太陽に吠えたあぶない刑事たち〜予告状編・1〜
東部警察、捜査1課−。そこに無記名の封書が届けられた。
『拝啓、東部警察の諸君。君たちと合いまみえる時が再びやってきたようだ。
明日、午前1時20分に『梅乃谷邸』の宝、『赤紫のバラ』をいただきに参上する。
止められるものなら、止めてみたまえ。盗賊団 牌・大三元』
捜査1課のボス、芹沢貴奨が手紙を読み上げたとたん、その場から声があがる。
「…大三元のヤロウ、ふざけたマネしてくれんじゃねーかっ! 今度こそぜってー捕まえてやるからなっ!!」
バンッと机を叩いて東部警察の第1の功労者、向井健が立ち上がる。
「芹沢、どうする? 相手はあの、大三元だぞ。こちらだけでは不利だと思うが…」
冷静な声で意見を述べるのは貴奨の片腕、高槻光輝だった。
「そうだな」
ボルテージのあがった健を横目で見ながら、貴奨がどこやらに電話をかけはじめた。
『大三元』とは盗賊団『牌』のボスの名前で、今まで煮え湯を飲まされた警察署は数知れず、という警察とは犬猿の仲(警察と仲のいい泥棒もいないだろうが)の団体だった。
「わたくし東部警察の芹沢と申しますが、捜査1課長の城堂さんは…」
「貴奨っ!!」
ライバル署の課長の名前を聞いて慎吾がとがめるような声を出す。
それを諌めるような目で一瞥すると再び電話に向き直った。
「ご無沙汰しております。ええ、そうです、その件なのですが…。そうですか。では他のところにも…。わかりました。ではその方向で。よろしくお願いします、では」
チン、と電話が切れた。
「…貴奨、城堂さんって西部警察のボスじゃ…?」
「そうだ。…この予告状だが、うちだけではなく、西部、北部、南部の各警察署にも届けられているらしい。今回の捜査は、他の3つとの合同捜査ということになった。…合同とはいえ、大三元に手錠をかけるのはうちだ。そのつもりでかかってくれ。以上だ」
「あったりまえだろーが。あいつの息の根、俺が止めてやる」
ぐっと握りこぶしを固め、健がつぶやいた。
「銃の携帯は?」
激高している健をどうどうと押さえながら江端が貴奨に尋ねる。
「…許可する。相手はあいつだ。何が起こるか分からん。発砲も個人の判断に任せる。くれぐれも一般人を巻き込まないようにな」
現場へ急行するために、刑事達は素早く動きだした。
「高槻、俺たちも現場へ行くか。あいつらだけでは無茶をしかねん」
「…素直に慎吾君が心配だからって言ったらどうだ?」
その言葉に無言で答え、貴奨と高槻は現場へと向かった。
西部警察、捜査1課。
「…どちらからお電話だったんですか?」
捜査1課長の隣で補佐を勤める一樹が城堂に尋ねる。
「東部の芹沢くんからだ。コレの件でさっそく動きだしてるようだな」
ひらひらと予告状をふってみせた。
「で、どうするんですか?4つの警察署全部に届けられてるんでしょう?」
「…みんな良く聞いてくれ。今回の捜査だが、4警察合同となった。どこが逮捕してもかまわんといえばかまわんが、できればうちが逮捕したい。そのつもりで、みんな頼むぞ」
「大三元って、例の泥棒ですよね?」
忍が確認するように口を開く。
「ああ、あいつには色々とやられてるからな。前回の『クリスタルガラスの仮面』、前々回の200カラットのエメラルド『翠の豚』、その前の『青い珊瑚』、えっとそれから…。まぁ稀少価値の高いモンばっかり狙ってるやつだよ」
と二葉が憶えている限りの盗品の数々の名前を上げる。
「全部宝石ばかりなのに、なんで今回ナマモノなんでしょう…?」
忍は首をかしげ、誰にたずねるともなく、つぶやいた。
「あきちゃったんじゃないの?」
忍の後ろから桔梗が抱きつくようにして、答える。
「あきちゃったって?」
「だから、宝石ばっかみてたからあきちゃって、違うモンほしくなったんじゃない?」
「そうかなぁ」
イマイチ納得のいかない表情で忍は考え込む。
「とにかく! こんなところで考えてても始まらないって。現場行こう、現場っ! 卓也なんてさっきから車の中で待ってるんだからっ!」
はやく、とぐいぐいと桔梗が忍と二葉の腕を引っ張って、歩き始める。
「ちょっと…、危ないよっ」
後ろ足で進むような形になっている忍と二葉は半ば引きずられるようにして、部屋を後にした。
「…さて、俺たちも現場に行きましょうか。まさかここで逮捕の瞬間を待ってるわけじゃないでしょう?」
「もちろんだ。…他の課長たちも来てるだろうしな」
そうして、城堂も立ち上がり、一樹とともに現場へ急行した。
<続>