投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「私が治してあげようか?」
寝つけず寝室を出ると、少し離れた廊下の隅で使い女がふたり、立ち話をしている姿が目に入った。近づけば、使い女のひとりが「胸が苦しい」と使い女仲間に話す声が聞こえ、幼い守天はそっと声をかけていた。
「守天様…! 申し訳ございません、お気になさらないで下さい。…そんなことより、なにか御用がおありだったのではございませんか?」
「別に用ってほどのことじゃ…。苦しいのは大丈夫? 痛くはないの?」
真剣に気遣ってくれる守天に、仲間の若い使い女の口元がほころぶ。
「本当に大丈夫ですよ。この娘が苦しいのも痛いのも、それはある意味喜びなのですから」
「…苦しくて痛いのが、うれしいの?」
「苦しくて痛いのはもちろんつらいですが、それだけではないんですよ」
小首を傾げ要領を得ない表情の守天に、ふたりの使い女はささやいた。
「守天様も、もう少し大人になったら分かります」
「ええ。胸が苦しくて、痛くて、でも……それだけじゃない気持ちが」
「ふうん…」
「さ。御用を仰って下さいませ。…あとでなにか身体が温まるものをご用意致しましょう」
「うん。…あ、それでね、明日の入学式に持って行くものなんだけど、」
使い女に促され、ともに部屋へと歩を進めながら、守天の思考はすでに明日へと飛んでいた。
「もう五日も前から御用意してありますよ」
「いよいよ明日ですね」
よほど心が逸るらしい守天に、使い女達が笑みで答える。
「うん。どんなところかな……。友達、できるかな」
だがいよいよ明日となれば期待ばかりではないらしい。守天の口からも不安がこぼれた。
「…友達、ですか? それは…」
「も、もちろんですとも! 守天様と親しくなりたくない者など、この天界に唯の一人もおりませんよ」
幼いとはいえ、この世界の最高位である守天に『友』を望むことは厳しいだろうと一瞬口ごもった使い女を制し、もう一人の使い女が殊更優しげにそう答えた。
「………」
「大丈夫ですよ」
少し戸惑い気味に微笑む使い女と、力強く言い切るもう一人の使い女を交互に見ながら、幼くとも聡い守天の心に諦めと言葉にならなかった思いが沈んだ……。
「やい! ティアランディアってどいつだ」
入学式のあと、無事組分けも終わり教室で歓談していたときのことだった。
突然呼ばれた自分の名前に、守天は驚いた。『守天様』ではなく『ティアランディア』と、しかも乱暴なことに名前を呼び捨てにされたのだ。
「どいつだ! おまえかっ?」
当てずっぽうで指差され、泣きだしてしまった女子もいた。
「けっ! 泣き虫。ティアランディア・フェイ・ギ・エメロード? へーんな名前!」
守天は、自分を取り巻いていた女子の輪をかきわけて前に進み出、声の主に近づき「私だ」と答えた。
瞬間、目の前の乱暴な少年が息を止め、自分を見つめてきたかと思えば、
「俺はアシュレイ・ロー・ラ・ダイ。南の王が俺の父上だ。その名前つけたの、おまえの父上?」
八重歯を見せて、微笑んだ。
それが、アシュレイと交わした最初の言葉だった。
その後、紆余曲折を経て、守天は『守天だから』ではない、『ティアランディア』としての友を得る。
『守天だから親しくなりたい』のではなく、『ティアランディア』だから得ることのできた、初めての友。
――― そして数年後。
守天は、手光でも聖水でも治せない苦しみや痛みがあることを、知ることになる……。
終。
Wow!!! Good job. Could I take some of yours triks to build my own site?
** 一部、プレノタートのネタバレがありますのでお気をつけ下さい **
なにかにつけて記念日をつくる。
そんなことは、浮かれた女子が勝手につくり勝手に祝うものだと思っていた。
「・・・なんだって?」
「だからね、この前の苺 記念日のときに―――」
「ちょっと待て。その苺 記念日ってなんだ?」
「え?やだな、苺 記念日っていったら、変化した君がドレスを着て私と踊った日じゃない。公衆の面前でプロポーズしたのに、忘れるつもりなの?次の日の朝なんて、初めて君のかわいいお口が私の・・イタッ」
品の良い顔にいやらしい笑みを浮かべながら、指を絡めてくるティアをつい殴ってしまったのは、仕方のないことだろう。
しかし、変態な恋人は頭をさすりながらセクハラ発言を続ける。
「あの朝のバースデープレゼントには興奮したよ」
「プッ、プレゼントじゃねぇし!!」
氷暉が聞いているというのを知っているくせに平気でこういう事を言うティアの神経を疑う。羞恥のカケラもないのか。
まるで氷暉に聞かせるためのように、それからもあの記念日がどうの、この記念日がどうのとうるさい。
「おまえ、そんなくだらねーことでいちいち記念日なんかつくってたら、一年が全部記念日で埋まるぞ」
呆れ口調で言うと、「ステキだね!君との記念日が一年中だなんて♪」 と、まったくイヤミが通じない。
「でも、なんと言っても私にとって印象深いのは『岩場記念日』だよ。あの時はすごく寒かったけど君の肌はあたたかくて、君の中はもっとあた・・モゴッ」
すごい勢いでアシュレイに口をふさがれたティアは、息ができずにもがく。
「それ以上しゃべったらマジで殺すぞっ」
うんうん、と頷いた口を解放してやると、ティアは部屋中の酸素を吸い込むように喘いでから、恨めしそうな視線をむけた。
「ひどいよ・・・・君は私を殺せるの?」
酸素不足のせいなのか、本気で悲しんでいるのか、瞳いっぱいに涙をためこんでいるティア。
「私はなにがあっても、どんなことをされても、君を殺したりできないよ。君が息をしなくなるなんてこと、考えただけで気が狂いそうだもの」
うなだれながら切々と訴えるティアに、居心地がわるくなるアシュレイ。
「悪かったって・・・・本気にとるなよ。俺だっておまえがいなくなったりしたら、どうにかなっちまう」
その言葉に瞳を輝かせ、ティアは愛しい体を包みこんだ。
「どうにかなっちゃうなら・・・・私の寝台でどうにかなっちゃって?」
「・・・・・・・はあっ!?」
やわらかい声でささやかれて、ついその言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまった。
「放せ、バカッ!!」
アシュレイはとっさにティアの脇腹にケリを入れると、瞬間移動で自室へ逃げていった。
《 で?岩場記念日ってなんだ。俺が知らないということは共生する前のことだな 》
部屋についたとたん、氷暉が待ってましたとばかりに問いかける。
「そ、そんなこと、知らなくていいっ」
《 お前の肌があたたかかったと言っていた 》
この時点で、アシュレイは必死になって「あの時」を思い出さないようがんばった。
《 岩場ということは外だな・・・・・寒かったけどお前の肌があたたかく・・お前の中はもっと・・・なるほど 》
氷暉がニヤリと笑った気がして、アシュレイはわめく。
「うるさいっ!勝手にヘンな想像すんなよっ?!」
思考回路を切ろうとしたつもりなのに、ますます記憶が蘇りアシュレイは慌てた。
《・・・・・・・・》
「人の頭ン中読むなって言ってんだろっ!おい聞いてンのか、氷暉!」
《・・・・・・・・・》
「コラ――――ッ!!」
真っ赤になって、さわぐアシュレイをよそに、氷暉は「岩場記念日」の記憶を読みとってしまった。
《 ふん、人界でな。寒いのによくやる 》
「わーっわーっワァァァァ――――――!!」
両耳をおさえて走りだしたアシュレイに《耳をふさごうが逃げようがムダだろ。お前の中にいるんだぞ》と笑った氷暉だったが、体の主には届かない。
ゼェゼェ息を切らし、やっと足を止めたアシュレイは、次の氷暉の言葉にめまいを覚えた。
《 俺との記念日もつくるか。蛟記念日・・・は、おまえにとっていい記念にはならないな。そうだな・・・・これから風呂にでも入って、かわいがってやろうか。風呂場記念日 》
「・・・・ビンテージの聖水記念日ってのもいいかもな」
そんなことをしたら、ビンテージの聖水を飲んでやる。と、脅しをかけたつもりだが、氷暉はかるく聞き流していた。
「また氷暉殿と話してるの」
「ティア!?」
とつぜん背後に現れたティアに距離をおくアシュレイ。
「禁縛記念日をもう1日増やそうか」
「アホかっ」
「・・・・・分かってよ。君が好きで好きでたまらない。君に関しては氷暉殿になにひとつ譲るつもりはない」
譲るつもりも何も、共生したからには既に自分だけのアシュレイではなくなってしまったけれど・・・けれど、やはり許せないのだ。
恋人の全てを独り占めしたいのに、自分では知り得ないアシュレイの本音を、氷暉はただ存在するだけで完全に把握してしまえる。
それがくやしい。
「そんなに氷暉がうらやましいのか」
「・・・・・」
「氷暉は実体がないんだぞ」
「・・・分かってるよ」
「そうやって拗ねたって、こんな風に・・・・甘やかされることもないんだ」
言うとアシュレイはデカンタを手にし、ひとくち含んでからティアを抱きしめる。
「甘やかしてくれるの?」
「もう少し待て」
「甘えんぼ記念日?」
「くだらねぇ」
どう諭されてもシットしてしまうけれど。
精一杯のアシュレイの気持ちに応えるべくティアは恋人の体を抱きかえす。
実体がなければできないこと。
恋人でなければできないこと。
アシュレイは自分が彼を殺したということもあり本気で気の毒に思っているのだろう。
( 同情と愛情はちがうよね )
アシュレイの、氷暉に対する感情を同情だと決めつけたら、「ひとことで簡単に表現できるものじゃない」と彼は怒るかもしれないが、そう考える事で自分を何とか宥める。
「君だけを愛してるよ」
氷暉を含めてアシュレイを愛せると言ったらウソになる。実際、彼が妬ましいのだから。
今夜、もしくは明朝。自分たちの営みをアシュレイから読みとるであろう氷暉。
(せいぜい、出歯亀ればいい)
自分にしかできないことを見せつけてやろうとするティアは、尊い身分の守護主天とはかけ離れた、ただの嫉妬に狂う男なのであった。
「柢王、桂花、こっち来いよ!」
アシュレイが呼びに来た理由は、テーブルに置かれた、見た目も美味しそうなケーキでございました。
「クリスマスケーキですか?」
「人間界で、クリスマスプレゼントのお礼にってもらった」
桂花の問いに、威張ってアシュレイが答えて、柢王がツッコミます。
「プレゼント交換だろ、それは」
「ふふっ…断ったんだけど、その子も買ったのに、お兄さんも買ってて、2つも食べきれないからってくれたんだよ」
思い出し笑いをするティアに、アシュレイも笑いました。
「面白いんだぜ。毎年二人とも買って来るんだってさ」
「なんで、どっちが買うか決めとかないんだ?」
「パーティーするわけじゃないし、季節感を感じるから、さり気なく用意したいなと思うんだそうだよ」
「仲良き兄弟だな」
アウスレーゼ様がおっしゃると、冥界教主様はアヤしい笑みを浮かべていらっしゃいます。
「あの子の兄ならさぞ…」
「ふむ…確かに、そそられるね」
息もつかせないアヤしいトーク突入は、ティアランディアの質問で阻止されました。
「あの子?なぜご存じなのですか…まさか!」
「もちろん、そなたたちの仕事を見届けるのも、ブラック・サンタとしての我の役目だからね。ずっと見ていたよ」
「ずっとだと!!」
当然ではないかと楽しそうなアウスレーゼ様に、まさかあの時も見られていたのではと、アシュレイは焦っています。
「手をつないで飛んでいるところも、抱き締めているところも、可愛い顔を…」
「うわぁぁ!!」
「うるさい…」
アシュレイがアウスレーゼにそれ以上言わせまいと叫び、耳元で叫ばれた桂花は、とっさに切り分けていたケーキで、アシュレイの口をふさぎました。
「うぐっ…ん〜美味いっ!」
「あーんした…ずるいっ」
ティアがうらやましそうに、桂花につめよって、
「すみません。つい…」
「俺だって、めったにしてもらえないのに」
柢王がアシュレイにヘッドロックをかけ、
「我にも、食べさせてくれまいか」
ちゃっかり交ざってお口をお開けになる冥界教主様に、アウスレーゼ様が笑っていらっしゃいます。
「ふふふ、にぎやかな事だ」
守護主天様が、これほどにぎやかに過ごしていらっしゃれば、地上も幸せに違いありません。
遠見鏡は、慎吾の姿を映しておりました。
暗闇の中、クリスマスプレゼントを持って、走る姿を。
世界中の人たちが幸せに過ごせますように。
メリークリスマス。
ぽかぽか陽気に誘われて、庭のテーブルにお茶の用意をしている桂花のそばで、柢王がふわぁぁっとあくびをしていると、突然金色の嵐が現われて、平和な午後の終わりを告げました。
「我は、クリスマスプレゼントを所望する」
冥界教主様は、挨拶もなくそう宣うのでございます。
「クリスマスはサンタクロースが、プレゼントを渡すものではありませんか?」
人間界に詳しい桂花は、サンタクロースらしきお召し物の冥界教主様に、伺います。
「我は、ブラックサンタだ。だから、クリスマスプレゼントをもらう資格がある」
「…」
(ブラックサンタ…って、黒いサンタか?)
(知りません。どうしますか?)
(…任せた。お前が適任だ)
(柢王っ)
柢王と桂花のどちらが対応するか、視線で押し付けあっている事も意に介さず、冥界教主様はお話しをお続けになりました。
「この紙に書かれたものを、人間界で買って参れ。その間、こいつの世話はしておいてやろう」
こいつと、捕まえられた氷玉は嫌がって、ぴぃーと鳴きます。
「お待ちくださいっ」
「天主塔にいる。優しく世話をしてやるが、遅いと焼き鳥にしてしまうぞ」
突然現われた嵐は、哄笑と一枚のメモを残して、氷玉を連れ去ってしまいました。
「…人質だろ、それは…焼き鳥にしてどうすんだ?…まさか、食うのか?」
唖然と呟く柢王に、我に返った桂花は、冷たい目を向けております。
「柢王、突っ込むところは、そこではありません」
「いや、あんまりにも、アレだったから」
「…それにしても、あの人は、何を企んでるのでしょうか」
「仕方ない。さっさと、買い物すませようぜ。あいつなら、本当に焼き鳥にしかねないからな」
疲れたように柢王が申しますのに、桂花も確かにやりかねないと思うのでございます。
ティアランディアとアシュレイが、人間界から戻って参りますと、天主塔にも、クリスマスツリーが飾られておりました。
大きなもみの木のてっぺんには金色の星がキラキラ輝き、枝にはたくさんのクリスマスオーナメントが飾られ、幻想的な風景を演出しております。
「なっ!なんだこれ!!どうしたんだ」
「いつの間に!人間界で見たのと変わらないね」
驚く二人に冥界教主様が、お声をおかけになりました。
「ようやく、戻ったか」
「冥界教主様?どうして天界に、いらっしゃるのですか?」
「そなた達とクリスマスパーティーとやらをしようと思ってな。我らが、そなたの為に飾り付けたのだ」
アシュレイが「すごいな」と、ティアランディアが「綺麗ですね」と申し上げるのを、冥界教主様が当然のようにお聞きになっていらっしゃいます。
それを、少し離れたところで、柢王と桂花が見ておりました。
「…俺らが、ほとんど飾ったんだが…」
「柢王。聞こえますよ」
「だって、桂花っ!あいつは、遠見鏡で人間界を見て、アシュレイのお尻が可愛いとか、ティアが美人だとか、あの子は可愛いなとか、アウスレーゼ様と盛り上がってただけなんだぞ」
「何もしてないのに、そこの飾り付けは気に食わぬとかもおっしゃってましたが…触らぬ神にたたりなしですよ」
「桂花」
噂をすればなんとやら…冥界教主様にお声をかけられて、桂花と柢王はぎくりといたしました。
「これは、そなたへのクリスマスプレゼントだ。冥界に咲く花を、天界でも育つように李々に改良させた」
「このような花が冥界に?ありがとうございます。大切にいたします」
「こんな男は捨てて、冥界に永住すれば、もっといろんな花が見られるぞ」
桂花は、以前から冥界教主様に冥界に住まないかと、強引に誘われておりました。
李々がいる事には、心惹かれるけれど…
何度断っても、「断られる」という言葉が辞書にない冥界教主様は、あきらめてくださらないのです。
「吾が離れられないのですよ。李々に宜しくお伝えください」
「嫌じゃ。冥界に参って、自分で申せばよい」
ふんと機嫌を損ねた冥界教主様は、ティア達のほうにお戻りになりました。
「桂花っ」
桂花の後ろに寄り添うように静かにしていた柢王が、冥界教主様が去ると耐えきれなくなって、桂花を強く抱きしめました。
どこへも行かせないと言うように。
それに桂花は、困った人ですねと微笑い、小さな箱を渡します。
「柢王…これは吾からあなたへの、クリスマスプレゼントです」
「小さな陶器のマリア像?こんなに小さいのに精巧だな。ひんやりしているのに、この微笑みを見るとあたたかく感じる」
「フェーヴと呼びます。人間界の西の方の国では、エピファニーと言う祭りの時、ケーキの中に入れて焼き、切り分けたケーキの中に入っていた人は、その一年幸せに過ごせるそうです。自分で幸せにしたい人を決めるマリア像。柢王が気に入ればいつまでも、そばにいてくれますよ」
このマリア像のように、桂花はずっとそばにいるのだと、伝えたかったのでございます。
「自分で決めるか…」
桂花のプレゼントに込められた心を受け取って、不敵な笑みを浮かべる柢王に、桂花の笑みはマリア像と同じくらい、あたたかくなっておりました。
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