麗なる君よ、彼の空を翔けよ 2
誰かが髪を撫でてくれている。その時俺は自分が今どこにいるのかも分からず、完全に寝ぼけた状態だった。
目を開けてみたら、目の前は…。なんだ?
「おはよう、忍」
…そうだ。ここはロー・パーの事務所で、ソファで一樹さんが眠ってて…。
そこまで思考が追いついて、俺はがばっと頭を上げた。
どうやら俺は机にうつ伏せて寝るみたいにして、ソファで眠ってたらしい。
ってことは、俺が枕にしてたのは一樹さんの左腕だ。
「…あ! ごめん、なさい。重かったですよね」
ああ、顔、きっと真っ赤だ。
「平気だよ。よく眠ってたね。触わっても起きなかったから…。どうしたの」
「なんでもない、です。ちょっと寝不足だっただけで」
「そう?」
この人は何も言わなくても、俺がヘコんでるのなんてもう分かってる。
微笑んでもらえただけで、胸の重りが取れたのが分かる。
「よいしょっと」
一樹さんは起き上がって伸びをしてる。下に降りるのかな。…と思ったけど違ったみたいだ。そのまま俺の隣に腰を下ろしてしまった。
「お店はいいんですか?」
そろそろロー・パーの開店の時間だ。
「よくないんだけど…、今は忍といたい気分」
言いながら、消えそうな笑顔で笑うんだ。…なんとなく、いつもと違う。
「自分の側で、誰かがくつろいでくれるのは嬉しいよね」
「え?」
「目が覚めたら忍の顔があって…、びっくりしたけど嬉しかったよ。忍は、俺に気を許してくれてるんだなって。俺は忍に赦されてるんだなって思ってね」
「…赦す?」
「分からない?」
「なんとなく…」
「なんて言ったらいいかな…。難しいね。…でもとりあえず、俺はひとりじゃ
ないのかなってね、思ったよ」
信頼されてるってことかな。ちょっと違う気もしたけど、俺は一樹さんに言われたことが嬉しくて。
俺が一樹さんにしてあげられることなんて何もないと思ってたから。
この人は何でも持ってて。いつもいつも俺はもらってばかりで。何か返そうと思っても、その度何もない自分を思い知る。でもこの人は、俺が隣で眠ってただけで、嬉しいって言ってくれるんだ。
それだけで、俺にはもう充分な言葉だった。