投稿(妄想)小説の部屋

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No.33 (2006/05/23 01:17) 投稿者:しおみ

夢十夜 四  祝祭

 こんな夢を見た。

「アシュレイ、今日はおめでとう」
 グラインダースの誇らしげな笑顔と、きらびやかな装い。
「おまえがついに身を固めるとは実にめでたいことだ」
 反抗期の真っ只中には反抗しまくった父の炎帝も、誇らしげな笑みでうなずいている。
 南国元帥アシュレイ・ロー・ラ・ダイは目の前のふたりの笑顔に困惑しまくった顔で固まっていた。

 アシュレイは、アシュレイの記憶によれば、昨日まで、人間界にいて昨夜遅くにようやく天界に戻ってきた。報告のために天守塔に立ち寄ったが、例のごとくティアランディアの限りなくセクハラに近い歓迎にあい、早々に逃げ出し帰還した。父王への報告はしたが、あとはそのまま寝台に倒れこんで眠りについた。
 そして、目覚めると目の前に第一級盛装に着飾った父と姉とが満面の笑顔でいて、おめでとうを繰り返していた。
 その理由が、自分の結婚式だとは!!
 しかもその相手が、
「まさかおまえのお相手が守天殿だとは驚いたが、まあおまえのような奴を生涯飽きずに見守れるのはあの方くらいなものだろう。おまえも天界一の元帥となって守天殿の名に恥じぬ働きをせねばならぬな」
「まことに。守天殿ならこの子の気性もご承知です。よい伴侶となられましょう」
 バレている!!
 絶対にばれてはならないはずの秘密がいつの間にかご家族公認、しかも結婚式まで!
 アシュレイはほとんど呆然として言葉を返すこともできない。
(なんでなんでなんで?????)
 冷や汗がたらたら流れるのだけが実感できる唯一のことだ。
「さあ、アシュレイ、着替えをなさい」
「せっかくおまえのために守天殿が誂えて下さったのだから」
 父と姉とが動けぬ自分に差し出してよこしたその衣装を見て、アシュレイの瞳はまた点になる。
「そ、それは…」
 真っ白な雪のようなレースをふんだんに使ったそれは、まぎれもなくウェディングドレス!
「ちょっと待て! なんで俺がドレスなんかっ」
「まあ、アシュレイ、だっておまえが嫁ぐのだから」
「守天殿を婿にもらうわけにはゆくまい。おまえが嫁ぐのだ」
「と、嫁ぐって、えええええええっ」
「ああ、早くせねば式に遅れる」
「父上、もう一度、エスコートの練習をなさってはいかがです。今日はアシュレイの晴れの日ですもの。失態があってはなりません」
「うむ、そうだな。もう一度練習するか」
「ちょっ、ちょっと待って、俺がっ俺がティアに嫁ぐって、えええええええっ」
 そんな馬鹿なことがあるはずがない。なのに目の前のふたりはゆるぎもなく、歩行練習を始めている! アシュレイはうろたえて周囲を見回した。
 と、いつの間にか部屋中にあふれた使い女たちが、口々に、
「アシュレイ様、おめでとうございます」
「アシュレイ様、おめでとうございます」
「アシュレイ様、お召し替えを」
「アシャレイ様、お召し替えを」
 取り囲むのに、アシュレイは青ざめて、
「やめろっ、やめろったらやめろっ! いやだ、俺はドレスなんか着ないぞっ! やめろやめろったら、うわあああああああっ」
「あっ、アシュレイ!」
「アシュレイ様っ!」
 アシュレイは裸足のまま寝室から逃げ出して、一目散に外へと廊下を走った。
(俺がティアと結婚なんて、しかも俺がドレスを着て嫁ぐなんてそんな馬鹿な!)
 とりあえず追っ手のかからない上空へ、と思って身を浮かせたその瞬間、のんきな大声が降って来た。
「よう、アシュレイ」
 アシュレイはその顔を仰ぎ見て、ああと叫んだ。
「柢王っ」
 東の第三王子は幼馴染の親友で、現実主義の頼れる奴。柢王ならばこのわけのわからない出来事を説明して笑い飛ばしてくれるだろう。
「柢王、よく来た! みんなが変なんだ、俺がティアに…」
「ああ、おまえティアんとこに嫁に行くんだよな。俺も祝いに花持ってきた」
 あつさり言われて、アシュレイの顔が硬直する。よく見ればいつも胸もはだけた軽装の柢王が、今日は凛々しい盛装。しかも、笑顔で差し出すその右手には、真っ白な花々を束ねた美しいブーケ!
(う…嘘だ…) 
 首を左右に振るアシュレイに、柢王が照れくさそうな顔で、
「悪いけど、それ、桂花に投げてやってくれよな。やっぱ、おまえとティアの次は俺と桂花だろっ」
「なっ、なっ、なんっ…」
 言葉にもならない。柢王までっ。
 と、背後から、
「アシュレイ、こんなところにいたのね」
「何をしている、もう遅刻するぞ」
「アシュレイ様、おめでとうございます」
「アシュレイ様、おめでとうございます」
「さあ、お召し替えを」
「四国一の花嫁様ですぞ」
 姉、父、使い女たちや用人が、わっと押しかけ取り囲む。迫るドレスと人垣に、アシュレイは大声を上げて抗った。
「やめろっ、やめろっ、俺は結婚なんかしたくないっ、いやだっ、誰が嫁になんか行くかっ、放せったら、いやだ、いやだ、いやだ、俺は嫁になんか行きたくないんだぁぁぁぁぁぁっ」

「アウスレーゼ様」
 呼ぶ声に、最上界の美神は穏やかな笑みを浮かべた。
 雲の隙間から覗くように天界を見下ろす瞳。その目には天界人のささやかな夢でさえ映るらしい。
 下界に干渉するのは神々には禁じ手。
 それでも。
「また、地上の夢を操られましたのね」
 咎めるような側人の言葉に、神は微笑って、
「どんな夢を見るかまで私が決めるわけではない。夢は夢。だが、神は自在ゆえな」
 自在ゆえ、時に、死ぬほど退屈。時もなければ、死もない存在であればなおのこと。
「時には小猿の困った顔も見てみたい」

 天界人の夢とは、時に絶対天数の退屈しのぎに操られている、らしい。


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