投稿(妄想)小説の部屋

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No.144 (2000/10/30 10:14) 投稿者:皐月

ロシアから愛を込めて

 絹一から、ロシアに来ませんか、という電話が来たのは1月の末だった。
 絹一が渡露してから4ヶ月、ハガキは何度か届いたが、電話が来たのは初めてだった。

 絹一がロシア語を学び始めたのは1年半程前。以前一緒に仕事をした、ユーリという日露ハーフの男に勧められてのことだ。彼曰く、これからはロシアの時代だ、ということらしい。
 確かに、今世界で注目されているのはロシアや中国などの大国だ。実際に日本でも、ロシア語の就学率は増えている。
 大陸が注目されているのは絹一も俺も知っていたし、ユーリの強い勧めもあって、絹一はロシア語に手を出す事にした。
 その後絹一は、1年も経たないうちに日常会話程度をこなせるようになり、去年の10月、外国語を覚えるにはその国で暮らすのが一番だからといって、半年の予定でロシアに渡った。
 ロシアにいる間、仕事は休むのかと思えば、できれば少しでもやりたいという。向こうに行ってみてから、出来そうな依頼だけを受ける事にするらしい。
 外国で暮らすだけでも大変なのに、随分無茶をする。
 それでも絹一がやると言うのなら、俺に止める権利はない。

 見送って4ヶ月、初めてかかってきた電話が「3月になったら、あなたもロシアに来ませんか」で、いきなりなんだと問えば、返ってきた答えは「別に理由なんてありませんよ。ただあなたがここにいたらと思っただけです」だった。
 いきなりなんだと言ってはみたものの、掠れた声で会いたい、と言われた瞬間、答えは決まっていた。
 3月の半ばなら、まだ1ヶ月以上ある。ビザやらチケットやらの支度なら、余裕でできる。
 その事を告げるとあまりにも嬉しそうな声が返ってきて、ただそれだけで、電話の向こうにいる絹一を抱きしめてやりたかった。


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