投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
文殊塾にある小動物用の飼育小屋。そこに足を踏み入れたとたん、干草の香りとともに、獣臭が鼻をついた。
ふだん嗅ぎなれないその臭いに、顔をしかめながらそっと扉を閉める。
「アシュレイ・・・・?」
薄暗い小屋の中、足元でウサギがひょこひょこと歩いていくのを踏まないように気をつけながら、ティアは奥へと足をすすめた。
この飼育小屋はスクエアで、ウサギ小屋の隣が鳥小屋。その後ろがリス小屋。そして、保護してきたばかりの動物のために使用している特別室がウサギ小屋の後ろにある。
全てうすい壁で区切られてはいるが、中からどの小屋にも移動できるように簡易扉が設けてある。
ウサギが一緒に行かないように特別室へ続く扉を注意深く開けると、果たしてアシュレイの姿が目の前に。
自分の頬の近くで、リスを両手で包むようにし、様子を見ながら寝てしまったのだろう。すやすやと、真新しい干草の山に横たわっている。
クスッと笑って、ティアはその体の横に腰を下ろした。干草がティアの重みによって傾いたが、アシュレイは目を覚まさない。彼の手の中にいる、小さなリスも腹をさらして寝ている。
「警戒するどころか、アシュレイに気を許しすぎてお腹まで見せてるなんて・・・どうやって手なづけたのさ」
ひよひよと産毛のようなやわらかなリスの腹をそっと撫でるが、こちらも起きる気配はない。
「こんなんで、野性に帰れるかな;;」
リスから手を離し、次にアシュレイのお腹に触れてみる。今はぺたんこなアシュレイのそれは、お腹いっぱい食べると幼児体型のようにポコッと出てしまうのがかわいい。
呼吸のたびに上下する腹から目が離せなくなったティアは、無意識に彼の服をめくっていた。
「うっ・・・キュート過ぎるっっ」
両手で頬をおさえ、身をよじるティア。
お行儀の良いへそが鎮座する白い腹から目をそらすことが出来ない。いや、白いといっても、アシュレイは日に焼けて褐色な肌をしているため、それに比べると・・と言うわけだが。
「お腹が白いなんて、まさにアシュレイだね」
自分も柢王も腹黒い方だから、なおさらアシュレイの純白さがまぶしい。
ふふふ・・・と、顔にそぐわないあやしい笑みをこぼし小さなおへそに唇を近づけるティア。
ちゅ、ちゅ、と無心でそこを吸っていると、後頭部に衝撃を受け我に返った。
「なにやってんだーっ!」
「アシュレイッ、ち、ちがうちがう、今のは、今のはちがうよ、治療してたんだよ!」
両手をぶんぶん振って、ティアはでたらめな言い訳をする。
「君の服がめくれてたんで、なおそうとしたらおへその近くにすり傷があったから・・・」
信じて!!という目でまっすぐアシュレイを見つめるティア。
「・・・分かった。ちょっと、驚いただけだ。殴ってごめん」
ほらね。純白なアシュレイ。私のうそをすぐに信じちゃう。
ティアは、信じてくれてありがとう。と笑って、持ってきたキャンディーをアシュレイの口へ入れてやった。
「そういえば、次回の書の時間、自分の好きな言葉を書くって先生 言ってたけど、アシュレイはもう決まってるの?」
「俺は『 最強 』って書く」
「最強かぁ、アシュレイらしい」
フフッと笑ったティアに「お前は?」とアシュレイが逆に尋ねる。
「私?う〜ん、まだ決めてない」
好きな名前ならすぐ書けるけどね。と心でつぶやいてティアは干草に寝転がった。
「あ、これ中にチョコが入ってるやつだ」
飴を噛んだアシュレイがうれしそうに声を上げたので「君、この前おいしいって言ってたから」と応えた。
ティアは、自分がなんの気なしに言ったことをきちんと覚えておいてくれることが多い。そんなやさしいところが好きだなぁ、とアシュレイは思う。
「お前ってさ」
「うん?」
「・・・・なんでもない」
「えーっ!?やめてよ、気になるじゃない」
ぐいぐいアシュレイの腕をひっぱるティアがなんだかかわいくて、アシュレイは笑う。リスはとっくに離れて、えさを食べていた。
「言って、ちゃんと言ってよ」
しつこく食い下がるティアに「記憶力がいいなって思っただけ」と応えると「それだけ?」と少しガッカリした様子で唇を尖らせた。
年よりずっと落ち着いていて、美麗で頭脳明晰で仕事もこなしているティア。
そんな彼が、自分と一緒にいるときくらいは年相応にふるまえるといい。馬鹿なことしたり、冒険したりはできなくても大切な友人だから、自分といる時くらい心から笑ってもらいたい。
「俺たち、大人になってもずっと一緒にいような。俺が天界一の強い武将になってお前を守るから」
以前、約束したように言うと、ティアはいっしゅん目を見張り、それから照れくさそうに微笑んだ。
「なんか・・・今の、プロポーズみたいだったね?」
「はぁっ?なんだそれ、ありえねぇ」
心無いアシュレイの即答がティアの胸に突き刺さる。
「だいたい、お前も俺も男じゃん」
重ねて無神経な矢を射るアシュレイを、少し困らせてやろうとティアは意地の悪い笑みを浮かべた。
「そういえば君・・・・今日、女子とぶつかったとき」
ティアの白い手が、アシュレイの頬をするりと滑る。
「唇、触れてなかった?」
「触れてない」
「そう?あの子、初めてだったのに・・って、言ってたから」
「うそつけ!ぶつかったのは、頭だぞっ。お前だってコブに手光、当ててくれたじゃんか」
もちろんだ。ウソに決まってる。アシュレイだけに手光をあてると不公平なので、その女子にももちろん当ててやった。あの時もし、唇がぶつかったりなどしていたら速攻でアシュレイだけを連れ出しそれなりの対処で消毒している。
「ホントかな。私からはよく見えなかったから」
「あの勢いで口がぶつかってたら切れてんだろっ、見ろよ、なんともない!」
下唇をめくって見せるアシュレイはまんまとティアの奸策に引っかかっていることに気づかない。
「どれ?ちゃんと見せて。そうじゃなくて『ア』って開いて」
「ア」
「アシュレイ・・・・痛くなかった?ここ、口内炎ができてるけど」
「あ?」
「治してあげる」
「ア゛!?」
何のためらいもなく、舐めてくるティアに驚いて、干草に彼を押しのけたアシュレイだったが、ティアは素早く体勢を立て直すと「治療なんだから動いちゃダメ」と行為をつづけた。
以前、舌を切ったときもそうだった。「治療」だと言って同性同士なのにためらいなく、照れもせず、今と同じことをしてきた。
アシュレイには抵抗があったが、けっきょく「治療」だと言われると恥ずかしがったりするほうが恥ずかしいような気がして、受け入れることになってしまうのだ。
しかも・・・・ティアなら、嫌じゃない。
これが、柢王や他の同性だったら、気持ち悪くて、治療なんかしなくていい!と突っぱねるだろう。
なんでだろう・・・ティアは気持ち悪くない。
「アシュレイ、唇なめると荒れちゃうよ。カサカサしてる・・・ここも治療しておこうね」
ついばむように治療され、アシュレイは目を閉じたまま。
やわらかな優しい感触がはなれていくのを大人しく待つ。
「いいよ。おしまい」
目の前で、にっこりと笑むティアに笑い返すアシュレイ。ここで、照れたりしたら、そのほうが変なのだ、治療を受けただけなんだから。
「ありがとな」
「どういたしまして」
えさを食べ続けるリスに安心して、アシュレイが帰るか、と立ち上がり、ティアもそれに習う。
「あっちの奴はそろそろ森に帰れるな。明日にでも放しに行こう」
「うん、それがいいね。私も行くよ」
約束していると気の利かない護衛の一人が「守天様、そろそろ」と声をかけてきた。
「じゃあな、ティア」
別れを惜しむことなく、アシュレイが空に飛ぶ。
「気をつけて。アシュレイ、また明日」
「おう」
あっという間に見えなくなるその姿を、すこし寂しく感じながらティアは輿におさまった。
治療という言葉を出せば、すぐに大人しくなるアシュレイ。いつまでこの手を使えるか分からないが、せっかくだからとことん使わせてもらおう。
純粋というか鈍感というか、なアシュレイが、思うようにされているのも知らずに礼など言うものだから、ティアの悪巧みは加速する一方。
さっきだって「こちらこそ、ごちそうさまでした!!」と、心の中で『 治療 』の文字を巧みに書き上げていたのだ。
そう。間違いなく、今ティアがいちばん好きな言葉は、それなのであった。
★適度にお酒が入った状態でお読みください…
その1 氷暉入りでなければ
ティア「ねーねー、アシュレイ。桜の咲く国に大谷さんって人がいて皮膚の病気だったんだって。お茶会で廻し飲みしてる時、大谷さんの膿が茶碗に入ったんだけど、仲良しの石田さんって人は気にせず飲んだんだって」
アー「ふーん。なんかカッコイイな!」
ティア「そう? カッコイイ? 私だって、汗でも涎でも鼻水でも○○でも、アシュレイのだったら喜んで飲むよ!」
アー「、、、変態」
ティア「ガーン」
※○○にはお好きな単語を入れてください
その2 あなたの考えていることなど、、、
柢王「なーなー、桂花。桜の咲く国に、大谷さんって人が、、、」
桂花「変態」
柢王「、、、早くね?」
※戦国時代には既に、、、時代考証無視ってことで
その3 メルニック&カザンラク
メル「どーもー。パンツは裏表で二日使用する方、メルニックです」
↑人間界勤務時=桂花不在時=に限る
カザ(さりげなく一歩離れ)「、、、どーも。下着は日に二回変える方、カザンラクです」
↑相手がA 氏だったら一週間でも1ヶ月でも喜んでクンクンするのだろうが
メル「あんなー、聞いた話なんやけど、守天様は恋人がどんな姿をしていても、ヘソで見分けるらしいで?」
カザ「へー、そー」
その4 バカ親 (7巻より)
すぴすぴ寝ていたアシュレイは、人の気配に飛び起きた。
王子「くそッ、又親父のやつ、使い女でも?!」
炎帝「我だ」
王子「父上?!」
炎帝「おまえは過ちをあがなわねばならない」
昼は「大きくなったものだ」くらいしか言ってなかったのに、アシュレイは氷暉のことがバレたのか、ティアとの関係のことか、と焦りまくる。
王子「なななんのことだ?」
炎帝「幼い頃、すよすよ眠るおまえに、添い寝をしてやったとたん大泣きするとはどういうことだ? 父はショックだったぞ。さあ、今こそその償いに添い寝を、、、」
長い赤毛を見て、ここにはいない誰かを思い出してるとは思ったが。
王子「、、、烈燃波ー!」
「いーかげんにしなさい」
「ありがとございましたー!」
チャンチャン♪
くだらない上に下品ですみません、、、。
ティアと喧嘩して半年。天界では2日たった頃か。
アシュレイは姿隠術で姿を隠しつつ、夜の人間界を浮遊しながらティアのことを考えていた。
喧嘩の内容といえば、痴話喧嘩レベルのくっだらないもの。
自分たちが恋人と言える間になってから10年が経とうとしている。いい加減大人の関係になってもよさそうなものの、あの我儘守天ときたら、幼児化してるとしか思えない言動ばかり。元服前の方がよっぽど大人っぽくて頼りになったのものだ。そのくせ寝台での変態技だけは日々進化してるのはどういう訳だろう。
少し冷静になって考えさせるために、連絡はしばらくとらないつもりでいる。こっちだって仕事なのだ。守天直々の任務でもないのに一々報告する義務は無い。それなのにこの半年、気がつけばティアのことを考えている。まるで、10年ほど前にティアに突き離されていたときのようで、自分が情けない。
元々、隠し事をするティアが悪いのだと開き直ってみるが、やっぱり寂しい。
(俺は未だ天界一強い武将じゃないのかな...。あいつと対等になれる日なんかこないんだろうか)
アウスレーゼにも「守天の秘密はおいそれと話せるようなものではない」と言われている。無理に知りたい訳じゃない。ただ、今回みたいにどうせばれるような事なら最初から話しておいて欲しい。それを話せない程度の信頼関係なんだろうか。
ふと目を地上に降ろしたとき、ティアの後姿が見えた。更にその後ろをおかしな男たちが付けているのも。
「あいつ……!」
たった二日間が我慢できなかったのか、人間界なんかに来やがってと、アシュレイは焦って人影の無い路地に降り、姿を現してティアを追いかけた。
いた! 先ほどの男たちに拉致されかけている。
「ったく!」
アシュレイは風のように近づくと、人間の動きに見えるよう気をつけながら、あっさりと全員殴り倒した。
呆然としているティアの肩に手をかけ、強引に振り向かせる。
「この馬鹿ッ、又こんなとこまで追って来やがって。危ねえから止めろって何度言わせりゃあ気が済む……」
目を丸くして驚いている顔は美麗ではあったけれどティアではなかった。それどころか霊力すらない人間。
(いくら変化して霊力値を変えられるからって、人間と間違えるなんてどうかしている! くそ、俺としたことが)
「ワリィ!! 間違えた。すまねえ!」
理由もなく人間に関わることはできない。ただの人間違いとして今立ち去れば、この人間には何の影響もなく済むはずだ。
その時、横から勢いよく伸びた腕を、身体が勝手かわした。それも最小の動きで。パンチを放った少年が踏鞴を踏む。
「二葉、やめろ!」
いつの間にか、仲間と思われる少年たちが3人も増えていた。
「一樹、大丈夫?」
ティアと間違えた人物を守るように寄り添いこちらを睨んでいる。
角と耳は人間界に来たときに念のため隠していたが、髪と目はそのままだ。真っ赤に染めた髪に赤いコンタクトの怪しい外人じゃ、さっきの男たちの仲間に見えて当然。今の一発を素直に食らい捨て台詞でも残して去った方が、よっぽどマシだったかとアシュレイは臍をかむ。
「この方が助けてくださったんだよ。どなたかと人間違いをされたようだけど。お礼もまだ申し上げず失礼いたしました」
話が長くなりそうで、アシュレイは「あ、いや、勝手に間違えてホント悪かった。じゃあ!」と慌てて距離をとった。
一樹も無理矢理引きとめず「あなたの大事な人によろしく」とだけ声をかける。
(大事な人って! なんで……)
ふわりと笑った優しいけれど寂しげな顔が、昔のティアと重なった。
たぶん―大事なものを守りたいという信念とか、なんでも揃っているのに本当に欲しいものは手に入れられない寂しさとか、なにかティアの纏っている想いと重なるものがあるのだろう。
彼らと別れるとすぐに姿隠術を使い、後を追った。
「あの人すごかったねー。二葉のパンチ余裕で避けてたもんねー」
「累々と横たわる男たち見ただろ、絶対格闘家とかだよ。二葉が敵わなくてもしょうがないよ」
「くそ! 次は絶対当ててやる!」
「こら、俺を助けてくれたんだぞ」
「そうやって信用させて……って策かもしれないじゃないか」
「そんなことないよ。あの人は本気で心配してたから。俺じゃない誰かをね。さ、それより今夜の準備だけど……」
話はすっかりクリスマスパーティのことに代わっていった。じきに赤い髪の変な外人のことは忘れるだろう。これなら忘却の粉を使うまでも無いかと、アシュレイはほっとしてその場を去った。
無性にティアの顔が見たくなって、船も通らない海へ向かい、凪いだ水面に白水晶を浸す。
「アシュレイ?!」
絶対に白水晶の前でずーっと連絡を待っていたと思われる、焦ったティアの姿が映った。
慌ててホッとした笑みを無理矢理渋面に変えている。
「私なんかに、なんの用?」
丸2日間ほっておかれて、すっかりむくれている。
だが、こんな拗ねた顔を自分以外の誰かに見せてるところなんか知らない。
冷静沈着な守天様が、妬きもちをやいて泣いたり怒ったりするのも、実は甘ったれなのも変態なのも、自分だけが知っている。"ティア"と名前で呼ぶのも自分だけ。 ※2
例え対等ではなくとも、ティアにとって自分は特別な存在ではあるのだ。
思わず可愛い拗ね顔に微笑んでしまう。
「ティア、愛してる」
アシュレイが滅多に言わない言葉。しかも照れもなく、彼の目を見ながらはっきり言ったのは初めてのこと。
一瞬、何を言われたか解らない様に、ティアは目をぱちくりさせた。
「えええっっっ!!!」
その後言葉の意味を理解して驚きの声をあげたものの、数年に一度あるかないかのアシュレイからの愛の告白にかなりの動揺を見せている。
本当は涙が出るほど嬉しい、でも今はその一言だけじゃ足りないと文句も言いたい。そんな様子が手に取るように分かる。
あのティアで遊べるなんて――。自分も成長したものだと、アシュレイは更にティアを動揺させそうな極上の笑みを浮かべた。
(おわり)
※1 タイトルは「二人の愛を確かめたくって♪」と続きます
※2 この頃には閻魔は代替わりしてるはず...。カルミアの存在はもし生き延びてたとしても頭になし
(kd113151204178.ppp-bb.dion.ne.jp)
柢王のくれたチケットはゲームコーナーを完全制覇出来るほどあった。
射的やパンチボールはアシュレイがその運動神経のよさを見せた。迷路などティアも参加できるゲームのチケットは二枚あった。
「柢王の奴 初めから俺たちにくれるつもりだったんだ。」
好意を無にしない為にも 遊ぼうと思い定めた。
途中で「フリマに行かないか。」という提案をしてみたが、「同じ会場で年少組が演奏会やっているよ。」の言葉に諦めた。
そして 遊んで遊んで遊び倒した。手元のチケットがなくなると、辺りは夕闇、屋台は片付け始めている。
ティアは地面にしゃがみこんで ゲームの景品を小さい子に配っていた。両手に抱える程あった駄菓子や玩具はすぐになくなった。
「何か飲みたいな。さわぎ過ぎてノド乾いた。」ティアは子供達に バイバイと手を振り立ち上がった。
「オーイ ティア アシュレイ」向こうから柢王が歩いてくる。
「ほら これ文殊先生からご褒美の軽食だ。お前たちの分貰ってきた。それとなアシュレイのお姉ちゃんが 不用になった看板とか燃やしてダンスしましょうって言ってたぞ。」
アシュレイはたじろいだ、嫌いだ ダンスも付きものの音楽も。
「逃げよう。」ティアがアシュレイの手をとる。
「柢王 今日はとっても楽しかった、ありがとう。」
「よかったな。」
柢王はあたたかい笑みを浮かべて 逃げろと背中を押す。
ティアに引っ張られてアシュレイは走った。止まったのは、校舎の裏手 飼育小屋だった。
息を切らして駆け込んできた二人を動物たちが取り囲む。アシュレイは柢王から渡された包みを開け ジュースを見つけるとティアに渡した。
集まった動物は食べ物をもらえると距離をつめて来た。
「今 分けるからがっつくな。」と包んであった弁当を開ける。ナイフを手にしてオカズを切り分け それぞれの口に運んでやる。
「アシュレイ ナイフかしてくれる。」
「なんだ 袋が開けられないのか。かせよ。」
「違うよ こうしたかったんだ。」ティアは金色の紐を取り出すとアシュレイのナイフに結んだ。
「これいつも持っているでしょう。柢王と冒険に行くときも。だからこれは私の所に無事で帰ってこられるように お守りだよ」
「お守りって これお前の髪を編んだのか。」
「そう 女の子がミサンガ編んでいたでしょう、教えてもらって作ってみた。これだけしか成功しなかったけど。」
これだけ成功ということは、俺が朝から買いに行きたいと思っていたミサンガ、ティアお手製は最初からフリマに なかったのか。
欲しかったミサンガよりステキなお守りが手に入った。
「髪まで切って、何してんだか。これ汚れても知らないぞ。なくすかもしれないし。」素直に大事にするとは言えないアシュレイ。
「いいよ、また作るから。髪はのびるからいくつでも作れる。」めげないティア。
二人の周辺はホカホカでしたとか、もちろん動物の体温で。
時は下り、ティアの髪は短くなり、柢王の鉢巻が柄布となった頃の天守塔
「これがな、桂花の愛に包まれる俺。」先ほど持ち込んだ菓子の箱から出したのは、黒豆が入った紫芋の羊羹だ。
「これは、桂花を守る俺。」すみれの砂糖漬けがチョコレートでコーティングされている。
「バカか」居合わせたアシュレイがつぶやく。ティアははため息をついた。これは先日の紅芋のケーキのリベンジだ。一緒に来た桂花は蔵書室に行った。「逃げたな桂花」
クスクス笑いながら、お茶を出したくれた使い女の手首にミサンガを見つけた。
「なんだ またミサンガが流行っているのか、文殊塾でも女の子が作ってたなあ。」
「ここで流行っているミサンガには意味があるんだ。」アシュレイは人の悪い笑みを浮かべた。「黄色はティア、紫が桂花をさしているんだ。好みの人だと。」
「赤はアシュレイだよ。」ティアが付け加える。「赤と黄色は私達二人が好きという意味になる」
「紫と金もある。執務室のコンビが好きという意味らしい」
俺の桂花は美人で頭もいいからティアと並べても見劣りにないよな と柢王はニコニコした。
「でも紫と黒はない。」柢王の笑顔が固まった。
「使い女の制服は白だ。黒と紫じゃあ 喪服になるだろ。」
無情なアシュレイの言葉に柢王撃沈。
きれいなミサンガはたくさんあるけれど 最高のは俺が持っているさ。とアシュレイは会心の笑みを浮かべたとか。
開門すると人がなだれこみアシュレイは揉みくちゃにされた。
一団が通り過ぎ ゼイゼイと荒い息をついた。見れば塾の中は人だらけ‥。
「ヤバい 売れちゃう」アシュレイにはどうしても手に入れたい物があった。「あれは奥のフリマのテントで売ってる筈。」
アシュレイはあせって歩き出した。
門の回りの人ごみを抜けると、長い行列が見えた。並んでいるのは女性ばかり、列の前はとみると ティアの花屋だ。
白いテントの下 天守塔の庭に咲いた物だろう 色とりどりの花が大きな壺に活けられている。
背後には葉物やリボンが飾られている。その中でティアが花束を造っているのだ。「に‥似合っている。」つぶやくと頬に血がのぼる。
でも何か変だ。ティアの動きがおかしい、そうかとうなずいたアシュレイはテントの中に入っていった。
「俺が切るからかせ。」アシュレイはベルトにさげていた愛用のナイフを取り出し、ティアが持っていた花を取り上げた。
ティアの右手には、小さな先の丸まった鋏 これでは固い茎が切れなかったのだ。
「ありがとう アシュレイ 茎の長さをそろえて切って。」
「わかった、そっちの鋏でもリボンは切れるだろ つつむ用意しろ。」
「うん。」嬉しそうにティアがうなずく。
それからアシュレイは言われるがままに手を貸した。
赤 ピンク オレンジ 黄色 回りは色の洪水 むせそうな花の香り、アシュレイの頭がボーとなった所に声が降ってきた。
「アシュレイ 守天殿のお手伝いとは、感心です。最後までちゃんとやるんですよ。」
「えっ 姉上」
グラインダースは今しがたアシュレイが切ったばかりのカラーの花束を抱えている。背の高い細身の姿にすっきりとした白のカラーの花は映える。
「最後までって。」
買い物に行きたいとは、姉の前では言い出せない。客が途切れた所で抜け出す訳にもいかなくなった。
「守天殿 この子をよろしく。放っておくと何するかわかりませんから。」
「大丈夫です。グラインダース様。アシュレイは今日一日私と一緒ですから。」
そんな約束したっけ アシュレイは考えたが、した覚えはない。
けれど 姉上には逆らえない。
グラインダースは笑顔で「きれいな花をありがとう。」と言い置いて取り巻きと去った。
「さっさっと働け。早く終わりにしよう。」
こうなったら早じまいするに限ると、アシュレイはティアを促した。
程なくして、花の壺はからになった。
ティアは残った葉っぱに売り切れと書きテントの屋根からさげた。
「手伝ってくれてありがとう、アシュレイ。おかげで早く終わった。」
「じゃあな」と言って歩き出そうとしたアシュレイの腕をティアは捕まえた。
「お腹すかない。もうお昼だよ、柢王の屋台に行こうよ。」
「俺行きたい所あるから。」
と言いかけるとティアはアシュレイのお腹を指して「ぺったんこだよ。お昼ごはんにしよう」というとアシュレイを捕まえたまま歩き出した。
チョコバナナ たこ焼き リンゴ飴と屋台が並ぶのをティアは珍しそうに眺めながら柢王の店を探した。
「あった」ここも人だかりができている。
「さあてお立合い 東領は花街の特製焼きそば」豆絞りのねじり鉢巻きにハッピ姿の柢王が大きな鉄板の前に立っている。
「麺はシコシコの太麺」バサッと麺を鉄板にのせる。
「キャベツは御料農場産だ」キャベツを放り投げ、パチンと指をならすと葉は短冊状になり麺の上に落ちる。
「キャー柢王様 カッコいい」女性の黄色い声が上がる。
柢王は普通の倍はありそうな大きなヘラを取り出した。トントンと鉄板を叩くとヘラを空に投げる。ヘラはクルクル回って柢王の左手に収まる。
もう一本ヘラを取り出し 今度は背中から投げ上げ前で受け止めた。
再度あがった歓声の中に「あれが我が国の王子とは」と嘆く声がした。
声の出所を探そうと動きかけたアシュレイの腕をティアは離さなかった。
「柢王のかまいたちすごく正確だね。葉っぱの大きさが同じだよ。」
「うん芯をはじいたのも見えた。」アシュレイは柢王に目を戻した。些細な事を気にする奴ではない。
柢王はジャグラーのようにヘラを扱いながら、焼きそばを焼いていく。口上も止まらない。
「ソースは濃厚少々辛い 辛いのが苦手なご婦人にはマヨネーズをサービスだ。さあ食べてくれ。」
手早く盛り付けて客に配り、二皿を手元に残しティアに来いと指で合図した。
「花屋は終わったのか。」
「うん 柢王の言った様にバラをそろえたから、みんな喜んでくれた。全部違う花束になる様にもしたよ。」
「そうそう 女性にバラ贈っとけば間違いない。ただし 赤のバラは誤解されるから要注意だ」女たっらしは何教えたのだろうか。
「後は自由時間だな。こっちで座って食べろ。」柢王は荷物が載っている机の上を片付け、下から椅子を引き出した。
「ありがとう柢王 お腹すいてたんだ。」ティアは焼きそばを笑顔で受け取った。「焼きそば焼くのも初めてみた。柢王は上手だね。」
「簡単さ。」柢王は目を細めてティアの髪をなでる。「そうだアシュレイ、これやるから、二人で遊んでこい。」
アシュレイがみれば、ゲームコーナーのチケットだ。
「お前が買ったんか。」
「違う、焼きそば差し入れて貰った。俺は商売繁盛で行けないからやるよ。」
確かに店の前には客が集まり始めている。
「嬉しいな ゲームなんて初めて、遊べるとは思わなかった。」
ティアは満面の笑みだ、アシュレイにこの笑顔は壊せない。
「仕方ねえな、さっさっと食って行こう。」
こうなったらティアを誘ってフリマに行き 目を盗んで欲しいものを手に入れるしかないが、売れないでくれと祈るアシュレイだった。
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