投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
守護主天…と、いう名の病──
窓際にたたずむ麗人の口もとに、ふと、薄い笑みが刷かれたのは、何か言いたげな顔をした若い男が、しかし、肝心なことは何も
言いきらぬままに部屋を出て行った直後。窓の外に、光広がる午後の執務室でのことだ。
あられもない薄絹の乱れもついに正さぬままで、気まぐれにあしらうようだったかれの態度を、どう思ったことか。
出て行った青年の瞳にあったのはとまどうような気遣いと、もどかしいような若い悔しさ。
かれだけが、そんないつわらなさで麗人の前に立つ。
この世のすべてを司る、最高位者への畏怖も忌憚も、そしてあの、どうしようもない苛立ちを生む、暗く烈しい情念抜きに──。
「だから、おまえには触れさせない──」
つぶやいた、人の瞳は、己が生み出すとされる光のただなかで、万華鏡のように、ふしぎな影を宿している。
この世にたった一人。
この世のすべての光、すべての希望を生み出すとされる絶対者。
生まれながらにして、サンクチュアリと同じ条件を求められる至高者。
白く。完全に白く。
一点の汚れもない、絶対の純白さを求められているその身が、あられもない情事にうつつを抜かし、情人たちを振りまわしているさまを、
出て行った男の瞳がどう映すかと見たものか──
たたずむ人の瞳はふと、足元にわだかまる影を見つめて、
「おまえには、理解させたくもないけれどね──」
この世に、光しかなければ、そもそも守天など必要もない。
少しずつ汚れ、少しずつ曇り──生きているものが影を必要とするのは、容赦もなく真実を暴き立てる、その狂気に近い純白さに
耐えることができないからだ。
その矛盾を理解しながら、それでも自らの役割を果たすだけだと、言い切れる強さが、あるのならきっと楽だっただろうに──
自らが生み出す光が強くなればなるほど、その向こうに広がるまばゆい闇の強さに心が惹かれる。
その弱さ、その脆さ。そして、自らの暗い想いの結末を、誰かが確実につけるその戦慄、その苦さ、さみしさ、孤独。
そこから逃げ出すように、誰かを求める。
その想いがいつか相手を、そして自らを、死に至らしめるとわかっているのに、
(いっそ、一筋の光も届かない闇のなかで、私を愛して──)
この光の中から、救って欲しいと望んでいる──
「だから、おまえには、触れさせない……」
この狂気を孕んだ守護主天という病の核心までは、決して近づけさせない。
その想いの強さだけが、いまこの世界に光を生み出している。
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