投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
ティアが八紫仙に連れられ会議へ向かったあと、彼の部屋でひとり暇を持て余していたアシュレイが、何気なく机のいちばん下の引き出しをあけると、平たい紙の箱が入っていた。
何が入っているのだろうと、遠慮なくあけて、首をかしげる。
「なんだ?これ・・・」
中には透明なファイルが、数枚重なって収められていた。
取り出してみると、チョコレートかキャンディーが包まれていたであろう銀の紙が、きれいに皺を伸ばされ正方形の状態で挟まっている。
そのすぐ下に、ティアの字で、なにか書いてあった。
『アシュレイからもらったチョコレート』
「・・・・は?」
わけが分からないまま次のをめくる。
『アシュレイと交換したチケット』
「なんだ?」
次のも、そのまた次のも、ゴミとしか言いようのないものがファイルされていた。
「なんだよコレ・・これじゃあ俺がティアにゴミしかあげてないみたいじゃないか」
柢王が居たら「 問題はそこかっ!? 」と突っ込まれるであろうアシュレイのズレた感覚に、この後ティアは助けられることとなる。
会議が終わるまで待っていると言ってくれたはずなのに、大急ぎで戻ってきた時、部屋に期待の笑顔はなかった。
「え・・・・帰っちゃったのアシュレイ・・」
うるさい八紫仙の言うこともガマンして聞いたし、上の空にならないよう部屋で待っているアシュレイのことを考えないで頑張ったのに・・・。
「退屈だったんだろうな・・・お菓子だけじゃなくて動物の写真集とかも用意しておけば良かった」
大きな椅子に体を預けガックリとうなだれていると、いきなり突風が吹いて、書類を数枚持って行かれてしまった。
「あぁっ、窓が開いてたのか」
しゃがみこんでそれらを拾い集めていると、見覚えのある靴が視界に入る。
「アシュレイ」
「会議終わったのか」
「うん・・帰ったんじゃなかったの?」
「ちょっと出てた」
一緒に書類を拾い終わったアシュレイが、ポケットからなにやら取り出して、ティアに手渡した。
「なに?」
「やる」
一瞬、泣きそうな顔をしてから、ティアは結んであるリボンを外して丁寧に包み紙を開いていく。
「・・・その紙とリボンは捨てろよ」
「えっ・・・・・わかってるよ?」
ギクリと止まった指をすぐに動かしながら、ぎこちなく笑ったティアは中身を見ると声をあげた。
「わぁっ!香袋だね!?」
「気に入ったか?」
「うん!ありがとうアシュレイ!」
淡いクリーム色をしたレースの袋は、香り玉を入れられる。
「でもなんで?」
誕生日でもないのにアシュレイからのプレゼント。不思議に思ったティアが問うと、アシュレイは正直に、勝手に引き出しの中の箱を見たこと話した。
「や・・・やだ、な、見たの?アシュレイ・・」
めまいを覚えてふらついたティアはその場に座り込んでしまった。
(どうしよう・・・変なことしてるのバレちゃった・・でも・・それなのにプレゼントくれるって・・・?)
青ざめたティアの肩をポンポンとアシュレイがたたく。
「大丈夫だって、誰にも言わねぇよ。うちの使い女にもいるぜ、きれいな柄の包装紙とか空箱とか記念のチケットとか捨てられないやつ」
「えっ?・・うん、そう!私も捨てられないんだ!」
「でもあれは捨てろよ。食いモンの包み紙やらケシゴムのケースやら。俺がお前にゴミばっかやってるみたいじゃんか」
「うん。わかった・・・それでこんなステキなプレゼントを用意してくれたの・・・」
ホッとして笑顔を見せたティアにアシュレイが頭をかきながらつけたす。
「まあ・・さ、お前はなかなか自由に出歩けない身だから、ああやって想い出のチケットをとっておくんだろ?だから・・・やっぱりチケットはとっといていい。俺が天界一の強い武将になったら、お前の護衛して色んなとこ連れてってやるからな」
「アシュレイ・・・」
今度は本当に涙ぐんで、ティアはアシュレイの体にしがみついた。
「ありがとうアシュレイ、ありがとう・・・大好きだよ」
アシュレイの顔に頬擦りしたドサクサにまぎれ、ぷにぷにのホッペに唇を押しつける。
「わーかったって、くすぐったいだろ、こら、ティア離れろって」
「本当に大好きなんだ」
「そうかよ」
みんなの人気者のティア。
きれいで頭がいいティア。
誰にでも平等に優しいティア――――――でも本当は平等じゃない。
彼が、ほかの誰より自分のことを、優先してくれていることが嬉しい。
「ほら、いいかげん離せ」
笑いながらやわらかな金の髪をクシャッとして、いつまでもしがみついているティアを剥がすと、アシュレイはさっきのファイルを手にとりチケットだけ抜き出して他のものをあっという間に燃やしてしまった。
「あーっ!?」
「・・・なんだよ、分かったって言ったろ?」
「・・・・・そうだけど・・」
アシュレイが帰ったら、箱に結界を張って別の場所に隠すつもりでいたのに、せっかくコツコツ集めていたティアの宝物は、想い人の手によって、跡形もなく消されてしまったのであった。
(でもいいや。いちばんの宝物は、きみ本人だもの)
その笑顔が見られるだけで、幸せになれる。
これからさきも、ずっと。いちばん近くにいたい。
残ったチケットを手に、ティアは想い人に向かって微笑んだ。
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