夢十夜 六 ヒナには稀な・・・
こんな夢を見た。
ボクの名前は冰玉。
魔族の一種、龍鳥の雛で、龍鳥は、大きくなったらボブ・サップより強く都庁よりも大きくなれるらしいんだけど(一部誤解有り)、ボクはまだ人の言葉がわかるくらい、体も小さいんだ。
ボクはいま、天界の東の国のはずれに住んでいる。
ボクが赤ちゃんの時、巣から落ちて迷っていたのを拾ってくれたのが、天界人で東の国の王子様、柢王さま(パパ)だったからだ。
柢王パパは元帥という偉い人らしい。でも、いつも陽気そうに笑っていて、『冰玉、腹減ってないか〜』と、いつもボクに餌をくれる。鳥みたいに自由に空を飛べて、ボクと遊んでくれるのもパパだ。
風を操れるパパは、時々、ボクの翼力トレーニングと言って、風上から強い風を吹かせてくる。必死で羽ばたいてると、『冰玉、逆風なんかに負けんじゃねえぞッ』と励ましてくれる。そんなパパがボクは大好きだ。
でも、たまに、ボクが吹き飛ばされると、キャッチしてくれるのは桂花ママ。ボクと同じ魔族だけど、人型で、体にきれいな模様がある。桂花ママも、ボクと同じで、柢王パパに天界に連れて来られたらしい。
おうちをきれいにしてくれるのも、お洗濯も桂花ママがしてくれる。ママはとってもきれい好きで、パパやボクが散らかすといつもしかられる。でも、優しくて、美人のママがボクは好きだし、
『おまえって、ほんと美人で有能だよな〜。俺って幸せ者〜』
柢王パパもいつもそう言って笑っているけれど、時々、柢王パパが肩に懐いている時に、桂花ママの周りの気温がどんどん下がっていくことがあるのは何でだろう?
『あなたは口だけで屋敷の一軒も建てられそうですよね』
って、柢王パパがカッコいいってことだよね?
でも、ママもパパも笑顔がいつもと違うんだけど・・・。気のせいかな。
でも、パパとママは本当に仲がいい。
桂花ママが言っていた。
『天にいる時は、翼を並べた鳥のように。地上にいる時は、枝を連ねた枝のように』
誰かとずっと一緒にいたいって言う人間界の詩なんだって。ボクの顔を見て、ある日、そう言って、そのあとボクに笑って、
『柢王には内緒だぞ、冰玉』
パパは喜ぶと思うけど?
でも、ボクもこのままずっとパパとママと一緒にいたい。
僕が大きくなったら、二人を翼に乗せて天界の端から端まで連れて行ってあげるから、二人とも楽しみにしていてねっ。
「桂花、ちょっと来いよ〜」
呼ぶ声に、台所にいた桂花が顔を出す。止まり木のそばで笑って手招きする柢王に、
「いま手が離せないんですけど」
「いいから来いって、見ろよ、冰玉のヤツ、寝ながら笑ってるぞ。なんかうれしい夢でも見てンのかな」
いわれて、桂花も側へ来る。止まり木で、うつらうつら揺れている青い龍鳥は、確かに幸せそうな顔に見えた。
「へえ。餌でも食べている夢ですかね」
桂花も珍しく相好をくずす。
「彼女が出来た夢とか」
柢王も笑って桂花の肩にあごを乗せる。そのまま、しばらく二人で眠る龍鳥の姿を見守った。
子の心親知らず・・・とはいうものの、幸せの、青い小鳥は確かにここにいる。