麗なる君よ、彼の空を翔けよ 1
「こんばんは、卓也さん」
「よう。久しぶりだな」
ロー・パーに来るのは2週間ぶりだった。
少しは大人になりたくて、一樹さんに甘えるのはちょっと控えようかと思ったんだ。
そう決心したのが2週間前。
でもこのところ学校でいろいろあって…。自分で何とかしなくちゃって思うんだけど、やっぱり一樹さんに聞いて欲しくて。
俺のなけなしの根性は2週間で終わったんだ。…だめだな、俺。
でも一樹さんはいないみたいだ。
そんな俺の頭の中が見えたみたいで、卓也さんが教えてくれる。
「一樹なら、上だ」
上にいるのか。それが分かっただけで、何となくほっとしてしまう。
……一樹さん依存症かな、俺。
そんな病気があったら、俺はきっと重症で、病院から出してもらえなくなる。
なんせたったの2週間で禁断症状だ。
そんなことを考えながら、俺は目だけで卓也さんにお礼を言って上に向かった。
形だけのノックを一応して、ドアを開ける。
「一樹さん?」
返事はなかったけど、入ってもいいよね。
「あ…」
いた。
ソファの上、一樹さんは仰向けで、眠ってるみたいだ。
ぱっと見ただけで仕立てのいいものだと分かるゆったり目のパンツに、上はさらりとしたシャツ1枚で、ボタンは3つ開いてる。
まったく…、こんなとこでこんな格好で寝てたら風邪引いちゃうよ。もう。
エアコンはついてるけど、外の寒さに比べたら設定温度は低い。
寒がりのくせに、寒いといろいろ文句言うくせに、厚着するのも部屋の温度が高いのも好きじゃないんだ。この人は。 …城堂さんが、そういう人だったのかもしれない。
俺は隣からタオルケットを持ってきて、一樹さんに掛けてあげた。
そのままソファのすぐ横に座る。一樹さんの寝息が聞こえてきそうな距離。
至近距離で見る一樹さんの顔はすごく綺麗で。
俺はやっぱりこの人が好きなんだなって思う。もちろん顔だけじゃない。
この人の想いは俺の上にはないけど、それでもいいんだ。俺はこの人に幸せになって欲しい。
幸せになって欲しいけど、こうやって眠ってる一樹さんを見ちゃうと、儚い印象が強すぎて。
この人には、生きようとする気力がないんじゃないかと、時々思ってしまう。
強くて優しくて何でも持ってそうな人だけど。でもそういう一樹さんは城堂さんという人がいたから、なのかな。
…金髪。ソファの端からもれてる…。
触りたいけど、触ったら起こしちゃうかな。
我慢する振りをしてみるけど、やっぱり触りたい。…少しだけ。
手を伸ばして、そっと髪に触れてみる。柔らかくて、絹みたいな手触り。ふわりと広がる、トワレの匂い。
いろいろ聞いて欲しいことはあったけど、あなたの寝顔見たら、なんかどうでもよくなっちゃったな。
一樹さんの甘い香りと近くにある体温に誘われて、俺はいつのまにか眠ってしまった。