投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
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「いらない、適当に捨ててくれ」
アシュレイは手渡された袋の、送り主名を見たとたん、桂花に突き返した。
「封も開けずに捨てるんですか?」
「いいんだ。ロクなもんじゃねーよ」
「はぁ」
桂花は頷いてアシュレイから受け取った袋を改めて見る。
送り主は東にある店の、店主名であった。執務室の前で鉢合わせた使い女から預かったのだが、これは確認してから受けとるべきだった。
「なぁ・・蔵書室で、なんか面白そうなやつがあったら適当に何冊か借りてきてくんねーか」
「好みの本などわかりませんよ」
「テキトーだよ、テキトー。あと、ティアの会議が終わるまで蔵書室にいていいぞ。どうせ、ティアがこっちの書類片付けなきゃ、お前の仕事、進まないだろ」
ヒラヒラと手を振るアシュレイに、背を向けてから微笑する。最近、ようやく分かってきた。彼のこういった気の遣い方を。
今日、これからあの麒麟が、主からの届け物を持って、ここに来るらしいのだ。
せっかくの気遣い――とアシュレイの申し出にのることにした桂花が扉に手をかけた時、とつぜん手にしていた袋が動き出した。
「!?」
中で何かが暴れているように、袋がバタバタと動いている。
「なんだっ?何が入ってんだ?!」
アシュレイが桂花から袋を取ろうとした瞬間、パンッと破裂音がひびき、二人はその場で重なるように倒れてしまった。
外で遊んでいた冰玉が、窓から執務室へ入ると、扉の前で桂花とアシュレイが倒れているのが目に入った。
「どうしたの桂花っ?!」
驚いて近づこうとしたとき、自分の姿が龍鳥ではなくなっていることに気づく。
「あれっ?なんでっ?」
手が、足が、生えている。
「えーっ?!人型になってる!なんで?すごーい」
自分の掌や足元を交互に見て、更に鏡の前へ行って顔を確認する。
「自分で言うのもなんだけど・・・・かなりイケてるよね。これなら桂花だって・・・」
自分がこのまま成長し、柢王と、桂花を奪い合う・・・もしくは二人で桂花を愛する妄想をしながら、鮮やかな碧い髪をかきあげ満悦していた冰玉だったが、ハッと我に返る。
「違う!桂花っ」
駆け寄ってアシュレイを無造作に転がすと、桂花の体を抱き起こしてやる。
「桂花?どうしたの、大丈夫?」
軽く頬をたたくが小さな寝息をたてるばかりで反応はない。
「寝てるだけ?・・・なんでこんなところで、しかもコイツなんかと」
隣で同じように寝息をたてているアシュレイの頭を、足の先でつついた冰玉の耳に聞き覚えのある魔族の声が突き刺さった。
「足癖のわるい小僧だ。もう一度やったら、付け根から切り落としてやる」
とても恐ろしく、屈辱的な記憶がよみがえる。
心拍数が跳ねあがるのを感じながら声の主を見やると、背のある魔族の男がじぶんを見下ろしていた。
冷酷そうな顔に走る傷痕が、得体の知れなさを、より強調している。
姿を見るのは初めてだが、間違いない。以前寝ているアシュレイに毛虫を落としてやろうとイタズラを仕掛けたときに、それを阻止した上、水鞭で襲ってきた奴だ。
本気で殺されると思った、危険な相手。
「お、お前、なんで魔族のくせにコイツを庇うんだ」
震える声で、反論する。
「庇う?ふん、とんだ見当違いだ。俺が俺の体でもあるそいつの体を守ろうとするのは当然のことだろう。別にそいつを庇っているわけじゃない」
そうか。以前、この魔族に自分がやられたとき、桂花が守天と話していたのは、この魔族のことだったんだ。
ようやく冰玉は合点がいった。
「魔族のくせにと言えば、お前の主も魔族のくせに天界にいるじゃないか。魔族が天界人に望んで飼われている。世も末だな」
「飼われてなんかない!桂花は、柢王が好きだからここにいるんだ!僕だって、桂花と柢王がいるからここにいるだけだ。桂花を侮辱するな!お前なんか天界人に寄生した魔族崩れのくせに!」
カッとして口走った言葉は、じぶんの寿命を今日、この時まで。と決定づけるほど望ましくないものだったことを、氷暉の目を見た冰玉は知る。
「どうやら口のききかたを教えてやる必要があるようだな。幸い俺の宿主の意識もないことだ、特別に後悔の意味も教えてやろう」
物騒な瞳に、冰玉の体は固まったまま動けない。氷漬けにでもされたようだ。
「どうした。達者な、減らず口はしまいか」
長い腕の先でみるみるうちに鋭く尖った氷刃が育つのを、固唾をのんで見つめる冰玉は、瞬きすら許されない。
『敵と対峙したら、いち早く相手の技量を推し量るんだよ。もし見た目が自分よりも小さく、弱そうでも、油断してはいけない。それが命取りになるからね』
桂花の言葉を思い出す。相手は小さくも弱そうでもなかった。それどころか、冷たく残忍な魔族だ。負けん気の強さが、仇となってしまった。
でも、桂花のことを侮辱する奴は許せなかったのだ。
氷刃が完全に仕上がり、的を絞るしぐさで冰玉に向けられると、その目は恐怖にあおられ更に見開く。
二度と関わってはいけない相手だったと痛感する冰玉。両目に涙をためた彼に、うすく笑った氷暉が口を開く。
「その気持ちが『後悔』だ」
言い終えた瞬間、氷刃が飛んでくる。
「っ!!」
失神寸前の冰玉の目の前に、氷刃を止めた手。
「やり過ぎだ。アシュレイが許さない」
突如、冰玉の前に現れた男の手の中で、早くも滴りはじめる氷刃。
「貴様・・・・」
ただ見られているだけ。それだけなのに体中を刺すような刺激を受け氷暉はひざまずいてしまう。
少年・・・いや、青年というべきか?どちらともとれるような微妙な容姿の男は、銀の髪の天辺にアシュレイのものより更に鋭く尖る角を持っていた。鱗鱗とした黒曜石のような装束は、重そうにも軽そうにも見える。
天界人ではないが、魔族でもない。
(こいつは――――)
※氷暉と共生前の設定です
その1 アシュレイの場合
ティアがいつものように遠見鏡で覗き見、もとい巡視していると、柢王と桂花の姿が映った。
食事時のようで、桂花が器を並べる端から、柢王ががつがつと箸をつけていく。それを呆れたように見つめる桂花。
「ふむ。どうやら何故こんなに食べるのに彼は太らないのだろうかと疑問に思っている様だな」
↑見てるだけでどうして解るのかは不明。きっと守天の能力♪
「確かに柢王も太らないが、アシュレイも昔っから人の二倍は食べているのに、どうしてあんなに細いんだろう? 代謝もよさそうだし、動き回ってもいる。だが、それだけであの量を消化できるとも思えない」
「・・・・・・」
「おなかの中に何か飼ってるんじゃないだろうか」
「・・・・・・」
ティアはしばらく黙って思案していたかと思えば、いきなり
「ああっ、アシュレイのおなかの中が見たいっっっっ」
と身悶えた。
「そうだ、睡眠薬で眠らせた後、手光を使いつつおなかを捌けばナントカなるだろうし、全部見た後で聖水で傷跡を消せばアシュレイには気づかれずに……ダメだ! 私はメスが使えないっっっっ」
とさらに苦悩する。
「どうしよう、実はアシュレイのおなかの中に可愛い女の子の餓鬼とかいたら! アシュレイは優しいから、泣きつかれたりしたら、俺に任せておけとか言って飼っちゃうんだ……」
いらいらうろうろしていると、アシュレイが窓から入ってきた。
「アシュレイ!」
遠見鏡情報で元帥会議があることは知っていたが、ここに寄ってくれるなんて♥
「ティアー、腹へったー。なんか食いもんないか?」
「あるよ! とりあえずこのお菓子でも食べてて。すぐに料理を頼むから!」
先ほど使い女が置いていった全く手の付けられていないケーキをさし出した。
逃げられないよう、沢山の料理を使い女に『至急で』と言いつけると、まじまじとケーキを食べるアシュレイのおなかに注目する。
「な、なんだよ。あ、へそ見るな!」
「うん、いつもどおり可愛いオヘソ……違う! 君、おなかになんか飼ってるんじゃない?」
「へ? それって、サナダムシとかそういうやつのことか? そういや、昔ケンベンでひっかかったような」
「やっぱりなんか飼ってるんだね!」
嫉妬丸出しでティアが食ってかかる。
「そんなん、わかんねえよ! いいじゃねえか、虫の一匹や二匹。だいたい、食ってるときにそんな話をするなー!」
使い女が現れ、次々と料理を運んできたため、一旦その話は中断となった。
――その頃、アシュレイのおなかの中では……
「美味しいねえ。斬」
「朱は、ラムザンケーキが好きだもんな」
肉団子を食べながら斬が答える。
天主塔―特に執務室では基本的に出番がないので(どうせ結界で出れない)、斬と朱がゆっくりと食事を楽しんでいた。
「あ、今度はオレンジ鳥だ」
「寄越せ」
「やだー。これ朱のー」
「後から来たくせに図々しいぞ」
「関係ないもん。斬の馬鹿ー」
バタバタと食料を巡って走り回る二人。(どんだけ広いんだ?)
――お腹の外では
「う…」
急にアシュレイが蹲る。
「どうしたの?アシュレイ」
「腹が痛え。腹ん中でなんかが暴れてるような……」
きらん◇とティアの目が光る。
「食べすぎかな。ちょうどいいから臨床検査用被検査物を確保しておこう」
「は?」
「白鳥のおまるを用意するね」
「はあ〜?」
ティアが何を言ってるんだかさっぱり理解はできないが、尋常ではない瞳の輝きに怖気を感じたアシュレイは、にじり足で窓際へ向かう。
守天がどんな力を使おうと、アウスレーゼの布があれば……ない!
「これのこと探してる?」
いつの間にか紫の布はティアの手の中に在った。アシュレイの顔からサーッと血の気が引く。
ティアは鷲尾香には敵わないまでも脱がせるのが上手い。ちょうちょ結びが苦手なアシュレイが穿いた固結びの下着以外は。
「君のためだから」
親切そうな台詞はお為ごかしで、絶対にアシュレイのためなんかじゃないのは、ぎらぎらとした目を見れば明白。
アシュレイはティアの目力に自我を失いそうになりながら、
(なんで今日に限って桂花が来て無いんだー! いや、魔族野郎なんかいなくていい。柢王! 親友なら助けに来い!)
と一生懸命祈っていた。
ま、柢王が来たところで、『ワリイな、アシュレイ。たまにはティアの望み叶えてやれよ』と能天気な声で笑い飛ばされるだけなのだが……。
その2 柢王の場合
巍染のせいじゃないですか?
以上。
↑おざなり……。だって巍染って超美形のクセになんだかお品がなくて……
番外★考察 天界人の排泄について
@柢王が「小便」をした記述が有るので、「小」を排泄することは確実であろう(柢王のカラダが特殊で無い限り)
A「おなかをこわす」という記述もあるので、泄瀉症状が発生する可能性が考えられる。
Bだが、アシュレイの内臓が溶けた時、腸の内容物の記載がない。
(つか、BLやファンタジーにそんな記載があったら、もはやジャンルが違うであろう…)
シュラムの毒によって内容物ごと溶けたとも考えられるが、排泄物は元々存在しない、即ち人間における胃の機能にて全て消化されてしまうとも考えられる。
また、老廃物は別の器官、もしくは液体化して汗などと一緒に排泄されれば、腸からの排泄機能は不要となる。
だいたい、氷暉が腸の内容物と同居してると考えるのもどうかと(ティアの味がわかるのは胃の位置ではないと思うしー)。
……ティアなら喜んで同居するかも……?
C以上により(よるか?)、天界人の排泄に関しては、人間と違うからだの構造の別機能にて行われていると考察いたします。
だから考察その1は有り得ないってことで(でも、ティアはやりたそうだなあ)。
おわり
文殊塾にある小動物用の飼育小屋。そこに足を踏み入れたとたん、干草の香りとともに、獣臭が鼻をついた。
ふだん嗅ぎなれないその臭いに、顔をしかめながらそっと扉を閉める。
「アシュレイ・・・・?」
薄暗い小屋の中、足元でウサギがひょこひょこと歩いていくのを踏まないように気をつけながら、ティアは奥へと足をすすめた。
この飼育小屋はスクエアで、ウサギ小屋の隣が鳥小屋。その後ろがリス小屋。そして、保護してきたばかりの動物のために使用している特別室がウサギ小屋の後ろにある。
全てうすい壁で区切られてはいるが、中からどの小屋にも移動できるように簡易扉が設けてある。
ウサギが一緒に行かないように特別室へ続く扉を注意深く開けると、果たしてアシュレイの姿が目の前に。
自分の頬の近くで、リスを両手で包むようにし、様子を見ながら寝てしまったのだろう。すやすやと、真新しい干草の山に横たわっている。
クスッと笑って、ティアはその体の横に腰を下ろした。干草がティアの重みによって傾いたが、アシュレイは目を覚まさない。彼の手の中にいる、小さなリスも腹をさらして寝ている。
「警戒するどころか、アシュレイに気を許しすぎてお腹まで見せてるなんて・・・どうやって手なづけたのさ」
ひよひよと産毛のようなやわらかなリスの腹をそっと撫でるが、こちらも起きる気配はない。
「こんなんで、野性に帰れるかな;;」
リスから手を離し、次にアシュレイのお腹に触れてみる。今はぺたんこなアシュレイのそれは、お腹いっぱい食べると幼児体型のようにポコッと出てしまうのがかわいい。
呼吸のたびに上下する腹から目が離せなくなったティアは、無意識に彼の服をめくっていた。
「うっ・・・キュート過ぎるっっ」
両手で頬をおさえ、身をよじるティア。
お行儀の良いへそが鎮座する白い腹から目をそらすことが出来ない。いや、白いといっても、アシュレイは日に焼けて褐色な肌をしているため、それに比べると・・と言うわけだが。
「お腹が白いなんて、まさにアシュレイだね」
自分も柢王も腹黒い方だから、なおさらアシュレイの純白さがまぶしい。
ふふふ・・・と、顔にそぐわないあやしい笑みをこぼし小さなおへそに唇を近づけるティア。
ちゅ、ちゅ、と無心でそこを吸っていると、後頭部に衝撃を受け我に返った。
「なにやってんだーっ!」
「アシュレイッ、ち、ちがうちがう、今のは、今のはちがうよ、治療してたんだよ!」
両手をぶんぶん振って、ティアはでたらめな言い訳をする。
「君の服がめくれてたんで、なおそうとしたらおへその近くにすり傷があったから・・・」
信じて!!という目でまっすぐアシュレイを見つめるティア。
「・・・分かった。ちょっと、驚いただけだ。殴ってごめん」
ほらね。純白なアシュレイ。私のうそをすぐに信じちゃう。
ティアは、信じてくれてありがとう。と笑って、持ってきたキャンディーをアシュレイの口へ入れてやった。
「そういえば、次回の書の時間、自分の好きな言葉を書くって先生 言ってたけど、アシュレイはもう決まってるの?」
「俺は『 最強 』って書く」
「最強かぁ、アシュレイらしい」
フフッと笑ったティアに「お前は?」とアシュレイが逆に尋ねる。
「私?う〜ん、まだ決めてない」
好きな名前ならすぐ書けるけどね。と心でつぶやいてティアは干草に寝転がった。
「あ、これ中にチョコが入ってるやつだ」
飴を噛んだアシュレイがうれしそうに声を上げたので「君、この前おいしいって言ってたから」と応えた。
ティアは、自分がなんの気なしに言ったことをきちんと覚えておいてくれることが多い。そんなやさしいところが好きだなぁ、とアシュレイは思う。
「お前ってさ」
「うん?」
「・・・・なんでもない」
「えーっ!?やめてよ、気になるじゃない」
ぐいぐいアシュレイの腕をひっぱるティアがなんだかかわいくて、アシュレイは笑う。リスはとっくに離れて、えさを食べていた。
「言って、ちゃんと言ってよ」
しつこく食い下がるティアに「記憶力がいいなって思っただけ」と応えると「それだけ?」と少しガッカリした様子で唇を尖らせた。
年よりずっと落ち着いていて、美麗で頭脳明晰で仕事もこなしているティア。
そんな彼が、自分と一緒にいるときくらいは年相応にふるまえるといい。馬鹿なことしたり、冒険したりはできなくても大切な友人だから、自分といる時くらい心から笑ってもらいたい。
「俺たち、大人になってもずっと一緒にいような。俺が天界一の強い武将になってお前を守るから」
以前、約束したように言うと、ティアはいっしゅん目を見張り、それから照れくさそうに微笑んだ。
「なんか・・・今の、プロポーズみたいだったね?」
「はぁっ?なんだそれ、ありえねぇ」
心無いアシュレイの即答がティアの胸に突き刺さる。
「だいたい、お前も俺も男じゃん」
重ねて無神経な矢を射るアシュレイを、少し困らせてやろうとティアは意地の悪い笑みを浮かべた。
「そういえば君・・・・今日、女子とぶつかったとき」
ティアの白い手が、アシュレイの頬をするりと滑る。
「唇、触れてなかった?」
「触れてない」
「そう?あの子、初めてだったのに・・って、言ってたから」
「うそつけ!ぶつかったのは、頭だぞっ。お前だってコブに手光、当ててくれたじゃんか」
もちろんだ。ウソに決まってる。アシュレイだけに手光をあてると不公平なので、その女子にももちろん当ててやった。あの時もし、唇がぶつかったりなどしていたら速攻でアシュレイだけを連れ出しそれなりの対処で消毒している。
「ホントかな。私からはよく見えなかったから」
「あの勢いで口がぶつかってたら切れてんだろっ、見ろよ、なんともない!」
下唇をめくって見せるアシュレイはまんまとティアの奸策に引っかかっていることに気づかない。
「どれ?ちゃんと見せて。そうじゃなくて『ア』って開いて」
「ア」
「アシュレイ・・・・痛くなかった?ここ、口内炎ができてるけど」
「あ?」
「治してあげる」
「ア゛!?」
何のためらいもなく、舐めてくるティアに驚いて、干草に彼を押しのけたアシュレイだったが、ティアは素早く体勢を立て直すと「治療なんだから動いちゃダメ」と行為をつづけた。
以前、舌を切ったときもそうだった。「治療」だと言って同性同士なのにためらいなく、照れもせず、今と同じことをしてきた。
アシュレイには抵抗があったが、けっきょく「治療」だと言われると恥ずかしがったりするほうが恥ずかしいような気がして、受け入れることになってしまうのだ。
しかも・・・・ティアなら、嫌じゃない。
これが、柢王や他の同性だったら、気持ち悪くて、治療なんかしなくていい!と突っぱねるだろう。
なんでだろう・・・ティアは気持ち悪くない。
「アシュレイ、唇なめると荒れちゃうよ。カサカサしてる・・・ここも治療しておこうね」
ついばむように治療され、アシュレイは目を閉じたまま。
やわらかな優しい感触がはなれていくのを大人しく待つ。
「いいよ。おしまい」
目の前で、にっこりと笑むティアに笑い返すアシュレイ。ここで、照れたりしたら、そのほうが変なのだ、治療を受けただけなんだから。
「ありがとな」
「どういたしまして」
えさを食べ続けるリスに安心して、アシュレイが帰るか、と立ち上がり、ティアもそれに習う。
「あっちの奴はそろそろ森に帰れるな。明日にでも放しに行こう」
「うん、それがいいね。私も行くよ」
約束していると気の利かない護衛の一人が「守天様、そろそろ」と声をかけてきた。
「じゃあな、ティア」
別れを惜しむことなく、アシュレイが空に飛ぶ。
「気をつけて。アシュレイ、また明日」
「おう」
あっという間に見えなくなるその姿を、すこし寂しく感じながらティアは輿におさまった。
治療という言葉を出せば、すぐに大人しくなるアシュレイ。いつまでこの手を使えるか分からないが、せっかくだからとことん使わせてもらおう。
純粋というか鈍感というか、なアシュレイが、思うようにされているのも知らずに礼など言うものだから、ティアの悪巧みは加速する一方。
さっきだって「こちらこそ、ごちそうさまでした!!」と、心の中で『 治療 』の文字を巧みに書き上げていたのだ。
そう。間違いなく、今ティアがいちばん好きな言葉は、それなのであった。
★適度にお酒が入った状態でお読みください…
その1 氷暉入りでなければ
ティア「ねーねー、アシュレイ。桜の咲く国に大谷さんって人がいて皮膚の病気だったんだって。お茶会で廻し飲みしてる時、大谷さんの膿が茶碗に入ったんだけど、仲良しの石田さんって人は気にせず飲んだんだって」
アー「ふーん。なんかカッコイイな!」
ティア「そう? カッコイイ? 私だって、汗でも涎でも鼻水でも○○でも、アシュレイのだったら喜んで飲むよ!」
アー「、、、変態」
ティア「ガーン」
※○○にはお好きな単語を入れてください
その2 あなたの考えていることなど、、、
柢王「なーなー、桂花。桜の咲く国に、大谷さんって人が、、、」
桂花「変態」
柢王「、、、早くね?」
※戦国時代には既に、、、時代考証無視ってことで
その3 メルニック&カザンラク
メル「どーもー。パンツは裏表で二日使用する方、メルニックです」
↑人間界勤務時=桂花不在時=に限る
カザ(さりげなく一歩離れ)「、、、どーも。下着は日に二回変える方、カザンラクです」
↑相手がA 氏だったら一週間でも1ヶ月でも喜んでクンクンするのだろうが
メル「あんなー、聞いた話なんやけど、守天様は恋人がどんな姿をしていても、ヘソで見分けるらしいで?」
カザ「へー、そー」
その4 バカ親 (7巻より)
すぴすぴ寝ていたアシュレイは、人の気配に飛び起きた。
王子「くそッ、又親父のやつ、使い女でも?!」
炎帝「我だ」
王子「父上?!」
炎帝「おまえは過ちをあがなわねばならない」
昼は「大きくなったものだ」くらいしか言ってなかったのに、アシュレイは氷暉のことがバレたのか、ティアとの関係のことか、と焦りまくる。
王子「なななんのことだ?」
炎帝「幼い頃、すよすよ眠るおまえに、添い寝をしてやったとたん大泣きするとはどういうことだ? 父はショックだったぞ。さあ、今こそその償いに添い寝を、、、」
長い赤毛を見て、ここにはいない誰かを思い出してるとは思ったが。
王子「、、、烈燃波ー!」
「いーかげんにしなさい」
「ありがとございましたー!」
チャンチャン♪
くだらない上に下品ですみません、、、。
ティアと喧嘩して半年。天界では2日たった頃か。
アシュレイは姿隠術で姿を隠しつつ、夜の人間界を浮遊しながらティアのことを考えていた。
喧嘩の内容といえば、痴話喧嘩レベルのくっだらないもの。
自分たちが恋人と言える間になってから10年が経とうとしている。いい加減大人の関係になってもよさそうなものの、あの我儘守天ときたら、幼児化してるとしか思えない言動ばかり。元服前の方がよっぽど大人っぽくて頼りになったのものだ。そのくせ寝台での変態技だけは日々進化してるのはどういう訳だろう。
少し冷静になって考えさせるために、連絡はしばらくとらないつもりでいる。こっちだって仕事なのだ。守天直々の任務でもないのに一々報告する義務は無い。それなのにこの半年、気がつけばティアのことを考えている。まるで、10年ほど前にティアに突き離されていたときのようで、自分が情けない。
元々、隠し事をするティアが悪いのだと開き直ってみるが、やっぱり寂しい。
(俺は未だ天界一強い武将じゃないのかな...。あいつと対等になれる日なんかこないんだろうか)
アウスレーゼにも「守天の秘密はおいそれと話せるようなものではない」と言われている。無理に知りたい訳じゃない。ただ、今回みたいにどうせばれるような事なら最初から話しておいて欲しい。それを話せない程度の信頼関係なんだろうか。
ふと目を地上に降ろしたとき、ティアの後姿が見えた。更にその後ろをおかしな男たちが付けているのも。
「あいつ……!」
たった二日間が我慢できなかったのか、人間界なんかに来やがってと、アシュレイは焦って人影の無い路地に降り、姿を現してティアを追いかけた。
いた! 先ほどの男たちに拉致されかけている。
「ったく!」
アシュレイは風のように近づくと、人間の動きに見えるよう気をつけながら、あっさりと全員殴り倒した。
呆然としているティアの肩に手をかけ、強引に振り向かせる。
「この馬鹿ッ、又こんなとこまで追って来やがって。危ねえから止めろって何度言わせりゃあ気が済む……」
目を丸くして驚いている顔は美麗ではあったけれどティアではなかった。それどころか霊力すらない人間。
(いくら変化して霊力値を変えられるからって、人間と間違えるなんてどうかしている! くそ、俺としたことが)
「ワリィ!! 間違えた。すまねえ!」
理由もなく人間に関わることはできない。ただの人間違いとして今立ち去れば、この人間には何の影響もなく済むはずだ。
その時、横から勢いよく伸びた腕を、身体が勝手かわした。それも最小の動きで。パンチを放った少年が踏鞴を踏む。
「二葉、やめろ!」
いつの間にか、仲間と思われる少年たちが3人も増えていた。
「一樹、大丈夫?」
ティアと間違えた人物を守るように寄り添いこちらを睨んでいる。
角と耳は人間界に来たときに念のため隠していたが、髪と目はそのままだ。真っ赤に染めた髪に赤いコンタクトの怪しい外人じゃ、さっきの男たちの仲間に見えて当然。今の一発を素直に食らい捨て台詞でも残して去った方が、よっぽどマシだったかとアシュレイは臍をかむ。
「この方が助けてくださったんだよ。どなたかと人間違いをされたようだけど。お礼もまだ申し上げず失礼いたしました」
話が長くなりそうで、アシュレイは「あ、いや、勝手に間違えてホント悪かった。じゃあ!」と慌てて距離をとった。
一樹も無理矢理引きとめず「あなたの大事な人によろしく」とだけ声をかける。
(大事な人って! なんで……)
ふわりと笑った優しいけれど寂しげな顔が、昔のティアと重なった。
たぶん―大事なものを守りたいという信念とか、なんでも揃っているのに本当に欲しいものは手に入れられない寂しさとか、なにかティアの纏っている想いと重なるものがあるのだろう。
彼らと別れるとすぐに姿隠術を使い、後を追った。
「あの人すごかったねー。二葉のパンチ余裕で避けてたもんねー」
「累々と横たわる男たち見ただろ、絶対格闘家とかだよ。二葉が敵わなくてもしょうがないよ」
「くそ! 次は絶対当ててやる!」
「こら、俺を助けてくれたんだぞ」
「そうやって信用させて……って策かもしれないじゃないか」
「そんなことないよ。あの人は本気で心配してたから。俺じゃない誰かをね。さ、それより今夜の準備だけど……」
話はすっかりクリスマスパーティのことに代わっていった。じきに赤い髪の変な外人のことは忘れるだろう。これなら忘却の粉を使うまでも無いかと、アシュレイはほっとしてその場を去った。
無性にティアの顔が見たくなって、船も通らない海へ向かい、凪いだ水面に白水晶を浸す。
「アシュレイ?!」
絶対に白水晶の前でずーっと連絡を待っていたと思われる、焦ったティアの姿が映った。
慌ててホッとした笑みを無理矢理渋面に変えている。
「私なんかに、なんの用?」
丸2日間ほっておかれて、すっかりむくれている。
だが、こんな拗ねた顔を自分以外の誰かに見せてるところなんか知らない。
冷静沈着な守天様が、妬きもちをやいて泣いたり怒ったりするのも、実は甘ったれなのも変態なのも、自分だけが知っている。"ティア"と名前で呼ぶのも自分だけ。 ※2
例え対等ではなくとも、ティアにとって自分は特別な存在ではあるのだ。
思わず可愛い拗ね顔に微笑んでしまう。
「ティア、愛してる」
アシュレイが滅多に言わない言葉。しかも照れもなく、彼の目を見ながらはっきり言ったのは初めてのこと。
一瞬、何を言われたか解らない様に、ティアは目をぱちくりさせた。
「えええっっっ!!!」
その後言葉の意味を理解して驚きの声をあげたものの、数年に一度あるかないかのアシュレイからの愛の告白にかなりの動揺を見せている。
本当は涙が出るほど嬉しい、でも今はその一言だけじゃ足りないと文句も言いたい。そんな様子が手に取るように分かる。
あのティアで遊べるなんて――。自分も成長したものだと、アシュレイは更にティアを動揺させそうな極上の笑みを浮かべた。
(おわり)
※1 タイトルは「二人の愛を確かめたくって♪」と続きます
※2 この頃には閻魔は代替わりしてるはず...。カルミアの存在はもし生き延びてたとしても頭になし
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