投稿(妄想)小説の部屋

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No.36 (2006/05/31 18:13) 投稿者:モリヤマ

謝恩会 (中)

 昨日の5月31日は、二葉のアメリカンスクールの卒業式だった。
 黒い制服に金のふさがついた黒い帽子の二葉は、すごく格好よくて、すごく…嬉しいこと言ってくれて…。
 ふたり手を繋いで歩いた。ずっと、このままずっと手を繋いでいきたいと思った。
 本当に嬉しくて、心から幸せだと思った。
 だから……。
 だから今日は、自分ができる以上のことをしたい。

「招待、ありがとう。忍。ていうか、なんか変な気分だな。約束通り手ぶらで来たけど…」
 そう言って少し照れたように笑う一樹さんと、
「はい。来てくださって、ありがとうございます。一樹さん、卓也さん」
「ほんとに俺も、いいのか? なんかよくわからんが…」
 戸惑い気味の卓也さん。
「いいんだってば! もうっ、そんなとこで立ち止まってないで早く中入ってってばー!」
 二葉の卒業式の翌日は、ローパーの定休日でもある日曜日だった。
 一樹さんや卓也さんの前夜(というか今朝?)の仕事のあがり時間も考えて、小沼お手製のインビテーション・カードには14時からって書いてもらったけど、約束の5分前にはふたり揃ってローパーに現れた。
 今日のローパーは、明るめの照明を選んだ。いろいろとライティングなんかも遊べる造りっぽいんだけど、そんなのは一樹さんも卓也さんも充分知ってることだし、今日はそういうのは一切なしでシンプルにやりたいと思ってたから。
「ふーん…。あれ?」
「お、可愛いな」
「ね?」
 一樹さんと卓也さんがなにか話しながら中へ進む。
 5人が席に着けるように中央にしつらえた丸いテーブルの真ん中には、同じく丸くて白い大きめのお皿の上に、フルーツや生クリームのホールケーキの代わりに、ふわっとまるく優しい感じに整えられたフラワーケーキを置いた。ピンクのガーベラにスプレーした小さめのバラとカーネーション、そして花と花の間から白いかすみ草とグリーンが覗いてる。
 はじめは、普通に生花の花束やアレンジメントの花篭を考えてたんだけど、そうすると花でお互いの顔が見えなくなるかもって思って、背の低いフラワーケーキにしたんだ。
 ネットや本で調べたら、結構いろんなフラワーケーキがあって、バイト先の花屋の店長である更沙さんに相談して、俺にもなんとかできそうなものをアドバイスしてもらった。色は、元気いっぱいな感じのイエロー&オレンジとか、大人っぽくホワイトと紫系とか…迷ったけど、最初見たとき、なんだか優しい気持ちがしたピンクに決めた。
 更沙さんにはアドバイスだけでなく、バイト後、お願いしてこのフラワーケーキのアレンジメントの特訓(気分は体育会系)もしてもらった。まだまだ下手だけど、今朝お店で作らせてもらってたとき、そばで見ててくれた更沙さんに「うん、いいわよ。気持ちがこもってるわね」って言ってもらえて、すごく嬉しかった。
 一樹さんや卓也さん、小沼や二葉も気に入ってくれるかな。気に入ってもらえたら嬉しいな…。
 とか思ってたら、一樹さんと卓也さんがすでにテーブル前にいて、ボケッと突っ立ったままの俺を見て笑ってた。
「ど、どうぞ」
 俺は焦って席を勧めた。
 丸テーブルには、一樹さん・卓也さん・小沼・俺・二葉の順に小沼特製の席札が置いてある。
「ああ、サンキュ。へぇ…。出来立てって感じだな。腹空かしてきて正解だったぜ」
「手作りアフタヌーン・パーティって感じだね」
 フラワーケーキの周りには何種類かの料理が並べられていて、今まさに二葉が最後の皿を運んできたところだった。
 二葉と小沼は『温かいものは温かく、冷たいものは冷たく!』を合言葉に、14時3分前に調理を終えるよう動いてたから、思ったよりもバタバタしてたみたいだけど、なんとか間にあったようだ。
 今日は珍しく俺も調理場に立たせてもらった。皮付きのままスライスした新ジャガにみじん切りしたアンチョビとパルメザンチーズにオリーブ油をかけてオーブンで焼いたものや、縦にふたつに切った小さめのナスに水平に包丁を入れて中にベーコンを挟んで焼いたものに辛子醤油をかけたもの、などなど…。なんだかおつまみ系ばっかりだけど、時間が時間だし、小沼が俺にも作れそうなものをって軽めのものを何品か教えてくれた。
 もちろん他にも二葉作のカボチャサラダと生ハムと新玉葱のマリネ、冷製トマトパスタにパエリア、冷蔵庫とオーブンには小沼作のデザート数種がスタンバイ済みだ。
 一樹さんと卓也さんが席についたところで、二葉がグラスにシャンパンを注いで回りだした。
 二葉が席に戻ったところで、俺は小沼に「雰囲気! 雰囲気!」と半ば無理やり持たされたマイク(もちろんオフ)を片手に、挨拶のために立ち上がった。


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