投稿(妄想)小説の部屋

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No.125 (2000/09/26 17:06) 投稿者:Shoko

太陽に吠えた危ない刑事たち〜現場到着編2・西部警察〜

「やっぱり来てるね」
 忍は西部警察と書かれたテントの前でぽつりと言った。
「来てるって…誰が?」
「ホラ、東部の向井さんだよ。あんなに若いのにもう警部補なんだって。すごいよね」
 その言葉に二葉は、忍の視線の先を追った。
 二葉よりは少し背の低い、金に近い茶髪の細めの男が立っていた。
(あれが向井健か)
 二葉も東部の向井健の噂ぐらいは聞いていた。
 東部で検挙率1位をここ数年維持し、かなり荒っぽいやり方で捜査を進めるという。
 別に今まではライバル意識もなかったし、特に気にもしていなかったが、忍が誉めたことが気に入らない。
 しかも忍はまだ健を見つめている。それがますます気に入らなかった。
「ふーん」
 面白く無さそうに、頭をかきながらどうでもいい、と言わんばかりの返事をする。
 その声が冷えきったものだったのか、ビクッと忍が肩を震わせてゆっくりと振り向いた。
 二葉は熱視線を送っている忍も相手も見ていたくなくて、全く反対の方向へと顔を向けている。
 そんな忍を見ていると、無理矢理にでも自分の方に向かせて、「他の男なんか見るな!」と叫んでしまいそうになる。
 さすがに、ここでそういう訳にはいかない。腕を組んで、そっぽを向いているしかなかった。
 振り向いた忍は二葉の様子をみて即座に、しまった! と思った。
 一気に機嫌が悪くなったのは、自分が健を誉めたことに原因だともわかった。
 ここで二葉に戦意喪失されるわけにはいかない。今日は特別な日なのだから。
 大三元を逮捕するチャンスが今日はある。どこの警察署が逮捕してもいいとはいえ、できれば自分の署が逮捕したいという気持ちはある。
 その大三元逮捕に二葉は絶対に欠かせない。二葉は卓也と並んで西部警察の要とも言える存在なのだ。
 なんとかしないと、と忍は焦る心を押さえつつ、二葉の機嫌を浮上させるため、誉めにかかる。
「で、でも二葉だってすごいよね」
 何が、と冷めた目で忍を見る。その冷たい視線にめげてしまいそうになったけれど忍は言葉を続けた。
「だって、うちの手柄だってほとんど、二葉が挙げたものだし、もう少しすれば警部補にも昇級できるって評判だよ」
「うわさだけだろ。そんなすごくねーよ」
 いつもなら、これで機嫌が良くなるのだが、今回はだめらしい。
(よっぽど、怒ってるんだ…)
 二葉の怒りの深さに忍はとどめの一発を放つことにした。
 二葉の腕にそっと自分の手を置いて、顔を見上げる。
「俺、二葉が現場にいるの見るの好きなんだ。現場でがんばってるお前ってかっこいいし」
「え?」
 驚いたような顔をして、二葉は忍を見つめた。
「やっぱり、大三元は二葉に逮捕してほしいな、俺」
 二葉を見つめにっこりと微笑んで忍は言った。二葉と二人で現場にでるようになってから覚えた操縦法だった。
「マジか?!」
 こくんと頷く。それを見て満面の笑みを浮かべた二葉は忍をテントの裏に引っ張り込む。
「二葉っ! 何する気だよっ」
「英気を養おうと思って♪」
「予告を前に何言ってるんだっ!」
「俺に逮捕してほしいんだろ? だったら少し黙ってろよ」
「〜〜っ!」
 それを出されると反論できない。そういったのはほんの数秒前のことなのだ。
 不機嫌のどん底から一気に上機嫌の頂点に達した二葉はいつもの調子をとりもどしている。
(のせすぎちゃったかな?)
 二葉の腕の囲いを解くこともできず、逮捕にあたって異様なやる気を見せるだろう二葉に一抹の不安を覚えて、忍は静かにため息をついた。


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