5ヶ月ぶりの…
絹一がいる街は、ロシアの極東にあるハバロフスクという街だった。
新潟からの直行便が週に2便出ていて、空の旅は2時間ほどだ。冬に行けば、観光シーズンから外れているからチケットも安い。
近代的な街ではないが、数年前に比べれば随分ときれいになったらしい。
しかし空港は寒々しいものだった。
夜遅く着いた所為もあるが、コンクリートの壁の他には何もないような所だった。灯かりも何となく暗い気がする。
俺がここに着いて最初に抱いたイメージは、灰色の街だった。
飛行機は、新潟を出る時点で3時間半遅れていた。
この便はハバロフスクからの折り返しだ。向こうを出る時点で3時間半遅れていたので、必然的に日本からの離陸も遅くなった。
その所為で、ハバロフスクに着いたのは夜の10時すぎだった。
絹一が言ったように、言葉の心配は全く必要なかった。空港には日本人が多く、運命共同体だとでも言うように困ったような顔をしていれば通訳の声が飛んでくる。
チェックを終えたのは飛行機を降りてから40分程経ってからだった。
飛行機が遅れた事は絹一も知っているだろうが、きっともうここで随分待っているはずだ。
「鷲尾さん!」
俺を見つけるとすぐに、絹一は走ってやってきた。
尻尾をぶんぶん振っている子犬のイメージだ。思わず抱き締めたくなる様な。
「悪かったな」
「あなたの所為じゃありませんよ」
行きましょう、と微笑んで絹一は俺の腕を取り、さっさと出口に向かった。
ホテルまでは、ユーリの車で送ってもらった。
礼を言って早々に部屋に消えようとした俺を見て、ゆっくり休んでと言ったユーリという男は、なんとなく俺たちの関係を知っているのかもと思った。
しかしそんなことはどうでも良かった。早く絹一を抱き締めたかった。
抱き締めて、俺のものだと確認したかった。
独占欲は、自分でも気づかないうちに随分膨らんでいた。
厚いコートはもう脱がせた。
早急に唇を重ね、会えなかった5ヵ月の隙間を埋める。
これだけ離れていても、絹一はもう不安を感じたりしないはずだ。
そういう時期は過ぎた。
「痩せたな」
腕に抱き込んだまま離せない。
「そうですか?」
「ああ」
確かめるためと、絹一の気分を高めるため、直に腰を撫で上げる。
吐息のような声が、肩に埋まった絹一の口から漏れた。
その夜は、ベッドから降りる事はなかった。