投稿(妄想)小説の部屋

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No.20 (2006/03/23 10:05) 投稿者:碧玉

傀儡 〜1話〜

 桂花は与えられた天主塔の一室で冰玉が持ってきた走り書きに目を通していた。
 そしてサラサラと返事を書くと冰玉に託し、守天の執務室に向った。

「守天殿、吾に少し御暇をいただけませんか」
「暇を?」
「はい」
「もしかして、疲れが溜まっているの?それても窮屈な思いをさせてしまったかな」
 ティアは心配そうに眉をひそめ桂花の顔をのぞきこむ。
「いえ、少し気にかかることがありまして」
「気にかかること? ・・・花街のことだね」
 桂花は黙ってティアを見つめた。
「柢王に連絡をとって・・・」
「柢王には黙っていて下さいませんか」
 ティアの言葉を遮って桂花が告げる。
「・・・潜伏する気か?」
 ティアはため息をつく。
「・・・・・・」
「あのね桂花、私としては協力したいところなんだけど、柢王には念を押されていて・・・」
「お願いします。守天殿にはご迷惑おかけしません」
 こんな桂花は初めてでティアは力を貸してやりたくなる。
「・・・分かった。けれど危ないと思ったらすぐに退くこと。それとコレを身につけて」
 ティアは桂花に指輪を差し出した。
 ティアの力が練りこまれたそれは桂花の変化を強化する力があり、今までも何度が貸し出されていた。
「ありがとうございます」
 桂花は受け取ると頭を下げ退出した。
 その背を見送りながらティアは数日前柢王から聞いた話を思い出していた。

「どうしたんだ!?」
 桂花を預けに来た柢王にティアはいきなり問いただした。
 表面上はいつもと変わらない二人なのだか、ティアは一目で違和を察し柢王を部屋の外に引っ張り出した。
「・・・あーー、やっぱ分かるか」
 らしくもなく柢王は視線を彷徨わせたが、やがて観念したかのようにティアに向き直った。
「一月前からの東の異変聞いてるよな?」
「百人もの不審死のこと?」
「ああ。あれさ報告しちゃねーんだが目星らしきもんがついたんだ」
「えっ、本当!?」
「だが証拠が掴めねぇ」
「それで?」
「でな・・・」
 柢王は桂花との争いを思い返し話し始めた。

【嗜みのある女手を世話する約束を取り付けた】
 数日前、柢王の元に一通の報せが届いた。
 この一ヶ月、東の国では突然パッタリ亡くなる不審死が多発している。
 倒れたかと思うと既に息絶えていて聖水を飲ます間もない。
 金持ちや貴族達はサプリメントとして毎食毎に聖水を飲んでいるが、一般庶民にはまだまだ聖水は高価なものだ。
 死者を調べたところ血液に微少ながらも薬物の痕跡がみつかった。出先を調査していくと花街にある一つの老舗料亭が浮かびあがってきた。
 だが何度か足を踏み入れた物の証拠はあがらず、これ以上の強行もできず柢王にしては珍しく足踏み状態だった。
 潜伏調査も一つの方法と考え、柢王は人材派遣をしている顔馴染みに話を通しておいた。
 
「吾にすら、あなただと分かりますよ」
 艶やかな美女に変化した柢王を見て桂花が言った。
「ちっ!!」
 柢王は変化を解き元の姿に戻った。
 桂花は霊力を推し量ることはできないものの、強い霊力は肌で感じ取れる。
 霊力の高い天界人は霊力を推し量ることは勿論、相手すら見抜ける場合もあるそうだ。
「やっぱダメか。裏にゃ絶対大物が噛んでる気がすっからな」
「守天殿の加護があれば魔族の気は隠せますか?」
「ん、俺の霊力よりは隠せんだろうな」
「それなら吾が潜伏します」
 渋々ながら柢王は頷く。
 変化に手を加えすぎると桂花は苦しくなる。今回は性別すら変えているのだから。
 髪は茶色に、肌は紫微色から紫を抜いただけと簡単な変化であったが女性体というだけで普段押し隠された妖艶さが醸し出される。
 見事な化けっぷりだ。事件解決の暁には絶対!!あの姿で楽しませてもらおうと柢王は拳を握り締めた。
 それから二人は知らせを放った者の元に訪れ、桂花は花街特有のメイクと着つけを受けた。
 仕上がりは極上!!傾国の美女の再来だ。
「連絡は証拠を押さえてからの方がいいですね」
 涼やかな桂花の声で柢王は緩んだ顔を引き締める。
「ああ、でもまあ簡単に尻尾は出さんだろうな」
「そうですね。長期戦になりますかね。まぁ、数回相手をすれば方向性はつくでしょう」
 ため息交じりに桂花は呟く。
「おい、待て!!相手って何の相手だ」
「女が秘密を聞き出すのは何処でだか・・・あなた誰よりも知っているんじゃないですか?」
「―――戻れ」
「―――嫌です」
「すぐ戻れ!!この話は断る。俺の許可なく動くな」
 柢王にしては珍しく弾圧的な言葉で話を切り上げた。
 そしてこの事件から一旦引くと人界へと出かけて行った。

「留守役は攻めの要か・・・」
 柢王の話を思い返しティアは声に出し呟いた。
 柢王やアシュレイには永遠に分からないだろう・・・いつも置いていかれる寂しさ、遣り切れなさは。
 自分の必要性を形にしたい桂花の気持ちを誰よりもティアには分かる。それでも自分には守護主天としての役目がある。
 ・・・だが桂花には。
 どうか無事で―――――ティアは心の中で呟いた。


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