通りにて (後)
そして手だけではなく絹一の当たりも少々冷たい。忠告を聞かなかったことがお気に召さないらしい。目を合わせても、ふいっと逸らされてしまうのだ。
まぁ、ふたりでいる時にしか見せないであろうそんな表情も可愛い…。
だがしかし、いつまでも絹一に膨れっ面をさせておく訳にはいかない。
せっかく外国の地にふたりっきりなのだ。ふたりでいるのだから、やはり膨れっ面は頂けない。
絹一の笑顔と手の温もり、両方手に入れてやろうではないか。
「絹一、手」
鷲尾は絹一の目の前に自分の右手を差し出した。
「え? なんです?」
「お手」
「お手って…。俺は犬じゃありません」
ますます膨れた顔で、また目を逸らされてしまった。しかし鷲尾は負けない。
「いいから手、貸せって」
なんなんです? と言いたげな目で鷲尾を見、絹一は渋々自分の右手を鷲尾のそれに重ねた。
鷲尾は手首を掴み無言のまま右手から手袋を奪い取り、少し小さ目の手袋を自分の右手にしっかり装着した。
「ちょっと! 俺のですよ!」
「いいからいいから」
裸になった絹一の右手と自分の左手を繋ぎ、それをまた自分のコートの左ポケットに突っ込んだ。
「よし」
「何がよしなんですか! 昼間ですよ!? 人が見てるじゃないですか!」
顔を朱に染めて必死にポケットから手を抜こうともがく絹一はそれは可愛らしかった。
そんな絹一にかまいもせず通りを闊歩していく鷲尾に半ば引きずられるように、絹一も仕方なくその後ろについていった。というよりもついていかざるを得ないのだが。
たったこれだけのことでこんなに嬉しそうな顔をされては…。
人目は気になったが、鷲尾の嬉しそうな顔に流されてしまう。
「……もう。今時の中学生だってこんなことしませんよ…」
結局自分はこの男に弱いし甘いのだ。
「いいだろう俺たちは。イマドキの中学生じゃねぇんだ」
片目をつぶって寄越した鷲尾にうつむき、今だけですよ、と絹一は小さく応えた。