愛のティアランディア(後)
「ねえ、柢王」
ティアランディアの瞳からは、再びセクハラ光線が出始めていた。
「うん?」
「桂花も、チョコレートみたいに甘いでしょ?」
ぶっ。
アシュレイ、本日2度目のお茶噴射。
桂花も噴き出さなかったものの、しっかりむせている。
そんな桂花を気遣いながら、柢王はさらりと答える。
「そうだな…、ウィスキーボンボンとか、酒の入ったやつだな」
「うん。そんな感じだね。ちょっと苦目で高級そうな…」
世間話でもするかのような口調である。
そのふたりに、立ち直った桂花が声を上げる。アシュレイはまだ沈没している。
「守天殿っ。納得しないでください!」
「アシュレイは、ミルクたっぷりだよ。柢王」
ティアランディアは困ったような、でも嬉しそうな顔で、ほとんどのろけにも近いセリフを口にする。
桂花の叫びなんて、完全無視である。
「ああ…。甘そうだな…。俺はやっぱりビターの方がいいな…」
「てめーら、ふたりで勝手にやってやがれっ。行くぞっ、桂花」
アシュレイ、復活。
「そうですよっ。あなたがたのことなんて、もう知りませんっ。おふたりで好きになさってください!」
アシュレイと桂花、すっかりご立腹。
普段の仲の悪さなどどこ吹く風。ふたりは肩を並べて執務室から出て行った。
昨日の敵は今日の友。
アシュレイと桂花が出て行った後、残された方のふたりは、しばらく無言で冷めかかったお茶を味わった。
「このぶんじゃあ、しばらく口きいてくれないな…」
「冗談なのにね……?」
「なぁ? あんなに怒ることないのにな? なんであんなに堅いかな、ふたりとも」
「やりすぎたかな…」
「ちょっとな…」
多少の反省はしながらも、怒った顔もかわいい、などと思っているふたりである。
愛ゆえの言葉も、照れ屋さんのアシュレイと桂花には刺激が強すぎた。
「桂花、明日手伝いに来てくれるかな…」
「仕事の約束はしてるんだろ?」
「うん、そうだけど…」
「だったら桂花はちゃんとやるぜ? …でもたぶん、必要事項は筆談だな…」
「筆談か…。淋しいな…。…やられたことあるの?」
「…ああ。一度な……」
自業自得である。
予想通り、アシュレイと桂花の、ティアランディアと柢王への無視は、その後1週間続いた。
おわり