投稿(妄想)小説の部屋

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No.21 (2006/03/24 09:17) 投稿者:碧玉

傀儡 〜2話〜

【桃源郷】そこは、花街でも指折りの高級料亭だった。
 客は日に二組しか取らず配膳は終始専属の仲居のみで行われる。 
 芸者、遊び女は呼べない決まりなので会話が外に漏れることはない。秘密の商談や密会にはうってつけの場所であった。
 だが商談が成立すると綺麗どころが欲しくなるのも事実だったので、美貌の新人は大いに喜ばれた。

「おっと、新米か?えらい美人さんだな」
「まだ見習いでございます、方正様。桂(かつら)ご挨拶なさい」
 新人教育についているベテラン仲居の柏が桂花に挨拶を促す。
「はい。桂と申します。どうぞお見知りおきを」
 言って桂花はそっと頭をさげた。
 そして顔を上げると方正という男を眼裏にしかと焼き付ける。
 年は四十くらいだろうか。貴族特有の雰囲気がある。だが只の貴族にしては余りにも強い力が感じられ桂花は無意識に指輪をした手をギュッと握り締めた。
 そんな桂花の横では、この道のプロである柏が桂花の一挙一動に目を光らせていた。

「桂は確か北国生まれだったわねぇ」
 座を離れると柏は桂の履歴を頭に尋ねた。
「ええ。でも家族を事故で亡くしてからは転々とした流浪の身でしたから」
「・・・そう」
 履歴にある桂の前勤務先には問い合わせ照合している。(桂花にしてみても仲介の者にバッチリ履歴を偽装させているのだが)
だが怪しい。この美貌だ、もっと楽な仕事は山ほどあるだろうに。
「経歴にはないけれど、こういう仕事はしたことがあるの?」
 桂の間の取り方は慣れている。客の接待、挨拶など簡単に思えるが出来る、出来ないは会釈一つで分かる。
 また勘や機転がよく今も話している側から手すりについた手垢を見つけ磨き始めている。
「いえ、でも行く先々で酌やら接客やらさせられていたので・・・」
 言葉を濁す桂花に「なるほどね」と柏は思う。
 二人で一緒に手すりを磨きつつ話をしていると離れから一人の男が歩いてきた。
 二人が担当している客でないのでもう一組の客なのだろう。
 少年のような若い男だ。背丈はそう高くないが鍛えられ引き締まった身体は自然と目を惹いた。
――――――――っつ、サル!!
 桂花は何とか声を押し殺した。
 黒い髪と瞳。だが間違いない。
「おま・・・えっ」
 アシュレイも絶句する。
「おや、知り合いかい?」
 視線を強くぶつけ合っている二人に柏は口を挟む。
「・・・ええ。顔見知り程度ですが。・・・ちょっと、いえ、少しだけ失礼してもよろしいですか」
 珍しく動揺している桂を柏は面白そうに眺める。
「いいわ。休憩も取らずに働きっ通しだったものね」
 快く許可してくれた柏に会釈すると、桂花はアシュレイと共に身を翻した。
 昔の男かねぇ・・・あんなに焦っちゃって〜〜〜。二人の背中を見送りながら柏はいつになく浮き浮きとしていた。
 身寄りが一切ないなんて怪しすぎると思っていた。だが突如現れた年下男。
「誰もが後ろ暗さの一つや二つはあるものさ」・・・とアシュレイの出現によって柏が抱く桂への疑惑はすっかり消え失せていた。

 誰もいない中庭に出るなりアシュレイは声を荒げた。
「てめぇ、こんな所で何してやがるっ!!柢王は何処だっ」
「こんな所で柢王の名を出すな。吾のことより守天殿はおまえが此処にいることを知っているのか?」
 守天の名を出せばアシュレイが何も言えないのを桂花は知っていた。案の定アシュレイは悔しそうにソッポを向く。
 ま、こんな所で変化しているなら内密に違いないのだが。
「吾が此処に居ることは守天殿は知っていらっしゃる。・・・もしかしたら今この場をも遠見鏡で見てるかも」
 桂花は独り言のように、だがアシュレイに聞こえることを計算して呟く。
「チッ!!」
大きな舌打ちを残しアシュレイは跡形もなく消え失せた。

「あんの魔族野郎っ!!邪魔しやがって」
 アシュレイは姿を消し料亭の屋根の上に座り込んでいた。
 ジャラジャラと懐から宝飾品を取り出す。
 南の物だ。噂では聞いていたもののこんなに入り込んでいるとは・・・。
 他国の物を販売するにはそれなりの許可が必要だ。
 だがアシュレイが手にした物は明らかなる蜜売品。
 このままでは東の監査が入るのも時間の問題だ。
「柢王やあの魔族に見つかってみろっ」負けず嫌いのアシュレイは肩を怒らす。
 だが尻尾はつかんだ。あとは証拠倉庫を押さえるだけ。
・・・ケド、あいつ、何であんな格好でいるんだ?
ティアも知ってるだって!?
 ティアの奴、柢王だけでは物足りず魔族にまで頼みごとするようになったのかっ!!
 頼みごとなら俺にすりゃいいじゃねぇーか。
 アシュレイは俯き拳を握り締めた。
 悔しくて、悲しくて仕方ない。
 よし!!
 俺が片付けてやるっ!!ティアの奴、見てろよっ!!
決意を漲らせ、アシュレイはその場を後にした。


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