投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「山凍殿と孔明が来るよ」
ティアに遠慮がちに言われた時、アシュレイの胸はドキンと波打った。
「・・・・孔明も来るのか」
「アシュレイ・・・」
神獣といわれる麒麟の孔明。彼は魔族に敏感に反応する。
アシュレイとは仲が良かったが果たして氷暉と共存した彼を孔明は見逃してくれるだろうか・・・・・。
二人の間に重い沈黙が広がる。
「俺、会わない方がいいかも」
「そんなことないよ、きっと孔明は大丈夫だよ。君が小さな頃からの友達じゃないか、もし氷暉殿に気づいても――――」
ティアが元気付けようとする最中、北の王の来訪を知らせる声がした。
「山凍によろしくな!」
瞬間移動したアシュレイと入れ違いに山凍が入ってくる。孔明も一緒だ。
ティアは挨拶をしながらも、アシュレイの気持ちを思うと胸が苦しくて麒麟の顔をまっすぐに見られなかった。
外へ逃げてきたアシュレイは、東屋近くの木陰で横になっていた。
『俺だって魔族なんか認めてねぇよ。認めてねぇけど・・・・アイツはさ、柢王が自分以上に大切にしてる奴なんだ。だから・・・・あの桂花って魔族だけは見逃してやってくれよ、な?孔明』
北領で桂花が虜石をにぎったあの日・・・・・。
「―――――それがまさか・・・・この俺自身がなんて・・・・もう、あいつと遊べなくなるのかな」
氷暉に語りかけたつもりだったが、都合よくアシュレイの独り言ととらえたのだろう、返事はない。
子供の頃、自分の頭の角を不吉だとか魔族と関わりがあるんじゃないかとか陰口を叩かれていた。強がって気にしていない振りをしても、しょせんは「振り」。
実際は事あるごとに落ちこんでいた。
そんな自分を背中に乗せて、南領の空を翔けてくれた孔明。
それを見た人々が、自分に対しての見方を変えてくれた時は嬉しかった。
『もしも王子が魔族と関わりがあるならば、麒麟は背に乗せたりしないだろう』
『人に滅多なことでは懐かない神獣が王子に心を許しているのは大したものだ』と。
それはアシュレイにとって感謝してもしきれないほどのことだった。
「俺はこれから先ずっと孔明を避けなきゃなんないのかな」
うつむいて鼻をすすると、何かが肘に当たった。
「――――孔明っ!?」
バッと近くの木の上に飛び退く。
ブルル、ブルル、と鼻を鳴らしているが、怒っている様子はない。
「・・・・・気づいてないのか?」
恐る恐る下に降りていくアシュレイを、尻尾を振って待つ孔明。
「・・・・・孔明・・・・俺の中に―――――ぅわっ!?」
頭にそっと手を伸ばしたアシュレイを角で器用にひっくり返し、孔明はその体に跨るように立った。
大きな目が迫り、穴があくほど見つめられる。
やはり魔族が中にいることに気づいているのだ。
なんだか孔明を裏切ってしまった気持ちになってアシュレイがきつく目をつぶると、顔に暖かいものが触れる。
「――――――――孔・・・明?」
そっと目をあけると孔明がアシュレイの顔に鼻先を押し当てていた。
「孔明・・・」
体を起こそうとすると、麒麟はすんなりと自分の足をどけてくれる。
「・・・・分かってんだろ?」
ブルル、と一度首を縦にふり、彼はアシュレイに背中を向けた。
「乗れって?」
ためらいがちに訊いた王子に、麒麟は「遊聖!」と元気よく返事をした。
幼い頃は広く感じた背中が今では余裕が全くない。
久しぶりに、孔明に跨って、なんだか照れくさくなってしまう。
「お前・・・・許してくれんのか」
小さな声で訊くと、孔明は振り返ってアシュレイを見つめた。
「・・・・・・ありがとな」
孔明にしがみつくようにもたれかかる。
なめらかなたてがみ鬣も、ここで受ける風も、ひどく優しい。
「柢王・・・あいつの事も、とっくに見逃してやってたんだな、お前は・・・・・」
言葉をくれなくても、孔明の優しい想いが伝わってくる。
胸がいっぱいになったアシュレイは涙を噛みしめたまま、やわらかな鬣を何度もなでた。
背中に親友を乗せた神獣は、それから天主塔の上をグルリと翔けまわり、再び庭へ戻ってくると腹が減ったと餌をねだった。
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