「ばれんたいん。」2
「一樹のバレンタインチョコレート講座」
「じゃあ始めるよ。まずエプロンして汚れると困るから。」
バレンタインのチョコレートを買いに向かったデパートの地下は女の子だらけで、そこで既製品を買って渡す事を断念した帰り道桔梗と忍が考えた事は自分達でチョコレートを作ると言う事だった。
しかし作り方はもちろん何も知らない二人であるため一樹に泣きついたのだ。一樹に相談したところ作り方を教えてもらえる事になり、ローパーの空き時間である週末の午前中に講座を開いてもらえる事になったのだ。
そしてこの場には桔梗と忍、そして一樹の知り合いのとっても綺麗な男の人穐谷絹一の姿も在った。
最初一樹に絹一を紹介されたとき思った事は、「綺麗な人のところには綺麗な人間が集まるんだな。」という漠然とした感想だった。口を開かないと少し冷たい感じのする絹一たが笑顔と話し方が優しく感じられた。紹介されて口を開くまでお互い緊張はしていたが、作業を開始する頃には打ち解けていた。
一樹の掛け声に三人はいっせいにエプロンをつける。
「なんか皆かわいいね…。」
桔梗、忍、絹一と並んだ姿のかわいらしさは抜群だった。しかし同時に面白かったらしい、必死に笑いをこらえている。
桔梗は頬を膨らめ怒り出したが、忍と絹一はお互い顔を見合わせ諦めのため息を付く。
「さ、気を取り直していくよまず最初にチョコレートを細かく刻んで。」
『はーい。』
買ってきたおいしいと言われる板チョコを包丁で細かく切り始める。それがいがいとうまく行かないものだ。お菓子作りなんて物は皆初めてだし、絹一に関しては包丁を持つ事すらめったに無いのだ。鷲尾の包丁捌きを見ているのが殆どである。
悪戦苦闘しながらやっと細かくしたところで次は湯銭で溶かす。
「何でわざわざ湯で溶かすんだ?直接火にかけちゃだめなの?」は桔梗談。
「電子レンジで溶けないの?」は忍談。
「……。」分からない事がいっぱいなのでとりあえず言われた事に従うしかない絹一。
「やってみれば?せっかく刻んだチョコレートだめにしたいんだったら。」と冷ややかに一樹。
おとなしく熱湯の入ったボウルの上に刻んだチョコレートの入ったボウルを置いてゆっくりと溶かす。
「本当はチョコレートとかの温度も気にしないといけないんだけど面倒だからゆっくり溶かして。」
『はーい。』
以外に大雑把な一樹先生。
「全部溶けた?」
『はーい。』
「そしたらここで生クリームを入れるんだけど、レンジ一回人肌程度にあっためて。」
「人肌?人肌?ってどのくらいー?」
「卓也の肌の温度ぐらいだよ。」
「なーるほど。」
忍も絹一もお互いの恋人の体温を思い出したのか頬が少し赤くなる。
どうして一樹さんと桔梗の会話は…あああああもう! やんなるな思い出しちゃったじゃないか双葉の体温。
「なーに2人ともほほ染めてるの?」
なんて意地悪そうに聴いて来るし! 分かってるくせに。
そんな事をしているうちに生クリームが温まり、桔梗がレンジから持ってきて配る。
生クリームを入れてゆっくりとチョコレートと合わせていく。
「全体にとろとろしてきたら、次にフレーク(シリアル)をサランラップで包んで握りつぶす。細かくなったらそれをチョコレートの中に入れると。」
『はーい。』
「よく混ぜて。」
『はーい。』
混ぜてるだけになるとだんだんと楽しくなってくる。というか簡単だ。面倒くさいのは最初だけだって事がわかる。
「なんか楽しくなってきた。」
「忍くんもそう?僕もだよ。」
独り言のような呟きに絹一が返してくる。それに添えられた笑顔は大人の男の人なのになんだか可愛らしかった。それにつられて僕もへへ、と笑みを返す。
「忍君はまだ高校生?」
「はい。」
「そっか、いいね若いって。一樹さんにこんな若い友人がいるとは思わなかったよ。」
「へへ…今日は何でこられたんですか?」
純粋な興味として聞いてみた。ここにきているって事は恋人は99%男の人なんだろう。でも分かる気がする絹一さん綺麗だから、周りがほっておかないだろうな。
「一樹さんに電話をもらって、チョコレート作るんですけど来ませんかって。」
「そうなんですか。」
「そう来たら若い綺麗な子が2人もいるからびっくりした。」
今なんて言ったんだこの人? 若くて綺麗って僕の事も入ってるんだよね。桔梗は分かるけど僕は…。それに自分の方が十分綺麗じゃないか。
「そんな・・・。」
反論しかけたちょうどそのとき次の行程がやってきたため一樹先生の声がかかる。
「次ぎ行くよー。次にアルミのバットにラップひいてその上にスプーンで均等にある程度間空けて置いてって。置く量で大きさ決まるからなるべく同じぐらいの分量でね。」
『はーい。』
スプーンですくってバットの上に乗せていく。その間も絹一さんに言われた事が頭の中でぐるぐる回っていた。