・私と、親友をやめたいらしいな・・・・」
ティアは二人・・・いや、柢王に怒りの鉄拳を押さえつつ、コトの事情を部屋で話すことにした。
ようやく、自分のマンションの部屋に到着したティアは、パタパタとアーシュの為に台所を動き回っていた。
まずは、特製ミルクに角砂糖一個でホットミルクを作った。
それから、アーシュが眠くならないうちにお風呂の準備。
とりあえず、やれること全てを終わらせて、ようやく柢王と桂花にもお茶を出せると、アーシュを呼んで自分の膝へ座らせながら話を始めた。
柢王と桂花はそんなティアの微笑ましい?! 様子に驚きつつ、苦笑するのを押さえ込んでいた。
「で、やっぱり、育てるつもりか?」
「ああ、もちろん。・・・でも、私がこんなコトするのは変かな?」
「・・・変って、わけじゃねえけど・・・・なんかな、なあ、桂花(笑)」
「・・・・私にそうやって話をふるのは困りますよ、柢王。・・・しかし、そうですね、一応、今までお付き合いしてらした女性はこれからは控えめになさらないと」
「・・・・・。厳しいご指摘、泣けてくるよ二人とも・・・・。まあ、その事は私も、素直に聞き入れるよ・・・(苦笑)何だか、この子には、そんなことでわずらわすコトはしたくないからね」
自分の膝の上で、美味しそうにコクコクとミルクを飲んでいるアーシュをティアはニコニコしながらながめる。
ティアの視線に気づき、アーシュはミルクの入ったコップをガラステーブルに置いて、ニッコッと笑ってティアの頬に両手を寄せる。
「ん?どうしたの?」
「・・・・・・ごちし・ょうしゃ・・・ま・・」
まだ、言葉はきちんとつながらずたどたどしいが、アーシュの一生懸命に伝える心の言葉にティアはクラクラしそうになる。
柢王と桂花は、そんな大弱りのティアを見て、真面目にこれからのこの二人が心配と同時に、親友ティアの幸せに何度も苦笑しつつ、祈る気持ちでいっぱいであった。
「でも、一体、どこまで成長するんでしょうね。言葉にしても、行動、感情・・・何だか、とても人形とは思えませんね」
「ああ、そうだな・・・。ティアの奴、あまり入れ込みすぎないようにさせないとな・・・」
「・・・・あなたも、そう、思いますか・・・。寿命か・・・・」
ティアの幸せを祈る二人は、その事だけが心配のよぎる想いであった。
「さあ、もう、ベットに行こうね」
ティアの指に手をつないだアーシュがニッコリ笑っていた。