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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.304 (2011/10/13 12:59) title:しらゆきひめ
Name:まりゅ (sndr5.bisnormaljl.securewg.jp)

 塾の学芸会が開催される。
 アシュレイたちのクラスの出し物は演劇。8人の官吏に守られた美しいお姫様が、魔族に狙われ毒を喰らわされるが、最後は通りがかりの王子様が救うという、有名な昔話だ。
 配役は、お姫様のティアと王子様のアシュレイ。
 元々は全員一致で王子様役はティアだったのだが、お姫様役を巡ってクラス中流血沙汰になりかねない勢いだったので、「お姫様役をアシュレイがやるなら」と言う条件でティアが受けたのだった。
 だが、「絶対に女の役なんかやんねー!!」と喚くアシュレイに、ほとほと手を焼き、「王子様役はアシュレイ、お姫様役はティア」に変更となったのだ。先生としても、台詞の多い主役を、あのアシュレイにやらせるのは非常に抵抗があり、上手く収まったと胸を撫で下ろしてはいたのだが。

 今日は二人で台詞合せの練習。アシュレイの出番は最後だけなので、ティアの特別指導ということになっている。 
「な、なんてうつくしいかたなのだ。あわゆきのようなしろいはだ。りんごのようにあかいちいさなおくち…なんだか、口ン中がフワフワして変だぞ、上手くしゃべれない」
「きっと歯が浮いているんだよ…」
「ばらいろのほおに…こいつ、しんでるんだろ? なんで血色良いんだよ? それに腐らないのか?」
「そういうところをつっこんだらダメなんだよ…。細かいところは気にしないように」
 台本を読みながら疑問を口にするアシュレイに、ティアは丁寧に答えている。
「おうじはひめと、くち、くち…くちうらをあわせる?」
「ウラじゃないよ、ビルだよ。…アシュレイ、わざと? そんなにイヤ?」
「なにがだ? なんか難しい文字が一杯あって読みにくいんだ」
「ト書きは声に出して読まなくてもいいんだよ…」
 アシュレイは文字を追うだけで精一杯で、内容までは把握してないようである。
「俺、やっぱりこの役は無理だ。馬の役が良かったのに」
「今更そんなこと言わないの。君が馬の役なんかやったら、王子役がいなくなっちゃうでしょ? 特に南の子達は自国の王子様を差し置いて、そんな役が出来るわけないもの」
「俺は全然構わないのにな…。俺がやらないと皆に迷惑がかかるのか。でも、俺みたいなヘタクソがやる方がもっと迷惑かけそうなんだけどな」
 四国中から、わが子の芸を見るためにそれなりの貴族が集まるのだ。ただでさえ、簡単な嘘もつけない自分が、どうして「芝居」などできよう。
 いつも元気なアシュレイが、シュンと萎れていると、まさに押し倒したくなるような可憐さだ。
「大丈夫。君ならできるよ」
 そっと赤い頭を抱き寄せて慰めているが、その目は獲物を見つけた獣のようにギラギラと光っている。もちろんアシュレイには見えていない。
 ティアに慰められ励まされ、気を取り直して、一生懸命続きを読むアシュレイ。
「ひめのくちから、どくりんごのかけらが、ころがりおちる…きったねーな、こいつ、ずっと口ん中にりんごを入れてたのか?!」
「違うよ、王子様の<治療>で、毒が吐き出されたんだよ」
「<治療>? やっぱりおまえの役だよな、これ。どんな<治療>したんだ?手光か?」
「さっき読んだでしょ。ウラじゃなくてビルだからね」
「さっき? あ…、くち…ビル…?」
 アシュレイの顔が赤らむ。
「こ、こんなん、適当にフリをすりゃあいいんだろ!」
 ティアが急にキッと真剣な顔で、アシュレイを睨んだ。
「君は! みんなが一生懸命に演技をしているのに、適当ですませるつもり?! みんながご両親に、自分の晴れ姿を見せようと頑張っているのに!」
「で、でもっ、これって芝居なんだし…」
「リアルを追求すべきでしょ? ふりなんて! 観客を馬鹿にするにもほどがある」
 子供のお芝居なのに、観客重視なのか?
「本番では、君がちゃんとやらない限り、私も続きの演技はしないからね!」
 なにをそんなに怒ってるのかさっぱり解らなかったが、とりあえず普段無い迫力に反論もできず、小さくなってコクコク肯くしかなかった。
 さっきは、細かい設定を気にするなといったのに、どうしてここではリアルを追求するのか、よくわからなかったけど。

本番の日。
ティアは、いつもは縛っている月色の髪を下ろし、裾をくるくると巻いている。淡いピンクのドレスに薄化粧をしてみれば、誰もが息を飲むほどの美しいお姫様の出来上がりだ。
 皆が見惚れる中、アシュレイだけは自分のことでいっぱいいっぱいで、ティアのお姫様姿にも気がつかないよう。
「王子様。どうかしら、この姿は」
 ティアはアシュレイの腕をとって自分の胸を押し付ける。
「ん?肉まんいれてんのか?」
「ふふ、ドレスに合うよう胸だけ変化してみた。どお?」
 アシュレイは初めて、その姿に気付く。
 親友の声と顔なのに、見知らぬ美少女が立っているように見え、思わず頬を赤らめた。
「お、おまえはどんなカッコをしても似合うから…」
「アシュレイもカッコいいよ。さすがは王子様。正装するとたちまち貴公子だね。たまにはその格好で晩餐会しようよ」
「ヤダ。窮屈だからホントは着たくねえんだからな。我慢してんだ」
「ねえ、私は今日、アシュレイの恋人だからね? そのつもりでいてね」
 赤らめた頬に満足したのか、ティアがそれ以上絡んでくることは無かった。

 姫の愛らしさに会場中がうっとりする中、いよいよ王子が姫を助ける場面が来た。
 なんか色々怒られたけれど、やっぱりお芝居なのに、そんなことをするのは変だと、横たわる姫に一応ぎりぎりまで顔を近付けるとアシュレイは小声で囁いた。
「ティア、起きろよ」
微動だにしない「お姫様」。顔がいつもより青白い気がする。まさか本当に毒を飲んだのではとちょっと心配になり、「いい加減にしろよ。みんなが変に思うだろ」と怒ってみたが、やっぱり反応がない。息すらしてないように見える。本当にリアルを追求してしまったのか?
 客席もざわつき始める。心配そうに見守る先生と仲間の方に向かって、焦ったアシュレイが「ティアが毒を…」と叫ぼうとした時、気配を察知しハッとする。ティアを抱きかかえ、急いでその場から飛び退った。同時に今までティアが寝ていた場所に、大きなライトが落下し、姫の棺が粉々になって飛び散る。 
 会場中がパニックに陥り、慌てる職員達が舞台を右往左往する中、全く気にならないように王子様から目を離さないお姫様。
「アシュレイ!ありがとう!!君は命の恩人だよ」
 そういいながら、ティアは呆然と落ちていたライトの残骸を見つめるアシュレイの首に思い切り抱きつきいた。
(あったかい…)
 大好きな親友が、温かいことに涙がこぼれそうになったアシュレイ。
 ティアのことだから、ちゃんと結界をはっただろうが、彼が大怪我をしても誰も治せない。
 さっきまで動かなかったくせに、何故今は元気なんだという疑問も忘れ、ほっとしてティアをギュッと抱きしめる。ティアの唇や手が、こっそり自分の頬や体を這い回ってるのにも気づかずに。

 騒がしい会場の隅で、黒髪の先輩が苦笑いしながら独り言ちていた。
「おいおい、タイミングよすぎないか〜、ティア〜」
 その呟きは、誰の耳にも、もちろん当のティアにも届くことは無かった。

おわり

※たとえ、文殊塾で学芸会があっても、親は呼ばれないと思うし、王子だからという特別扱いも無いだろうけど〜
 


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