投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
手紙って苦手でさ。
なんかこう、まだるっこしいっていうか。面倒だろ。
改まって書くことなんかない。俺はいつだって、伝えたいことは口に出して言ってるつもりだ。
――伝わってほしいこと、って言ってもいい。
おまえは馬鹿にするけど、一応これでも、俺って王子様だからさ。確実に伝わってほしいことや誤解されたらまずいことははっきり言うし、言っちゃまずいことは言っていないつもりだ。
だからこれは、絶対におまえに伝えるつもりはないこと。
それでも形にせずにはいられないってあたり、俺もまだまだだよな。
おまえのこと愛してる。それは本当だよ。
ずっとほしかった、俺と一緒に走れる奴。俺に全てをくれる奴。
ようやく見つけたんだ、それが魔族でも構わないと俺は思っていた。
だけど――だけどさ、ほんの少しだけ。おまえが魔族でなかったら、俺はこんなにも自由ではいられなかったんだろうと思う。だからおまえにしたんだろうかと、思う。
天界人だったら、家族がいる。例え天涯孤独だったとしても、友達がいて、知り合いがいて立場があってしがらみがある。
だけどおまえには何もない。
会ったときのおまえは、本当に一人だったよな。養い親とはぐれて、飼っていた鳥は死んで。人界に心とらわれるものなんて何一つなかった。
まして天界に、おまえが気を惹かれるものなんてあるはずがない。
おまえの世界は俺だけだった。
俺は、おまえ一人だけを背負えばそれで済んだ。
一目惚れしたのは本当なんだぜ。初めて見た本当の姿のおまえは、信じられないくらい美人だった。きついところもゾクゾクした。
死なせたくなんかなかったし、俺に惚れてほしかった。どんな美人にだって、こんなことを思ったことなんかないんだぜ。いや、本当に。
おまえにはなんだってしてやりたいし、そうしてきたつもりだけど。
天界で一人だけの魔族で、おまえの周りは敵しかいなかったから、唯一の味方だった俺におまえがすがって転んで、惚れちまうのは、当然だったのかもしれない。
俺の我侭につきあってくれて、俺に振り回されてくれるおまえが、どうしようもなく愛しくて、時々少しだけ可哀想になる。自分を曲げるつもりはない俺のせいで傷つくおまえが。
足手まといになる奴がほしいわけじゃない。枷になる奴がほしいわけでもない。
俺はそういう男だからさ。
おまえは誰よりも頭が良くて、腕も結構立って、ものすごく俺の力になってくれた。
おまえに会えてなかったら、俺はあのまま猫を被って兄貴達をやり過ごすだけの男だったかもしれないな。おまえに会えたから、おまえが、おまえを守る力がほしくて、そのためなら誰を敵に回してもいいって思った。
誰に好かれなくてもいい。おまえがそばにいてくれれば。
おまえのおかげで俺は自由になれたんだ。
最後の最後でおまえを置いてってごめんな。
おまえ、どれだけ泣くんだろうな。
ただ、ひとつだけ。絶対に聞かないから、言うだけ言わせてくれ。
俺がそうだったくらい、おまえは俺といて幸せだったか?
俺がおまえから奪ったもの、おまえに背負わせたもの。それと引き換えになるくらい。
なあ。俺は、おまえを幸せにしてやれてただろうか。
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