太陽に吠えたあぶない刑事たち〜予告状編・2〜
南部警察、捜査1課。
「…ということらしい」
捜査1課のボス、冥界教主が予告状を読み上げると、案の定、アシュレイの怒りが一気に最頂点まで上りつめた。
「ふざけたことぬかしやがってっっ!! 今度こそ、ぶっ殺してやるっ!」
「アシュレイ…落ち着いて」
「そうだぞ、頭に血がのぼってると失敗しかねないからな」
ぽんぽんと柢王がアシュレイの頭を撫でる。
「うるせぇっ! 俺はあいつには借りがあるんだっ! 今度こそ逃がさねぇっっ!!」
ふつふつとアシュレイの髪が怒りに反応して逆立つ。
「それと、捜査は4警察との合同となったのでな、そのつもりで」
その冥界教主の言葉がアシュレイの怒りの火に油を注ぐ。
「なんだとーーっ!!」
握りしめている拳はブルブルと震えている。このままではこの刑事部屋に穴が開くどころではすまない。
そう思った柢王はティアランディアに合図を送った。この部屋が黒焦げになるまえに、守護膜の中に取り込んでしまえ、と。
その合図の意味を察したティアランディアは、ゆっくりとアシュレイに近づき、自分ごと膜でおおってしまった。
「…っ! 何しやがるっ! ティア出せよっ!!」
「だって、放っておくと机の一つじゃすまないだろう? 経理課の方からも苦情が来てることだし、とりあえず、このまま現場に行こう。ね?」
「ちっ、…わかったよっ!」
そうはいったものの、まだ怒りは治まらない。絶対俺が捕まえてやる! とアシュレイは心に誓った。
そして南部警察の刑事達も現場に急行した。
北部警察、捜査1課。
「…西部警察の城堂課長からそう言う申し出があった」
ボスであるクラウディオ・サルヴィーニは椅子に座ったまま、部下達を見回していった。その顔には不満の表情がありありと見て取れた。
「別にいいんじゃねーか? 合同だろーが、何だろうが、要は捕まえりゃ」
鷲尾も椅子に座ったまま、サルヴィーニを見ないままに答える。この二人は本庁に居た時から犬猿の仲だったらしい。
ある事件の責任を全部負って鷲尾が北部に来た2年後の今年の春、サルヴィーニが課長として本庁から移動してきた。サルヴィーニは鷲尾の顔をみたとたん、形だけの微笑を浮かべ
「あいかわらず、汗水垂らして走り回るしかできないようだな」
そうのたまった。それに対し、鷲尾は
「自分の眼で確かめないと気がすまないタチでな。他人まかせにしておいて、提出した証拠がニセモノだった、てなことになると目もあてられんからな」
と、煙草をくわえたままニッと笑ってサルヴィーニに返したのだ。サルヴィーニは眉を少ししかめると鷲尾から離れて行ったが、昔この二人の間になにかあったのは確かなようで、それが原因で犬猿の仲ということになったのだということも、絹一には見て取れた。
このやりとりを心臓をドキドキさせながら見ていたのはおそらく絹一だけでなく、捜査1課の刑事全員だっただろう。
ことあるごとに、鷲尾とサルヴィーニは捜査上の見解の違いで衝突し、間に絹一とギルバートが入ってなんとか潤滑油の役目を果たしていた。
今回もそうなるのではないか、と絹一がギルバートに心配そうな顔を向けると、ギルバートも同じように思っていたらしく、しょうがないなと言わんばかりの苦笑を絹一に返してきた。
そんな二人の思いはどこ吹く風のごとく、サルヴィーニの冷たい声が部屋に響いた。
「合同でもかまわん。ただ、捕まえるのはうちでなければ困る」
「なんで」
はじめて鷲尾がサルヴィーニを横目でちらりと見た。攻撃的な物言いに絹一が鷲尾をたしなめる。
「鷲尾さんっ。一応上司なんですからっ」
「どこが捕まえたっていいじゃねぇか。悪人がひとりこの世から減るんだったら。そんな風に縄張り意識全開にしてるからいつまでたっても逮捕できないんじゃないのか?!」
「…とにかく、うちが捕まえる、そういうつもりで取りかかってくれ」
あくまでも喧嘩腰の鷲尾に話は終わりだというふうにくるりと椅子を回して窓の外に目をやる。
しばらくサルヴィーニの背中を睨み付けていたが、鷲尾はジャケットを手に持つと、キーを握りしめて足早に駐車場へと向かう。鷲尾のいらいらとした背中を絹一が慌てて追いかけた。
「じゃあ、俺も…」
ギルバートも鷲尾達の後を追おうとして立ち上がった。
「ギル」
「ん? なんだ?」
「いいか、大三元に手錠をかけるのはお前だ」
「…どういう…」
「あの大三元を逮捕したという実績を持って本庁に行けば、お前はいずれ頂点に立てる。いいな、大三元を逮捕するのはお前だぞ」
その言葉に反論をしかけたが、今は時間がない。その言葉には頷かずに行ってくると一言告げると、ギルバートは走って鷲尾達の後を追った。
そして北部警察の刑事たちも現場へ急行する。
そうして、『梅乃谷』邸に各警察署選りすぐりの刑事たちが集まることとなった。
果たして、世紀の大泥棒、大三元は逮捕できるのか?『赤紫のバラ』は守り切ることができるのだろうか?
<続>