投稿(妄想)小説の部屋

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No.6 (2006/02/08 12:44) 投稿者:モリヤマ

ヴォー・ア・グレイの噂話・前編 (黄門漫遊記1)

 黄色は、天界で最も高貴な色。
 正式な場では閻魔大王と守護主天しか身につけることができない。
 しかし、閻魔大王には「黒」というイメージが強かった。
 ゆえに守天だけが、密かに庶民の間で親しみを込めてこう呼ばれていた。
 黄門さま、と。

 さて。一行は、守天の見聞を広めるためという理由で期間限定で諸国漫遊の旅を続けるさなか、南と東の国境の街へとやってきた。
「結構、にぎやかですね」
「黄門サマ効果っつーのはホントらしいな」
 桂花の言葉に、柢王も目を見開いたまま相槌を打つ。
 しばらく前に、桂花とふたりで立ち寄った際には、もっと静かな街だった。
 その直後、守天が突然この地に降り立ったことで、なぜかまた守天が現れるかもしれないと噂が立ったらしい。噂なので、根拠もなければ責任もないが、観光客が増え、穏やかだった歴史ある街にも活気が出てきた。名物は「守天饅頭」と「黄門サブレ」だと、すでに天界中に知れ渡っている。
 しかし、人が集まれば悪いことを働く輩も出てくるものだ。今回の旅の予定に、この街を訪ねることは、心配した守天の唯一の要望だった。

「ここですか、以前、飛猿(アシュレイ)が一部破壊したという資料館は」
 天下の守護主天に各国王族・武将達が、仰々しく市中を歩き回ったのでは、混乱の元になりかねない。当然、旅はお忍びだ。そのため、お付きの者は少数精鋭、全員が変化または変装して偽名で呼び合っている。
 足を止めて資料館を眺める山凍(ちなみに格さん)の言葉に、桂花(お銀)は目を伏せて答えた。
「あのときは、大変でした…」
 守天のため、濡れ衣の天主塔蔵書室司書候補を救けるべく、勝手にアシュレイが出張っていってしまったのだ。アシュレイなりに秘密裏に事を片付けようと努力はしたのだろうが、刑務所潜入に脱獄、資料館の壁は破壊、結果的に守天までをも巻き込んだ。
「猿…いえ、飛猿殿はともかく、資料館に突然若君が現れたときには、寿命が100年は縮まりました。幸運にも彼の濡れ衣は晴れて、いまでは職場で馬車馬のように…」
「働き者なんですね」
 最後まで聞かず感心したような山凍の誉め言葉に、
「馬車馬のように、人を使って片付けまくってるよな!」
 桂花のあとを次いで、柢王が可笑しそうに続けた。
「でも、誰よりも彼が一番頑張ってくれてるよ。おかげで思ったより早く終わりそうだし」
 苦笑しながらも、蔵書室整理の進捗状況に至極満足なティアがフォローを入れる。
「そうでないと困ります」
「だよなー。あん時ゃ、俺も延々ジー様(偽名?)相手に笑顔で頷き太郎でさ。勘弁してくれって思ったぜ」
「いつも面倒かけてごめん、助さん(柢王)、お銀(桂花)、ありがとう。…飛猿のことも、あいつなりに私のことを思ってやってくれたことだから…」
 柢王と桂花に視線を合わせ、改めて詫びの言葉と感謝を告げるティアに、
「まあ、若サマの飛猿びいきは今に始まったこっちゃないしな」
と、今更ながらなことに慣れっこな柢王の顔は笑っている。
「甘すぎです」
 言い切る桂花の顔は厳しいままだったが、声には諦めがにじんでいた。
「…いろいろと大変だったのですね」
 3人の話に気は優しくて力持ちな山凍は、よくわからないながらも当時の話にしみじみ感じ入ってる様子だったが、黙って話しを聞いていたカルミアの心中は複雑だった。
「僕のいない間に、そんなことがあったなんて…。兄様っ、飛猿殿じゃなくたって、兄様のためなら僕だって…!」
 顔を真っ赤にしてカルミアが訴える。
「わかってるよ、八兵衛(カルミア)。いつも私のことを考えてくれてて嬉しいよ」
「兄さ…」
 いつもなら、微笑むティアに飛びついて全身で感激のほどを表すカルミアが、突然凝固した。
「どうしたの?」
 心配して問う声に、
「……お団子のにおいがしますっ!」
「…え?」
 くんくんくんくん。
 目を閉じ、鼻を鳴らしてぐるりと顔をめぐらしたかと思うと、
「兄様っ、あっちに団子屋がありますっ、行きましょう!」
 突然ティアの手を引いて小走りに駆け出した。
「あ、待って…うわっ…!」
 突然のことに慌てたティアだったが、カルミアについて数歩駆け出したところで急停止を余儀なくされる。うっかり者のカルミアが、向こうからダラダラと歩いてくる男達の一人とぶつかったのだ。注意一秒、ケガ一生。しかも、相手は街でも評判のゴロツキ集団だった。
「おうおうおうおう! てめーら、人にぶつかっておいて挨拶なしかい!!」
 見るからに柄の悪そうな巨漢の男が怒鳴り声を上げる。
「いてーよー、いてーよー」
「なにっ!? …こりゃ大変だ、骨が折れてるぜ!」
「このガキ、どうしてくれんだ、ええっ!?」
「いてーよー、足も折れてるよー」
「待て待て、なんだこりゃー、キレイな姉ちゃんがいるじゃねーか」
「いいねー、こっちの姉ちゃんも連れかい?」
「ちょうどいいや、治療代はもちろんだが、こっちの姉ちゃんたちも一緒に来てもらおうぜ」
「おお、いいな、そりゃー」
「今日は運がいいぜ!」
「やったな〜、おい!」
「がはははは!」
 散々がなりたてた男達は、これからの楽しい予定に既に心が飛んでしまったようだ。そこへ、
「…よく喋る方々ですね」
 桂花が心底あきれた調子で口を挟む。そして、自称・骨折男に目線をあわすと、
「ひとつ質問なんですが、仮に骨が折れてるとして。そんな見るからに軟弱そうな子供がちょっと触ったくらいで折れる骨ということは、あなた自身の身体的問題だとは考えませんか?」
「お銀、悪いよ。あの方は、きっと外見以上にご老体なんだよ。ご老人の中には、立ち上がった拍子にポキッといくというのも珍しいことではないそうだよ」
「その点、うちのオヤジなんかは元気だぜ〜。足腰、無駄に元気で現役だしなー。つか、姉ちゃんて? やっぱおまえら?」
「治療代その他の前に、まず病院にご同行しましょう。若君、ご安心を。この格めが、責任を持って対処させていただきます。話はそれからです」
「…に、に、にぃぃぃさまぁぁぁ…、ごめんなさいぃぃぃ…!!」
「やや、やかましいっ!!」
 よく喋る悪漢どもに、よく喋るご一行。
 先にキれたのは悪漢どものほうだった。
 ちょっとつつけば、金(と女)を置いて逃げ出すと踏んでいたのに、なんだか変だ。
「とにかく、治療代と姉ちゃんだ!! つべこべ言ってねぇで早くよこしやがれっ!!」
 その声を合図に、悪漢どもが乱暴にもティアと桂花を捕らえて連れて行こうとする。
 すかさず桂花は、自分にのびてきた相手の腕を取って捩じ上げる。だが、人を傷つけることができない守天はされるがまま、すんなり悪漢どもの手に落ちてしまう。あまりに小物すぎて、柢王と山凍は油断して出遅れてしまったのだ。
「若君…っ!」
 山凍や柢王たちの、自分を見る心配そうな、そして守りきれなかった己自身を責める姿が、ティアの瞳に映る。

(人を傷つけたいわけじゃない…。けど…っ)

 守られるだけで、なにもできない歯がゆさ。
 悔しくて情けなくて、自分のこの身が腹立たしい。
 どうにもできず、ただ我知らずティアはきつく拳を握り締めた。
 ―――――その瞬間、炎があがった。
 紅蓮の炎が、ティアの腕を掴んだ男の目の前に、突如として現れたのだ。
「なんのための、てめーらだ!!」
 宙に仁王立ちのアシュレイが、年上の山凍と柢王を一喝した。
 旅の間、なにが起こるかわからない。そばで守ることも大事だが、誰かが離れたところから姿を隠して同行すれば、見えない危険を察知できる場合もあるのではないか。そんなアウスレーゼ(もし旅に関わった場合の偽名は弥七)の提案に、アシュレイ自らが名乗りを上げ、陰からティアを守っていたのだ。
「おまえも、バレてもいいから結界ぐらい張れ!」
「…アシュレイ」
 偽名を使わず恋人の名を呼び見つめるティアに、アシュレイはもちろん、柢王達もなにも言わなかった。
「う…うわーーーーー!!!」
 しかし、のんきに会話を交わしている場合ではなかった。突然の炎を見て、男がひとり興奮状態で暴れだす。そこから先は、悪漢どもの仲間もわらわら集まり、お決まりの大乱闘が始まった。
 だが所詮、どんなに悪者ぶっても相手は只人。素手であっても武将の敵ではない。


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