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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.219 (2008/06/03 20:33) title:ひまわり(上)
Name: (15.153.12.61.ap.gmo-access.jp)

 名残の花というにはまだ早い桜が、風に吹かれて児童のあいだを縫うように舞い落ちる。
 アシュレイはこの春で小学5年生になった。今日は進級して初の登校日だ。
 毎年クラス替えのある近隣の小学校とちがい、ここ文殊小学校は2年に1度のクラス替えなので、これから2年間同じメンバー、同じ担任となる。
 それが、3,4年生のころも担任だったアランだとわかり、飛び上がって喜んだのはアシュレイだけではなかった。
(まだ終わんね―のかよぉ〜)
 校長先生の話は長い。担任の発表が先だったため、すでに緊張感がなくなった生徒たちは、足元の砂をけずったり靴を片方ぬいだりと暇をもてあましている。
 最前列でアシュレイが大きなあくびをひとつもらすと、前に立っていたアランと目が合った。
(やべぇ)
 あわてて口をとじたアシュレイに、彼は「メッ」という顔をしたが、その口角はあがっていたので悪びれず笑いかえす。
 と、そのとき後方で生徒がざわざわと騒ぎだした。
「なに?なんだ?なにがあった!?」
 ぴょんぴょん跳んで後ろのようすをうかがうアシュレイの目に飛びこんできたのは、学年トップクラスの才女、大空桂花の肩を借り、生徒の間から出てきた橋本柢王の姿だった。
「柢王!?」
 具合がわるそうに口元をおさえて歩くようすに、なんども目をこするアシュレイ。
(俺と同じくらい頑丈な奴が?うそだろ?)
 ヨタヨタ歩いていく後姿を信じられない気持ちで見送っていると、校長が話を中断し、新しく就任した先生の紹介がはじまった。
 その後スムーズに進行された朝会が終わると、アシュレイは足早に昇降口に向かい、保健室へと急ぐ。
 そっと引き戸を開け中をのぞくと、桂花の後姿があった。保健の先生はいないようだ。
 アシュレイが近づくと、桂花が場所をあけてくれたので小声でその名を呼んだ。
「柢王・・・?」
 背をむけている肩が、わずかにふるえている。
「―――――てめぇ・・・」
 アシュレイが唸ると、柢王はふりかえりニヤリと笑った。
「お前やっぱ、仮病かっ!おどろかせやがって」
「朝会、早く終わっただろ?」
「なに言ってやがる、このバカ」
「バカだと〜?俺の大芝居に感謝してほしいぜ」
「ったく、おかしいと思ったんだ、お前が保健室なんて・・・桂花もグルか」 
「要領を得ない長話は大嫌いです」
 桂花の辛辣な発言に二人は「確かに」と声をたてて笑った。
「俺は2時間目までここで寝てるから、よろしく」
「わかった、じゃあ後でな」
 アシュレイが桂花と保険室を出て行こうとすると、ちょうど引き戸が開きもう一人の親友、中島ティアランディアが現れた。
「病人が声を立てて笑ってるなんて、先生に聞こえたら大目玉だよ」
「おまえも来たのか」
「アランが君を呼んでこいって。桂花が付いてるのに君まで行くことはないって」
「ゲ、なんでここにいるって分かったんだ。さすがアランだな」
 感心して見せたアシュレイにムッとして、ティアは唇をとがらせる。
「そんなの、先生じゃなくてもわかるよ。私だって君のことなら・・・」
 ぼやくティアはこれからの2年間、アシュレイとまた同じクラスになれたことはとても嬉しいが、担任が引きつづきアランだというのが気に入らない。
 だいたい、教師のくせに教え子の姉に夢中だなんて・・・確かにアシュレイの姉は彼とそっくりで可愛らしい人だが、既婚の子持ちだ。非常識にもほどがある。
 眉間にシワをよせているティアに気づかず、走って階段を上っていくアシュレイはあまりにも無邪気すぎて、桂花はティアの隣りで苦笑をもらした。

「えーっ、家庭訪問〜?」
 配られたプリントを見て、アシュレイが声をあげる。
「そうです、再来週から始まるから、おうちの方に都合の良い日を記入してもらうこと。みんな、木曜日までだよ」
「うちなんかもう2回も来てんだから今年はこなくてもいいじゃん」
 ピラピラとプリントを振りながらアシュレイが言うと、「君のお宅には必ず伺います」と、アランは満面の笑みを見せた。
 なんでだよー、と言いながらも嬉しそうなアシュレイの遠い横顔に、ティアは唇をかむ。
 アシュレイは年上の男性に弱い。
 彼は実兄がいないせいか(兄のような姉はいるが)やたら年上の男に懐くのだ。
 一方的に懐くだけならいいが、相手もアシュレイを気に入ってしまうパターンが多い。
 彼の義兄を筆頭に、ティアの祖父アウスレーゼにも、兄のパウセルグリンにも、とても可愛がられている。
 商店街を歩けば、金物屋のハンタービノ、ハーディン親子や酒屋の氷暉など、アシュレイに声をかけるものは後を絶たない。しかもみんな男ばかりだ。
(なんで男にばかりもてるんだ、君は――――・・・は〜な〜ざ〜わぁぁ〜・・#)
 元気にしゃべるアシュレイを、彼の隣の席でうっとりとほほ笑みながら見つめているのは、花沢ナセル。
 ティア、桂花とトップを争う才媛であり、アシュレイの大ファンでもある。
 何かというとアシュレイに向かって「私の将来の旦那サマだし」発言をし、ティアの人相を悪くする存在だ。
 今のところナセルがいちばん手強い恋のライバルと言っていいだろう。
 まあ、それにしても。
 小学生のうちに運命の相手と出会えたのはラッキーだった。
 これからも、アシュレイに勉強を教え、中学までには彼の成績を自分に近いレベルまで引き上げてみせる。同じ大学へ行くために。
 アシュレイの今の成績は中の上。勉強嫌いで塾に通うこともしない彼がこの成績を保っているのは、ひとえにティアランディアの努力のたまものだった。
(私は勝手だな。自分の欲のために君が好まない勉強をさせるなんて――――でも・・・)
 開いたままのノートに書き列ねていく名前。
1 花沢ナセル
2 三河屋の氷暉
3 担任のアラン
4 金物屋のハーディン
番外  磯野セシリア
(セシリアは血の繋がった妹だから、まぁいいとして・・・要注意人物の4人は気を許せないな。特に花沢ナセル、あれはなんとかしなければ)
 しょっちゅうアシュレイのそばをうろつき、世話を焼きまくる姿は非常に目障りだ。
 席替えのクジで見事アシュレイの隣の席を引き当てた運の強さも腹立たしい。
(アシュレイは私のものなのにっ)
 彼と出会ったその瞬間、確かな想いが胸の中に息づいて、今では揺るぎないものとして自分を支配している。
 アシュレイの些細な言動のひとつひとつが雫であり、それが大きな波紋をつくりティアのあらゆる感情を呼びさましたのだ。
 こんな豊かな気持ちを与えてくれた彼を、誰かに奪われるなんて我慢できない。
(――――嫉妬なんて感情は・・・・あまり知りたくなかったけどね)
 エゴだと分かっていても、引き返すつもりなど毛頭ないティアランディアであった。


No.218 (2008/06/02 01:19) title:出会い☆過去編 その9
Name:砂夜 (p4251-ipbf1407funabasi.chiba.ocn.ne.jp)

ーーパタパタパタ。。パタン!
必死に逃げる赤い影。。一番奥の部屋。他に逃げ場がなくて仕方がないから入るのだけれど。
どこかに隠れようと探すが目に付いたのは大きな窓の前の白いカーテン。
ここであいつが通り過ぎたらそのままこの家から出て行けばいい。
シャッ。お願い。。どうか気づかれませんように。。

カチャ。。。パタン。。
   
遠慮がちに開かれたドアに、アシュレイはカーテンの中、息を潜めて目をつぶる。
今夜は満月。
月の光に照らされて、薄い布越しに浮かびあがる、愛しい人のシルエットを見つめ、
ティアはそっとドアを閉めた。
そんな隠れ方ではすぐに分かるというものだが、きっとこの子はそんなことは計算していないのだろう。

  ティア   『アシュレイ? どうして逃げるの? いつものように怒っていいから』
ティアは、ゆっくりと三歩近づいた。足音はアシュレイにも聞こえているはずだ。
あと少し。手を伸ばせば確実に触れることのできる距離。
でも、こんなに近くにいるのに心は遠い。
カツン。ティアは歩みを止めて、わずかに掠れた声で呼んだ。

  ティア    『アシュレイ・・・お願い、私から逃げないで』


・・・ドキ、ドキ、ドキ・・少しずつ大きくなる鼓動。息が苦しい。。何故こんなに胸が痛いんだ?
   ティア    『アシュレイ・・・』ささやくように言われて。ドキンッ!息が止まる。気づかれた!? 恐くて目を開けられない。。
初めて経験する激しい鼓動。。まともに体が動かない。自分の心がこんなに自由にならないなんて。。
苦しくて苦しくて。。こんなに苦しいのならこのまま自分は死ぬような気がしてならない。
   アー     (そんなの嫌だ!あいつに会えなくなるじゃないかっ!。。。。って、なんて思ったんだ今!)呆然として。。
ようやく。。そうようやく、やっと自分の思いが何であるのかを自覚するのである。。。

あまりにも長い沈黙がお互いを身動きできないままにさせていた。
わずかに開いた窓の隙間からふわりと流れる優しい風。
ひらりと動いたカーテンが彼女の姿をティアの前に現せる。隠れることが出来なくなったアシュレイの目の前にはティアがいる。
ひと目見ただけで嬉しくてただそれだけで流れる涙。
俺はこいつが好きなんだ。。どうしよう?もう動けない。逃げられない。。
からまる視線。近づく人影。堪えきれなくなったアシュレイはそのまま座り込んむがそれでも目は離せない。
  ティア    『・・愛してるよ・・』両手で彼女を抱きしめる。(やっとつかまえた。)
動けないアシュレイ。止まらない涙。もう何も分からない考えることもできない。
ただ分かるのは自分がティアに抱きしめられている。ただそれだけ。。
今宵お互いのぬくもりに酔いしれながら、2人の長い夜が始まる。


No.217 (2008/06/01 15:12) title:お月さまも笑ってる3
Name:薫夜 (160.155.12.61.ap.gmo-access.jp)

「い〜しやぁ〜きぃも〜おいも!美味しいよ!!」
アウスレーゼの代わりに残りの焼き芋を売る事を課せられて、初めはやけくそだったアシュレイだが、マイクで叫ぶと、奥様達が走って来て飛ぶように売れるので面白くなってきた。
「楽しそうだね。アシュレイ」
隣でゆっくり車を走らせているティアは楽しそうなアシュレイを見ているだけで幸せだ。悔しいけれど…アウスレーゼ様の着せたフリルのエプロンはアシュレイによく似合っていて、可愛いすぎる。
「やってみると、楽しいぞ。いらっしゃ…」
「今から伺うところだったのですが、どうして焼き芋を売っているのですか?」
磯野さんちでの夕食会に向かう途中の桂花に、苦笑するティアと仏頂面のアシュレイが車から降りて来る。
「いろいろあって」
「お前には関係ないだろっ!」
「アシュレイ。今日の夕食は桂花のすき焼きがいいって言ったのは君でしょ」
ティアの取り成しに、ふんと横を向くアシュレイ。そこに、呑気な様子で柢王がやってきた。
「焼き芋かぁ。うまそうな匂いだな。なな、桂花買ってくれよ」
「ご飯前に…」
「いいだろ!一つくらい」
「仕方ありませんね」
「よっし、半分こにしようぜ!」
柢王は半分に割った焼き芋をかじって、美味いっ!と残りの半分を桂花に差し出す。
「夕食が食べられなくなるから、結構です」
「そう言わずに上手いから食えって、ほら、あーん」
「んんっ…強引な…あぁ、美味しいですね」
「だろ!落ち葉で焼いても上手いけど、やっぱ一味違うぜ」
「柢王、口の横に焼き芋が付いていますよ」
「ん?」
いい事思いついたと柢王は笑って、桂花に口元を指し示す。
「子供ですか?あんたは…」
柢王の笑顔に負けて、桂花は顔を寄せる。
「こうしての食べるともっと上手いだろ?」
「まったく、あなたって人は…」
なんて、羨ましい。あれくらいしてくれないかなとティアがアシュレイを見ると、どこからか現れたアウスレーゼ様と戯れていた。
「やった!最後の一個が売れた!!…終わったぞ!!」
「それは、よかった。あぁ、疲れた」
肩をたたく素振りのアウスレーゼに、アシュレイはくってかかる。
「何もしてないだろ!俺とティアがほとんど売ったんだぞ!!」
「…アウスレーゼ様。初めからアシュレイに手伝わせるつもりでしたね?」
この人が、アシュレイの払い忘れに気付かないはずがない。それにティアは焼き芋屋が来た事にも気付かなかったのだ。アシュレイがギリギリ間に合う位置でわざと売っていたとしても不思議ではない。
「どうだろうね。最初は楽しかったんだけどねぇ」
退屈したとアウスレーゼ様は宣って。あきれ顔のティアと怒るアシュレイだ。
「…アウスレーゼ様」
「な、何だと!」
「終わりよければ、すべてよしと言うではないか。アシュレイのエプロン姿は可愛いぞ」
アシュレイの姿を眺めてご満悦のアウスレーゼに、アシュレイはわなわなと怒りに震えた。
「謀ったな!」
「財布を忘れたそなたが悪いのだよ」
我には、好都合だったがとアウスレーゼ。
「うっ…」
「なんだ、また財布を忘れたのか?」
もはや天才的だなと柢王が言えば、桂花も財布を忘れるなんてあり得ないとあきれ顔だ。
「学習力なしだな」
「なんだと!」
アシュレイの関心が桂花に向いたところで、アウスレーゼの悪魔の囁きがティアの耳に入った。
「子猿が着ているエプロンはプレゼントするぞ。あれは普通に着ても可愛いが、…エプロン試してごらん。」
 
その夜、アシュレイがエプロンでティアに泣かされたとか、なかったとか…ただ確かな事は、その時のエプロンがティアの秘密の宝物となった事だけ。
 
 
…あの時のエプロンだ!思い出しただけで、恥ずかしくて顔から火が出そうなアシュレイだ。
「今度こそ捨てるからな!」
「それは駄目っ!」
捨てられては困るティアは必死な顔ですがりつく。
「だって、それは大切な僕とアシュレイの思い出のエプロンなんだよ。アシュレイが見たくないなら、見えないところに隠すから!」
「絶対、捨てるっ!!」
ティアの記憶も消したいくらいなのにと、エプロンを破る勢いで握りしめるアシュレイだ。
「じゃあ、またしてくれる?あれから、一度もしてくれなかったじゃない」
「しないっ!」
「なら、これは僕の宝物にしてもいいよね?それとも…してくれるの?」
どっちがいいの?と甘く囁くティアに、なぜ窮地に立たされているのかわからないアシュレイだった。
 
 
次の日の氷暉の日記には、アシュレイ姉さんは朝起きてこられなかったが、ティア義兄さんは上機嫌で小遣いをくれた。
作戦は成功して水城にいつもは食べられない100円のアイスを買ってあげられた。
この手は使える。
エプロンは柢王おじさんがティア義兄さんにこっそり頼まれて保管する事になったらしいと書かれた。


No.216 (2008/06/01 15:11) title:お月さまも笑ってる2
Name:薫夜 (160.155.12.61.ap.gmo-access.jp)

「君、盗みは立派な犯罪だよ?」
「アウスレーゼ様!?」
「ふふっ、今は焼き芋売りのお兄さんだよ。さて、代金を頂こうかな」
優雅に焼き芋の絵が入ったエプロンを見せるアウスレーゼに、ティアとアシュレイは気まずく視線を絡ませる。
「…」
「おやおや、本当に泥棒だったのかい?いい度胸だね」
「違うっ!財布を忘れただけだ!!」
「ふーん」
何か言われるよりも、アウスレーゼの視線が怖い。
「ううっ、すぐ取りに帰るから!」
走って帰ろうとするアシュレイの肩に手を置いてアウスレーゼが囁く。
「それより、体で払ってもらおうかな」
「なっ!?」
「アシュレイと僕は結婚しているんですよ!」
アシュレイを背中にかばったティアは自慢げだが、アウスレーゼは首をかしげた。
「何か、問題があるだろうか?…あぁ、不倫も楽しそうだね。むしろ、好都合ではないか。マダムキラーと呼んでおくれ。ふふっ」
マダムキラーってホストじゃないんだから…ティアは頭を抱え、なんて恥ずかしい事をとアシュレイは頭から湯気が出そう。
「…アウスレーゼ様。マダムキラーなんて言葉をどこから…」
「変態っ!!」
「ふふっ…交番に行ってもいいのだよ?磯野さんちのアシュレイがってみんなに言われてもかまわないのかな」
そんな事になったら、会う人みんなに、今日は財布を持っているか聞かれそう…それはイヤだと焦るアシュレイ。
「ううっ」
ここは夫として、妻を魔の手から守らなくては。
「アウスレーゼ様っ!!…代わりに僕が…」
「何言ってるんだ。俺の所為なんだから俺が責任をとる!」
アウスレーゼがキラーなのはマダムだけではないのに、ティアに身代わりなんてさせられるわけがないと、アシュレイ。
「駄目だ、アシュレイ。何をされるかわからないんだよ」
「おやおや、期待には答えないといけないかな?」
アウスレーゼの流し目に色香がこめられる。やぶ蛇だ。ティアとアシュレイは手に手を取り合って今にも逃げ出しそう。
「ふふっ。仲良き事はよき事かな。逃げたらどうなるかわかってるね?…まあ、二人一緒でも、我はかまわないよ。さあ、おいで。」
気分はドナドナ…楽しそうなアウスレーゼに連れていかれて。

 
「ちょっ…やめっ…そこ触んな…」
アウスレーゼの手から逃れようとアシュレイは身を捩る。
「駄目なところばかりではないか。ん?」
「んっ…そこもダメだって!くすぐったいだろっ!!」
そんなわけで、アウスレーゼは「これも罰だよ」とアシュレイにフリルのエプロンを着せている。
「相変わらず、敏感だね」
「相変わらず…?って、どう言う事?アシュレイ!」
アシュレイにエプロンを着せるのは僕だけの特権なのにと悔しそうに見ていたティアの目が吊り上がる。
「な、なんて事言うんだ!何もないって!!(あれは、内緒だって言っただろ!)」
小言のつもりのアシュレイ。
でも、聞こえてるよ。
アウスレーゼ様の意味深な笑みに、ティアは「夜が楽しみだね」と呟いて、アシュレイのお仕置き決定か?…


No.215 (2008/06/01 15:10) title:お月さまも笑ってる1
Name:薫夜 (160.155.12.61.ap.gmo-access.jp)

ガラガラガラ…
「ただい…ま?」
ティアが玄関を開けると、アシュレイが怖い顔で待っていた。あきらかに怒っている。今日は会社帰りに飲んでないし、思い当たる事はないけれど、おそるおそる尋ねた。
「…ど、どうしたの?」
「どうしてこれがあるんだ?!」
仁王立ちのアシュレイの手に握られているのは、フリルの愛らしいエプロンだ。あれは、ティアが絶対に見つからない場所に隠したはずなのに。
「な、なんでっ!?」
ティアの動揺に義弟の氷暉が自慢そうに笑う。
「ティア兄さんの隠し事見つけてやったぜ。感謝の気持ちは形でな」
「なんだ、小遣い目当てなのか、ちゃっかりしてるな」
ティアはアシュレイが小遣いを渡すのを神妙な顔で見ながら、僕だったら口止め料に倍出すのにと悔し涙を流していた。
「兄さん、いいな!」
羨ましそうな水城に優しい目をした氷暉が言う。
「明日のおやつはアイスだ」
やった!と水城が歓声をあげて駆けていく兄妹を尻目に、アシュレイの尋問が始まる。
「あの時、捨てろと言ったエプロンがここにあるのはなぜか説明しろっ!!」
…あれは確か、まだ寒い季節だった…

 
「ティア!どこ行くんだ?」
茶色の紙袋を抱えて上機嫌なアシュレイが走ってくる。
「それは、こっちのセリフだよ。行ってきますの挨拶もしないで」
日曜日の午後をのんびり過ごしていたら、突然アシュレイが家から飛び出して行ったのだ。
「あっ、あんな恥ずかしい事いちいちしてられるかっ!」
「新婚さんは、みんな必ずするものなんだよ?どうして、恥ずかしいの?」
嘘だけれど…外国式挨拶を習慣にしたいティアはアシュレイの弱みである哀しげな顔で訴える。
「ぐっ…た、ただいまはするから!」
「本当に!!」
「あ、あぁ…」
覚えてたらと、呟くアシュレイだ。
「じゃあ、行ってきますは、今してもらおうかな?」
「なっ!…こ、こんな公園で、何考えてるんだっ!」
逃げようとするアシュレイに、誰も見てないからとティアは囁いて。
「んーんん??」
甘い匂いにティアが目を開けると、ホクホクとした焼き芋が目の前に。
「ほ、ほら、あーん…」
アシュレイのごまかしにティアはうらみがましく口を開ける。
その顔を可愛いとアシュレイが思ったのはティアには絶対内緒だ。
「う、美味いだろっ!」
とりあえず、耳まで赤い恥ずかしがりやのアシュレイの手から食べさせてもらえた事でティアは満足して。
「うん、美味しいよ。これを買いに行ってたの?」
「そう!音が聞こえたから、急いで買いに…ああっ!!」
「ど、どうしたの?」
「…お金払ってない…かも…」
「ええっ!?食べちゃったよ」
アシュレイは焼き芋を買った時の事を思い出しながら、ふと大事な事に気が付いてポケットを探る。
「ない…!!急いで出てきたから、財布を持って来るの忘れた…ティアは?」
アシュレイの期待するような上目遣いは可愛いけれど。
「僕も持ってないよ…」
ティアの困ったような視線に、新婚をからかわれたから恥ずかしくて逃げてしまったのだとは言えないアシュレイだった。


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