投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
―「いっぺん、桜の木の下に埋まってみますか?」
人間界の桜を眺めながら、柢王は、天界にいる相棒の言葉を思い出していた。
あれは、いつだっけ?
思い出せねぇな。
その時の表情や、声はすぐに浮かんでくるのに、原因は思い出せない。
ま、いっか。
なんかで、あいつを、恥ずかしがらせた時だ。
いつもは、青白い毒舌も、そんな時は、この桜の花のように染まって…
何度でも聞きたくなるんだよな。
その時の表情ときたら…
頬が緩むのがわかる。
桜を眺めながら、にやけてるなんて、誰もいないとわかっていても、
辺りを見回してしまう。
相変わらず、群生する桜の花が、まるで雲のようにたなびいているだけだった。
一斉に咲き乱れる姿は、妖しく美しい
まるで、桂花みたいだ。
あぁ、そうだ。
―「あなたが養分の桜なら、吾が大切に育てます」
なんて言うから、桜なんて勝手に、咲くんじゃないかと言ったら、
「桜は、少しの傷にも弱い、手のかかる植物なんですよ。
だからこそ、咲き乱れる姿は美しいんです」
人間界の桜を懐かしく思い出すように、桂花は遠い目をしていた。
危ないところだった。
任務の途中で、ここに立ち寄ったのは、あまりにも桜が綺麗だったので、
この桜を桂花への土産にしたら、喜ぶかなと思ったからだ。
桜を、手折ったりしたら、桂花を悲しませるところだった。
風に乗って、微かに春の甘い香りがする。
―もちろん、桂花には、俺が養分になったら困るだろうことを、
寂しさを吹き飛ばすくらい、しっかり教えたけどな。
さっさと任務を済ませて、桂花のそばに帰ろう。
それが、一番の土産に決まってる。
自信ありげに柢王は笑って、最後にもう一度、満開の桜を見上げた。
風に吹かれて、桜がひらひら舞い落ちる
その中の1枚が、柢王の服にくっついて
天界で、桂花に見つけられ、
また、寄り道してましたね
と、軽く睨まれて、
桜の話をしたら、
気持ちだけで吾はうれしいですよと
微笑うのが愛しくて
柢王は思わず、桂花を抱き寄せた。
そんな日常が、薄紅色。
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