愛のティアランディア(中)
「大丈夫?」
至極心配そうなティアランディアの声。
「おまえっ、真っ昼間からそんなこと口にすんじゃねえっ」
アシュレイの顔は真っ赤である。顔どころか全身が真っ赤である。ストロベリーブロンドが逆立ちそうな勢いだ。
「だって、ほんとだもの。甘くて、なめらかで…。触れたところからどんどんとけてやわらかくなって……」
「うわーっ、うわーっ! うわーっ!!」
更に言われてアシュレイは憤死寸前。
しかし逃げたくても手首をつかまれたままで逃げられない。
そして火に油を注ぐようなセリフがティアランディアの口から流れ出した。
「実際、おまえのはすごく甘いし…。好みで言ったらチョコよりす」
「それ以上言うなーっ!!」
おまえの、が意味する事に気づいて、チョコより好き、と言おうとしたティアランディアの唇を、アシュレイは両手で思いきり塞いでいた。
何事もなかったかのようにアシュレイの手を剥がしながら、でも手首はつかんだまま(ティアランディアは策士である。いかなる場面においても、アシュレイを逃がさないための最善の策が、彼の頭の中にはある)、ティアランディアはこんなことを言う。
「だめだよアシュレイ。そういう時は手じゃなくてこっちで塞ぐものだよ」
「あ? ん」
逃げる隙を与えないまま、ティアランディアはアシュレイに唇を重ねていた。
こっち、は唇の事。黙らせるにはこれが一番である。
手首はひとつにまとめられ腰を引き寄せられて、何度も角度を変えて繰り返される。
恋人の策にアシュレイはまんまと嵌まっていた。
と、昼間にしては少々濃厚なそれの真っ最中に、柢王と桂花がやって来た。
「いい度胸じゃねえか、おまえら。俺たちが来るのを忘れてたか」
「守天殿……」
桂花の美貌が引きつっている。
柢王も、呆れたような可笑しそうな苦笑を浮かべている。
ふたりが現れてやっと解放されたアシュレイの息は、すっかり上がっていた。
「見られちゃったよ、アシュレイ。どうしよう」
さして困った風でもなく、おっとりとティアランディアは答える。
「ど……っ」
すっかり慌てたアシュレイに答えられるはずもなく。
「せっかく久しぶりに4人揃ったんだし、ゆっくりお茶でも飲もうよ。…チョコレートもあるし」
ね? と、とびきりの笑顔つきで無言の圧力をかけられ(ね? はティアランディアの得意技である)逃げられないと悟ったアシュレイは、手首だけは解放してもらった。
久しぶりの再会を祝い、3人は既に会話に花を咲かせている。
さっきの事は、もう忘れたらしい。
アシュレイだけが会話に参加せず、居心地悪そうにお茶をすすっていた。