弧月愁々
外に干しておいた薬草をパオの中に取り入れると桂花には何もすることがなくなった。1度読み終えた本を読み返すことも、新しい薬を開発する気にもなれなかった。
「子供だと思っていたのに・・」
ずるずるとその場に座り込む。夕暮れ時、パオの外は風が出てきていた。熱い布地を通して聞こえる物悲しい風の音が、ますます桂花を滅入らせる。
今日のカイシャンの言葉が、あの表情が、忘れられない。
成長するに従い、ますます最愛の男の面差しを思いださせる子供。
子供を見守るまなざしが、いつしか意味合いが変わっていることに子供は気づいていた。
剣の稽古をしていたカイシャンが、離れたところで稽古の様子を見ていた桂花を見つけたときにふと見せた表情に、桂花が最愛の男の面差しと重ね合わせた瞬間だった。
「俺の後ろに誰を見る」
ひやりとした。
桂花を見上げる瞳は容赦のない怒りと悲しみに深く沈んでいた。
幼さを残しながらも弾劾するその声が、桂花をまっすぐ貫いて
言葉を失わせた。
剣を持ったまま一歩ずつ近づいてくる。
「誰なんだ・・・」
剣を柄を持った右手に痛いほど力がこもっているのがわかった。