愛のティアランディア(前)
ティアランディアが、執務室でいつものように書類の山と格闘していると、窓からアシュレイが顔を出した。
「アシュレイ、いいところに来たね。チョコレートがあるよ」
宙に浮いているアシュレイに、降りておいでと声をかける。
大好きな優しい笑顔で微笑まれて、きゅっと心臓が痛くなる。それを隠すように少しぶっきらぼうにアシュレイは言葉を返す。
「チョコレート? なんでそんなもん」
ここにあるんだと問いたげなアシュレイ。窓から流れてくる風に、ストロベリーブロンドがふわりと揺れる。その髪を眺めながら、ティアランディアは答える。
「さっきまで東の使者殿が来ていてね。お土産に持ってきてくれたんだ」
それを聞いて、アシュレイは早速一つ、チョコレートを口に放った。
「ふーん。あ、うまい」
「ね?」
満足そうに微笑みながら、ティアランディアはアシュレイの為にお茶を用意している。
今日はこれから柢王と桂花も遊びに来る予定で、カップは既に4つ揃えられていた。
ふたり分のお茶を入れ片方をアシュレイに渡し、自分でも一口飲んでみる。
「やっぱり、桂花の入れてくれたお茶の方がおいしいな…」
それでもアシュレイの為に自分でお茶を入れてあげられる事が出来るだけで、ティアランディアは幸せだった。
アシュレイはチョコレートが気に入ったらしく、宙で胡座をかいたまま、チョコレートとお茶を交互に口に運んでいる。言葉は最小限でも気まずい沈黙が流れている訳ではなく、穏やかな空気がふわふわと浮いている。
「ねえ、アシュレイ」
「なんだ?」
いつになく、機嫌の良さそうなティアランディアの顔。久しぶりに会えたのが嬉しくて、少し暴走したい気分だ。
「アシュレイも、チョコレートみたいだよね」
「は?」
チョコレートに気を取られていて、ティアランディアの瞳から“セクハラしたい光線”が出ていることにアシュレイは気付かない。
「だから、アシュレイの体もチョコレートみたいだよね」
ぶっ。とお茶を噴き出すアシュレイ。
これがいけなかった。
むせて逃げ遅れたせいで、アシュレイは心配して近付いてきたティアランディアに捕まってしまった。
ティアランディアは逃げられない様にアシュレイの手首をつかみ、空いている手で背中をさすってあげた。