投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「わあ、アシュレイ、すごい人だねぇ」
頭の上からティアの感心した声が聞こえる。
「あんまり動くなよ、ティア。落ちたらどうすんだ」
「あ、ごめんごめん、つい珍しくって」
「それはわかるけど」
事の起こりは、アシュレイが昨夜、ティアを尋ねて天主塔に行ったこと。
アシュレイもティアには逢いたい。だが、逢うと必ずといって良いほどセクハラまがいかそのものの歓迎を受けるのがいつまでも慣れない。そんなことしなくても好きだろっと言いたい気持ちと気恥ずかしさと。あるいは、誰かがそこまで自分を求めるその激しさが怖いのか。
たが、昨夜のティアは違った。バルコニーから入ってきたアシュレイに瞳を輝かせて歓迎してくれたが、どこか元気がない。
「どうした?」
尋ねると、ティアは苦笑いして、
「一昨日、柢王も戻ってきてね。桂花を迎えに来たんだけど、そのとき、明日が東の秋祭りだって言っていたんだよね」
柢王は、アシュレイともティアとも幼馴染の東領の第三王子。元帥でもあるかれは、人間界で出逢った魔族の桂花を副官+恋人としていつも側に置いているのだが、人間界に行く時には桂花の身の安全を考えて天主塔に預けていくのだ。桂花は、アシュレイの嫌いな魔族ナンバーワン。逢わなくてよかったと胸をなでおろすかれに、ティアは微笑んで、
「お祭りって聞いたらなんだか羨ましくて。秋祭りなんてするの、東領くらいだものね」
東領は生粋のお祭り好きの住む土地──享楽に聡い国民性というのか、王家が保護する一大歓楽街の花街が堂々と営業しているのも東領くらいだ。地上でなら神と呼ばれる立場のものがお祭りもないだろうに、東ではよく賑やかな催し物が開かれる。
「でも、祭りって、花街に近い一画で見世物市や露店が出るだけだったと思うぞ」
その規模は大きいが、珍しいほどでもない。答えたアシュレイに、ティアは笑って、
「でも、私には縁がないからね」
天界の統括者であるティアは、幼い頃から執務に就いていた。柢王やアシュレイと出逢った文殊塾以外、どこへ出かけるのも大規模な警護がついて、自由気ままに出歩くことなどまずない。その存在が天界の光と称えられる絶対唯一の身には、過ぎた警護などないのではあるが。
「行きたいのか」
尋ねたアシュレイに、ティアは笑って、
「見てみたいかなあとは思うけど、まあね、仕方ないよね」
悟っているような返事に、アシュレイは顔を曇らせた。ばれたら絶対にやばい。だが、ちょっとだけなら・・・ティアはたまに東領での船遊びの招待を受けたりもしている。だから、
「ほんのちょっとだけなら・・・隠れてみるくらいなら」
思わず、呟いたアシュレイにティアが驚いた顔をする。
「えっ、連れて行ってくれるの?」
「お、俺はただっ、そんなに見たいなら・・・・」
「アシュレイ!」
ぱっとティアの顔が輝いて、アシュレイは言葉を続けられなくなった。ティアはわがままは言わない。温厚で、優しくて、本当は芯の強い、きついところも持ってはいるが、守天の立場を忘れるくらいに我を通す事など絶対にしない。
「そ、そんなに行きたいなら・・・」
「うん! 君と一緒に出かけられるなんて嬉しいよ」
嬉しそうなティアに、アシュレイも赤面しそうで慌てて横を向いた。君に会えて嬉しいとか、君と一緒で嬉しいとか。嬉しいけれど、照れくさい。これが柢王ならば気の利いた言葉の一ダースも返せるだろうに。そんな風に言ってやれない自分の不器用さにも腹が立つ。
「いいか、ちょっとだけだからな。見たらすぐに帰るからな」
念を押したアシュレイに、ティアは嬉しそうに同意した。自分と出かけることを、そんなにも喜んでくれているのを見ると、こちらも胸が温かくなった気がして恥ずかしかった。
と、いうわけで、ふたりは東領の花街に近い辺りにいたのだった。
賑わいは盛大だった。抜けるような晴天の下、大きな通りの両側にずらりと露店が建ち並ぶ。風にはためく幟。めずらしい品々が並んでいる。菓子や食べ物を売る店のいい匂い。美しい簪や宝石を売る店が一際人気なのは、すぐそこが花街だからだろう。着飾った美しい女たち、子供たちと、女たちを目当てらしい男たちとで通りはごった返している。
アシュレイは変化していた。衣装も足元までの長衣につば広の帽子。それはティアを小さな姿にして匿っておくためのものだった。中からは外の様子が透けて見えるようにはなっているが、完全ではない。ティアが帽子の中で小さく動いては、話し掛けてくるのがどこかくすぐったい。
東領へはよく来たが、祭りは久しぶりだ。景気のいいかけ声、典艶な音曲、人々の笑顔。ふいに、おなかの虫がぐうっと鳴いた。それが聞こえたように、ティアが帽子の中から尋ねた。
「ねえ、アシュレイ、いい匂いがするね。あれは何?」
「イカ焼きだろ。ティア、なんか食べたいのか」
話すのはあくまで小声。でないと危ない独り言だ。
「うん、君がおいしそうだと思うものがあれば食べてみたいな」
帽子の中からの答えに、アシュレイはよしと答えて近くの露店でイカ焼きを初めとして食べ物を買い込んだ。それを抱え、人気のない路地に入ると、辺りを確かめてからそっと帽子を取った。
「ふうぅ、やっと出られたよ」
なかからは掌サイズのティアが姿を現した。アシュレイの顔を見るとにっこり微笑む。賑わう通りの様子を伺い見て、
「やっぱりすごい人出だねぇ」
嬉しそうに笑うのでこちらも嬉しくなる。が、アシュレイは咳払いして、
「ほら、ティア。熱いぞ」
湯気を立てている串を差し出した。ティアがそれに抗議の声を上げて、
「これじゃ食べられないよ。ちょっと待って」
「わ、ティア、おまえっ」
ぱっと姿が消えたかと思うと、アシュレイの前には実物大のティアの姿があった。額の御印も鮮明な、外出用の美しい衣装のその姿はどこか見ても守天様だ。
「ティアっ」
「だ、だってこうしないと食べられないから。食べたら戻るから、ねっ」
すまなさそうなティアの顔に、アシュレイは何も言えなくなる。守天でなければそのまま出歩いても誰も何も言わないのだ。最初はティアも変化してはと話していたのだが、危険だし、東領の花街警護は他ならぬ柢王だ。アシュレイ一人ならばれても構わないが、ティアが一緒だとばれたら柢王は怒るだろう。
怒られるのが嫌なのではない。怒られて、ティアがすまながるのが嫌なのだ。
(俺がもっと強い武将なら・・・・・・)
自分が守天の警護にいるなら安心だと、誰もが確信を持ってくれるほど自分が強ければ、ティアにももう少し自由に振舞ってもらえるかもしれない。そんな思いに少しくやしくなって唇を噛んだが、ティアは初めて食べるイカ焼きに感激した顔で、
「色々なものがあるんだねぇ」
アシュレイが抱えている食べ物を見やる。
天界の統括者でも知らない事は山とある。それが嬉しいような悲しいような・・・。
「ティア、こっちも食べてみろよ、これは東領の名物なんだ」
「うん。あ、これもおいしそう」
ティアの前にあれこれ取り出すと、遠足に来た子供よろしく、ふたりで仲良く買い食いを楽しんだ。
そして、小腹も満たされ、再び小さくなったティアを帽子にかくまい、路地を出ようとした瞬間。げっと叫んで足を止めた。
花街の方からこちらへ向けて歩いてくる目立つ二人連れ。ひとりは黒髪で長身、ひとりは白い長髪に紫微色の肌。どちらも東領の軍の制服姿だ
アシュレイは慌てて路地に身を隠した。連れ立ったふたりは賑やかな露店の合い間を縫うように歩いてくる。風に乗って話し声が聞こえてくる。
「今年はずいぶん賑やかだなー。なんか年々派手になってる気がするぜ」
「花街も昼間から人が多かったですね。喧嘩が起きなければいいんですけど」
陽気な柢王の声に、桂花の冷静な声が答える。こっそり覗いてみれば、柢王は隣を歩く桂花の髪を突つくと笑って、
「心配しすぎだって。見てみ、これなんか似合いそうじゃん」
すぐ側の露店に並んでいる美しい首飾りのひとつを手に取ると、桂花の首に押し当てていた。紫水晶を嵌め込んだそれは、魔族の瞳と同じ色だ。
「あ、それともこっちがいい? これも感じよくないか」
「要りませんよ、柢王。買い物に来たわけじゃないでしょう」
桂花が首を振って先に行くように促す。どうやら花街警護の途中らしい。
「なんだよ、せっかく選んでんのに。一年に一度のことだぜ」
「この前も似たような理由で散在したはずですよ。いいから、早く行きましょう」
桂花は構わず、柢王の手を取って歩き始めた。
「なんだ、あいつらはっ! 昼間っからいちゃいちゃとっ。仕事しろよ、仕事をっ!!」
「ア、アシュレイ、声が・・・・・・」
高いとティアがいいかけたとたんに、ちょうど路地の前を通りかけていた桂花の足がぴたりと止まった。アシュレイはうわと身を隠した。
「どうした、桂花」
「いま、サルの声が聞こえたような・・・・・・」
桂花が辺りを見回すのに、誰がサルだっ、アシュレイは心で叫んだ。だが、心臓はバクバク、頭の上のティアも緊張しているのがわかる。
「まさか、アシュレイがいるわけないだろ」
「まあ、そうですよね。守天殿の声もしたような気がしたんですが、まさかね」
鋭すぎる桂花の聴力に、隠れたふたりはヒイッとすくんだが、幸い、
「おまえ、働きすぎだって。たまには息抜きしないと。お、あれ、うまそうだ」
「柢王、買い食いは禁則です」
ふたりの声は風に流れて遠ざかり、すぐにかき消えた。
「あのクソ魔族ッ!誰がサルだ、誰がっ」
もう絶対に聞こえないと確信してから、アシュレイは怒り狂ったが、ティアは帽子の中から笑い声を立てて、
「でも、おもしろかったよね。かくれんぼみたいで」
それから、しみじみした声で、
「連れて来てくれてありがとう」
口を開きかけたアシュレイは無言になった。こんなことくらいで、ありがとうなんて。
「さあ、さっさと見て回るぞっ」
わざとぶっきらぼうに言って、路地を出た。大股に、柢王たちとは逆の方向に歩き出して、ふと足を止めた。
さっき、柢王が桂花に首飾りを勧めていた露店。黒い布の上に並べられた月長石の耳飾りにふと目が止まる。月の光を閉じ込めたような、優しい乳白色のその石に、ついふらふらと手を伸ばし、買い求めてしまったのはどうかしていたとしか思えない。
「ねぇねぇ、何を買ったの? よく見えなかったけど」
興味津々、尋ねたティアに、
「なんでもねぇよっ」
赤くなった顔をそむける。ティアが帽子の中でよかった。
賑わう通りをひととおり、帽子の中と外とで会話しながらの散策。
(俺にできるのはまだこの程度・・・・・・)
なのに、ティアが本当に喜んでくれているのが嬉しいのとくやしいのとで、アシュレイは複雑な顔をして人ごみを歩き続けた。
八紫仙が待ち受ける天主塔にこっそり戻ってきたのは数刻後。
「若様、若様、どうかお開け下さいませェェェェ」
結界を張っておいた執務室の分厚い扉を叩いて懇願する声に、アシュレイと、元の姿に戻ったティアは顔を見合わせた。
「んじゃ、俺は帰る」
執務に自分は邪魔だろう。ティアはうなずいて、
「アシュレイ、今日は楽しかったよ。本当にありがとう」
その笑顔のまぶしさが恥ずかしくて、ポケットに手を突っ込むと、耳飾りの包みを無造作にティアの机に放り出し、
「俺が帰るまで絶対に開けるなよッ」
「あっ、アシュレイっ」
ティアの驚いた声を背後に、バルコニーから飛び立った。
(見てろよ、絶対、俺が強くなるから)
責任=不自由ではないのはわかっているが、その身の自由を少しでも広げたい。ティアのために、強く強くゆるぎなくありたいのだとずっと前から願って来ているのだ。
体に押し寄せる風圧が、ヒヨコないまの自分となすべき誓いの強さを思い知らせるようで。
挑むように、ぐいと高みを目指すアシュレイには、執務室の机の前、包みを開いて感激したティアが、うるうる瞳で空を見上げ、
「あああ、今度は春祭りだよねぇっ」
一人勝手に夢見ているのを、知るすべは、全くなかった──。
「山凍殿と孔明が来るよ」
ティアに遠慮がちに言われた時、アシュレイの胸はドキンと波打った。
「・・・・孔明も来るのか」
「アシュレイ・・・」
神獣といわれる麒麟の孔明。彼は魔族に敏感に反応する。
アシュレイとは仲が良かったが果たして氷暉と共存した彼を孔明は見逃してくれるだろうか・・・・・。
二人の間に重い沈黙が広がる。
「俺、会わない方がいいかも」
「そんなことないよ、きっと孔明は大丈夫だよ。君が小さな頃からの友達じゃないか、もし氷暉殿に気づいても――――」
ティアが元気付けようとする最中、北の王の来訪を知らせる声がした。
「山凍によろしくな!」
瞬間移動したアシュレイと入れ違いに山凍が入ってくる。孔明も一緒だ。
ティアは挨拶をしながらも、アシュレイの気持ちを思うと胸が苦しくて麒麟の顔をまっすぐに見られなかった。
外へ逃げてきたアシュレイは、東屋近くの木陰で横になっていた。
『俺だって魔族なんか認めてねぇよ。認めてねぇけど・・・・アイツはさ、柢王が自分以上に大切にしてる奴なんだ。だから・・・・あの桂花って魔族だけは見逃してやってくれよ、な?孔明』
北領で桂花が虜石をにぎったあの日・・・・・。
「―――――それがまさか・・・・この俺自身がなんて・・・・もう、あいつと遊べなくなるのかな」
氷暉に語りかけたつもりだったが、都合よくアシュレイの独り言ととらえたのだろう、返事はない。
子供の頃、自分の頭の角を不吉だとか魔族と関わりがあるんじゃないかとか陰口を叩かれていた。強がって気にしていない振りをしても、しょせんは「振り」。
実際は事あるごとに落ちこんでいた。
そんな自分を背中に乗せて、南領の空を翔けてくれた孔明。
それを見た人々が、自分に対しての見方を変えてくれた時は嬉しかった。
『もしも王子が魔族と関わりがあるならば、麒麟は背に乗せたりしないだろう』
『人に滅多なことでは懐かない神獣が王子に心を許しているのは大したものだ』と。
それはアシュレイにとって感謝してもしきれないほどのことだった。
「俺はこれから先ずっと孔明を避けなきゃなんないのかな」
うつむいて鼻をすすると、何かが肘に当たった。
「――――孔明っ!?」
バッと近くの木の上に飛び退く。
ブルル、ブルル、と鼻を鳴らしているが、怒っている様子はない。
「・・・・・気づいてないのか?」
恐る恐る下に降りていくアシュレイを、尻尾を振って待つ孔明。
「・・・・・孔明・・・・俺の中に―――――ぅわっ!?」
頭にそっと手を伸ばしたアシュレイを角で器用にひっくり返し、孔明はその体に跨るように立った。
大きな目が迫り、穴があくほど見つめられる。
やはり魔族が中にいることに気づいているのだ。
なんだか孔明を裏切ってしまった気持ちになってアシュレイがきつく目をつぶると、顔に暖かいものが触れる。
「――――――――孔・・・明?」
そっと目をあけると孔明がアシュレイの顔に鼻先を押し当てていた。
「孔明・・・」
体を起こそうとすると、麒麟はすんなりと自分の足をどけてくれる。
「・・・・分かってんだろ?」
ブルル、と一度首を縦にふり、彼はアシュレイに背中を向けた。
「乗れって?」
ためらいがちに訊いた王子に、麒麟は「遊聖!」と元気よく返事をした。
幼い頃は広く感じた背中が今では余裕が全くない。
久しぶりに、孔明に跨って、なんだか照れくさくなってしまう。
「お前・・・・許してくれんのか」
小さな声で訊くと、孔明は振り返ってアシュレイを見つめた。
「・・・・・・ありがとな」
孔明にしがみつくようにもたれかかる。
なめらかなたてがみ鬣も、ここで受ける風も、ひどく優しい。
「柢王・・・あいつの事も、とっくに見逃してやってたんだな、お前は・・・・・」
言葉をくれなくても、孔明の優しい想いが伝わってくる。
胸がいっぱいになったアシュレイは涙を噛みしめたまま、やわらかな鬣を何度もなでた。
背中に親友を乗せた神獣は、それから天主塔の上をグルリと翔けまわり、再び庭へ戻ってくると腹が減ったと餌をねだった。
バカが風邪をひいた。
間違い。
バカしか引かないという夏の風邪を、東と南の元帥が人間界から引いて戻ったのは夜のこと。
「桂花、そろそろ終ろうか」
「そうですね、守天殿、お茶を淹れます」
天界の決裁者とその有能な臨時秘書が、きれいに積まれた書類の束に満足そうに微笑んで顔を見合わせたとき。
いきなり、執務室の窓が開くと、顔面蒼白の柢王が、顔面まっ赤っかのアシュレイともつれ合うように転がり込んできたのだ。
「アシュレイっ」
「柢王っ」
ふたりは驚いて窓際に駆け寄った。
「アシュレイ、どうしたのっ、ああ、すごい熱だっ」
「柢王、顔色が真っ青ですよっ」
と、
「なんでもねえっ、俺は、柢王の奴が無理やりここにっ・・・」
「なんでもないわけないだろ、おまえは一人ではろくにっ・・・」
げほげほげほげほげほっ。闖入者であるふたりは同時に激しく咳き込んだ。
「悪い・・・、驚かせて。・・実は、人間界で、どうも風邪をひいたらしいんだが・・・俺は胃が痛いし、めまいはするし、こいつなんか、熱だしてんのに、そのまま残ろうとするから・・・俺が無理やり連れてきたんだ。あのまんまんじゃ絶対倒れてるから」
「それが余計な世話だって言うんだ、俺はあのままでもっ」
げほげほげほっ。また咳きこみそうな声で説明する柢王の横で、反論した南の王子はふたたび、体を二つに折って咳き込んだ。もともと真赤な顔が上気してルビー色の瞳もうるうるしている。柢王は柢王で、みぞおち辺りを押さえて、とてもいつもの快活さはない。
執務室にいたふたりはそのありさまに唖然としたが、
「わかったよ、柢王。人間界でひいた風邪ならひどくなるかも知れないから早く手当てしないと。ふたりとも、椅子に座って」
「わりい、ティア」
柢王は助かったといいたげに長椅子に腰を下ろしたが、アシュレイは真赤な顔をさらに赤くして叫んだ。
「俺はいいっ」
「いいって、アシュレイ、君の体すごく熱いのに」
「触るなっ、俺はこんなことぐらいでおまえに治してなんかっ・・・・・・」
げほげほげほげほっ。
「アシュレイっ」
ティアが慌ててアシュレイの体を抱えおこすのを見て、桂花は眉をひそめた。
どうやら南の王子は本当に無理やりここに連れてこられたらしい。ふだんなら、互角のふたりが互いを出し抜くのは大変だろうが、このありさまでは・・・。
「柢王、大丈夫ですか」
ティアがアシュレイの背中を撫で、
「さわんなよっ」
抵抗されては咳き込まれて、
「ああっ、アシュレイっ、大丈夫? 大丈夫? ああ、どうしようっ」
いや、どうしようって、あなたがさっくりお治しになられればよいのでは、と突っ込みたくなるほど狼狽しているようなさまを横目に見ながら、桂花は腹を押さえて座っている柢王の顔を覗き込んだ。
「悪い、桂花、心配させて」
柢王は笑みを浮かべて答えたが、額に汗が浮いている。
天界人の体は、魔族の桂花には時々、理解できない反応を示す。人間界の武器に傷つけられると傷が治らないとか、人間界に長くいると瘴気に当てられるとか。天界人というのが弱いのか強いのかわからなくなる。
このふたりだって、天界でなら風邪など引かないだろうに。
だが、天界人一般の事は桂花にはどうでもいい。
弱みを見せるが嫌いな柢王がここへ飛び込んできたなら相当辛いのだ。弱いところを桂花に見せているいまは、プライドも辛いだろう。
「また夜中に出歩いて朝帰りとか、それとも、おなかを出した寝たとか、人間界の夏の夜は結構冷えますからね」
「おいおい、俺は子供じゃねえぞ」
わざと皮肉った桂花に、柢王もわざと抗議してみせる。それに、と付け加えると、桂花の腕を掴んで自分の方に引き寄せて、
「おまえがいないのに、夜更かしもないだろ」
「それはどうかと」
桂花はクールに答えたが、耳朶に触れた唇の冷たさに眉をしかめた。抱き寄せられるまま柢王の冷えた体を抱いてやる。
早く治してもらったほうがよさそうだ、と、ティアに再び目をむけると、
「アシュレイっ、大丈夫だよ、私がついてるから、気をしっかり持ってっ」
「さわんなっ・・・ティア、てめぇ、どこをっ・・・・」
動転していると見えたのは間違いで、なぜかひどく嬉しそうに頬を染めて咳き込むアシュレイの背中を撫でまわしていると見えるのは気のせいか。
(守天殿・・・・・・)
いくら久しぶりに会うといっても、相手は病人、それに南の王子のプライドも柢王に負けず劣らず高いはず。
と、桂花の視線に気づいたのか、ふいにティアの瞳がこちらを向いて、
(大丈夫)
と、いいたげににっこり微笑んだのは錯覚ではない。よくよく見れば、背中を撫でまわしている反対で、アシュレイの肩を掴んでいるほうのティアの手は広げられて、どうやら内密に治療は行われているらしい。
桂花は肩をすくめた。
人間界でかかった病が天界人の体にどう影響するかは未知の部分が多い。だから、柢王は早々にアシュレイを連れて来たのだろう。そして、プライド高い南の王子はこんなことでティアの手を煩わせるのも、病ごときでふらつく自分を見せるのもイヤだというわけだ。
それをこっそり癒す守天の優しさ・・・。
いやにしつこく嬉しげに撫でまわしているように思えるのは、まあ、恩ある人だ、みないことにしておこう。
そう決めたように柢王に意識を戻す。
アシュレイが散々咳き込み、文句を言った後、すうっと眠りについたのは少し後の事。熱があった分、一気に疲れが出たらしい。
「ごめんね、柢王、待たせたね」
長椅子にアシュレイを寝かせたティアが柢王のところへやってきた。柢王は桂花の膝からその顔を仰ぎ見て、
「もうちょっとゆっくりしててよかったんだぜ、ここ、いい気持ちだから」
にやりと笑う。ティアも微笑んだが、すぐに真顔になって、柢王の体の上に手をかざした。
冷えて、かすかに震えていた体が熱を取り戻すのに、桂花がわずかに息をつく。膝の上の柢王がその顔を仰いで、
「ごめんな、心配したろ」
いつものようにいたずらっぽく微笑むのに、
「柢王、吾は人間界にいたときに、夏の風邪はバカしかひかないと聞いたことがあります」
「なんだよ、かわいくねぇなぁ。元気になったら覚えてろよ」
柢王が笑う。桂花も微笑んで、
「覚えておきますよ」
「あああ、急にあつくなったみたいだね」
ティアが苦笑いして手を下ろす。
「柢王、一応、体は楽になったと思うけど、少し休んだほうがいいよ。人間界に戻るのも体力を消耗するだろう。今夜はここに泊まって、明日の朝、戻れば?」
柢王は桂花の顔をちらと見、長椅子のアシュレイを見ると、
「そうすっか」
ティアが微笑んだ。
「じゃあ、今夜はこれで。また明日の朝、会おう」
「ああ、サンキュ、ティア」
「ありがとうございました、守天殿」
「気にしないで。桂花、明日もよろしくね。おやすみ」
ティアは長椅子のアシュレイの体を抱え上げた。
その頬に、特別仕様のにんまり笑顔が浮かんだと見えたのは幻覚か。次の瞬間、ふたりの姿は消えていた。
「嬉しそうでしたね、守天殿」
思わず呟いた桂花に、
「そりゃそうだ。一月ぶりにアシュレイに会えたんだ。あいつ、嬉しくて今夜は眠れないぞ」
柢王は笑って桂花の膝から頭を起こした。
「気分はどうです、柢王」
「すっげえ、元気になった。ってことで、俺らもさっさと寝室に行こうぜ。さっきの話を、実行しにな」
笑顔満面の柢王は、言うが早いか、桂花を抱いて宙に消えた。
「こんなときぐらい、すなおに私のところに来てくれてもいいんじゃないの、アシュレイ」
天主塔の一角。守天の寝室でティアが囁いている。すぐ傍らにある美しいストロベリーブロンドに唇を這わせて。
柢王が連れて来なければ、きっとアシュレイはここには来なかったことをティアはわかっていた。意地っ張りで、頑固で、弱みを見せるのが嫌いな南の王太子。だが、自分の事を誰より大事に守ろうとしてくれているのもわかっている。忙しい自分に負担をかけるくらいなら黙って病にでも耐えようとするだろうことも。
「まあ、君らしいけど」
囁いて、ティアは微笑んだ。
アシュレイは熱が下がったからか、暴疲れたからか、まつげを頬に落として安らかな寝息を立てている。その鼻先にちょっと唇を触れさせて、ティアはアシュレイの体を腕に包み込んだ。
心音。体温。大事な人が腕の中にいる幸せ。その思いに満たされながら。
風邪の熱は簡単に下がっても、恋の熱は永遠に冷めない。
翌朝、天主塔の人々を起こしたのが、恋の熱がどうしても醒めなかったティアが我慢しきれずつけてしまった赤い跡をアシュレイが見つけて怒り狂った怒鳴り声だったのは、まあ、よくある話のひとつだろう。
いくら守護主天でも、恋の病は癒せない。
ガシガシ、コツコツ、・・・。はあ〜〜〜・・・。
ここ数刻、この状態が東領元帥棟執務室で続いている。
たまには一人で解決するのもいいだろうと放置していたがいささか耳障りになり桂花は整理していた書類から顔を上げ声をかけた。
「何してるんですか?」
先ほどからの柢王の奇怪な様子を桂花は仕事とは思っていない。花街警備の報告書や軍の通知や編成などは柢王の意見を聞き桂花本人がまとめているのだから。といって私用に手紙を書くほどマメな男ではない。
いったい???桂花は立ち上がると柢王に歩み寄り机上に乗っている書類をそっと取り上げた。
「『第×××回 文殊塾 大運動会』・・・?何ですか、これ?」
「文殊塾恒例、四国対抗の競技大会だ。人界では神にささげるスポーツ大会があるらしんだが、我が子の成長と参観を兼ねて塾でも早々と取り上げられてる風物行事さ」
「それで、あなたは何をされてるんですか」
「その運動会での親子競技と保護者競技の種目と様々な規制を創案依頼されたんだ」
「毎年恒例ならお約束競技みたいのがあるのでは?」
「子供のはな。こーゆーのは親がヒートしちまうんだ。年甲斐もなく張り切りすぎてぎっくり腰や後日の筋肉痛、神経痛はあたりまえ。靭帯を切っちまったり、昨年なんか『棒ひっぱり競争』で膝の皿割っちまうなんて惨事もあったんたぜ」
「・・・・・」
「ま、今年はティアが控えてるから心配ねーけど」
「守天殿が、来賓ですか?」
「名目上はな。ケド実際のところは養護員というか救急隊というか」
この天空界の象徴でもある守天殿をそんなことに使うなんて・・・魔族は何を考えているか分からないというが桂花にしてみれば天界人こそ正にミラクルだ。
「今回は西の水帝王とうちの親父が問題なんだ」
「蒼龍王様?でも王には塾に通う年頃の子息女なんていないじゃないですか」
「ああ。だが親子競技といっても保護者が参加してもいいわけでさ、翔王に太芳の代理出場を訴えてたぜ。年が近いから水帝王にライバル心あんじゃないか?太芳は昨年の未就園児競技で懲り懲りだろうけど」
「未就園児競技?」
「塾に通う前の子供のかけっこがあってさ、打倒カルミアと親父特製のミックスジュース飲まされ鼻血出してぶっ倒れたんだ、強すぎたんだなぁ。あれ以来、太芳は親父を避けてたけど参加登録に翔王じゃなく親父の名があるとこみると捕まったんだな、気の毒に」
「・・・競技選出の方は分かりました。様々な規制というのは?」
「こないだ城に顔を出したとき東国(ウチ)の仕立て屋に会って聞いたんだが水帝王がカルミアにすごい衣装仕立ててるみたいでさ、規制ひかねーと今にファッションショーになっちまう。たたでさえ勝利人はヒートしてるってのに」
「料理人が?」
桂花には何もかも見当がつかない。
「そ、昼に食う弁当ひとつとっても大変なことでさ、各国のトップ料理人が最高の食材と腕を振るった創作物なんだ」
「・・・・・」
くだらない。あまりにもくだらなすぎると桂花は思った。
「俺やアシュレイが卒塾して一旦は落ち着いたらしがカルミアと太芳が入塾したからな、まったく王族ってのは」
「あなたやサルの時も騒ぎに?」
「まあ、な。特に炎王が・・・あそこは親子そろって負けず嫌いだからさ。『Red Scorpio』なんて赤と金モールでド派手な旗つくってきたのはいいんだが、デザインがアシュレイでさギリを模ったらしいが、ありゃとヴ見てもザリガニというかヤドガリというか、くくくっ、アイツ絵心ないからさ」
思い出し柢王は吹き出した。
「それだけ力が入っていたのなら南国の圧勝だったと?」
「いや、塾の先生方王族には配慮するからさ。ウチの親父を気遣って『借り物競争』なんて競技を作り出したんだ」
「借り物競争・・・ですか」
きっと蒼龍王好みの品が書かれていたことだろう。
もはやリピートする桂花の口調には力がない。
「それが縁で親父付の侍女になった者も結構いるんだぜ。あとは、そうグラインダーズ殿を将とした騎馬戦や取り囲むチアガールなんかに炎王も親父も大絶賛だったな」
聞いているだけでリアルに情景が浮かび上がってくるようで桂花は痛み始めたこめかみをそっと押さえた。
「おっと話は逸れちまったけど、この行事で確実に増えるだろうティアの心労を少しでも減らすようにと四海(文殊先生)に依頼されたんだが・・・」
「なるほど」
守護主天の秘書をしている桂花は息子や妻との諍いによって及ぼされた暴風雨や雷雨の人界被害に当たりをつけ納得した。
そして李々と人界にいたとき夏には炎天下が(炎王が予行練習に燃えていたのかも)秋は長雨、台風があったことを思い返していた。
「ま、頑張ってください」
言って桂花は何もなかったかのように自席に戻った。
「桂花ぁ〜おいおい、そんなこと言わずに一緒に考えてくれ〜」
柢王の泣き落としを背中で聞きつつも虫を決め込み、桂花は一つ大きく息を吐き出した。
なぜ天主塔に麒麟が・・・・。
先日偶然見つけた、守天の気に入っている薬草を摘んで帰ってきた桂花は、中庭を抜けようとした所でその姿に気づき身動きがとれなくなる。
下手に動けば相手を刺激してしまう―――――否。既に魔族である自分の存在が許せぬ相手、何もせずとも十分刺激を与えてしまっているだろう。
以前、北の国でこの獣と出くわしてしまった時は、柢王が寸でのところで助けてくれた。
しかし今、その柢王はいない。
「・・・・・吾を殺すか」
小さく呟いた桂花に、ジリジリと間を詰めてくる麒麟。
一触即発の状況に嫌な汗が背中を伝う。
その時、突如青いものが麒麟めがけて飛び出した。
「冰玉っ!?やめろ!冰玉!」
麒麟には鋭い角がはえている。あんなもので一撃されたら、冰玉などひとたまりも無いだろう。
「逃げろ、早く!」
悲鳴のような声を無視して冰玉は狂ったように麒麟の体を突いていたが、それは岩の如く硬い鱗におおわれており、たとえ鏃であっても傷ひとつつけられない。
桂花はいよいよ焦って鞭を取り出した。
北の王がかわいがっている麒麟。それは百も承知だったが、このままでは冰玉が危ない。
ビュッと鞭をうならせた瞬間、それが何かに引っかかってしまった。
「?!」
鞭の先を見ると、南国の王子がその先端を手に巻いて浮いていた。
「何を―――」
「早まンな」
「でも、冰玉が!」
「反撃されてなかっただろ。孔明!悪かったな、こっち来いよ」
ごろんと石を転がして、アシュレイは孔明に手招きをする。
「今、ティアのとこに山凍が来てんだ。お前いなかったから孔明を庭で遊ばせてた」
冰玉を体にまとわりつけたまま目の前までやってきた麒麟に、桂花はゴクリと喉をならした。どこまでも追い詰めてくるこの獣の恐ろしさは身をもって承知している。いななき一つで体が動けなくなるなんてフェアじゃないと言いたいところだ。
「大丈夫だって。こいつは頭いいからな、お前らの事は襲いたくても襲わない」
「え?」
「柢王からも頼まれたしな。な?孔明」
ブルル、と鼻を鳴らしてから孔明は石にかじりついた。
その間も、冰玉は必死に孔明の尾をむしろうとしている。
「コラ、止せって冰玉――――ちっこいくせにお前を守ろうと必死なんだな・・・・お前ら似てるな」
フッと笑ったアシュレイに桂花が首をかしげる。
「似てる?」
「だってそうだろ、お前なんか柢王より弱いくせにいつも奴の楯になろうとしてたじゃん、そっくりだ」
彼は持っていた袋から更にいくつか石を出し、孔明の頭を撫でてやる。
「お前は本当に賢いな。普通なら本能で魔族を殺すところを・・・・俺達の言うことを理解してくれて、約束守ってくれてるんだもんな」
ガリガリと豪快な音をたて石を食べる孔明を見ながらアシュレイは微笑んだ。
「そういや、冰玉はなに食ってんだ?やっぱり・・・・あの、ムニムニか?」
「ムニムニ・・・?」
「ホラ、あれだ、あの蝶とか蛾とかになる・・・・」
嫌そうな顔をしたアシュレイに桂花は思わず嬉しくなってしまう。この暴れん坊にも苦手なものがあったのか、と口元がゆるんでしまいそうだ。
「ああ・・・・どうでしょう。食べるかもしれないし、食べないかもしれない」
どっちだ!とアシュレイが叫んでも、白をきる桂花。
桂花は勘違いしているようだが、実の所アシュレイは幼虫など素手で、平気でつかめる。
ただ、さなぎが羽化するところを見るのが苦手なのと、かわいい鳥がおいしそうにアレを食む姿はいただけない・・・・と思っているだけだった。
「もったいぶりやがって、このケチ魔族」
アシュレイがむくれて背を向けると、孔明が桂花をギロリと睨んだ。
なにもされなくても、とんでもない威圧を感じる。やはり麒麟は苦手だ。
対抗して孔明に眼を飛ばしている冰玉を抱いて、桂花はそそくさとその場を後にした。
歩きながらホッと息をつく。どうなるかと思った・・・・・。
冰玉を空に飛ばし、しばらく木陰で休んでいるうちに先ほどのアシュレイとのやりとりを思い出す。
『俺達の言うことを理解して、約束守ってくれてるんだもんな』
そうだ・・・確かに柢王は吾に手を出すなと麒麟に言ってくれていた。しかし、南の王子ほどあの麒麟との間に信頼関係があるわけではないとも言っていた。
『あいつはガキん頃から孔明に乗らせてもらったりしてよ、仲いいんだ。孔明もアシュレイの言うことはよく聞いてくれるしな。ま、山凍とアシュレイには叶わねーよ』
俺達の言うこと――――恐らく柢王だけでなく、南の王子も麒麟を説得してくれたのだろう。そして、北の王も。
ここには柢王以外、誰一人として味方はいないと思っていたが、自分達のために守天はとても良くしてくれた。彼なら信じてもいいのだと、天界で生活しているうちに思えるようになった。
柢王が留守の今、頼れるのは守天だけなのだと。
けれど――――――柢王だけじゃなかった。守天だけじゃなかった。他にも魔族の自分を受け入れようとしてくれる者がいる。守ろうとしてくれている者が。
柢王を本当に愛してくれている人たちと待つと決意したあの日からも、冷たいすきま風が吹き続けていた心に、あたたかなものが広がっていく。
不意にこぼれた雫を拭って、桂花は冰玉を呼んだ。
腕に降り立った龍鳥の体に頬を押しあてささやく。
「吾は一人じゃなかった・・・・・」
クルルと鳴いて冰玉はしきりに桂花の頬へくちばしを滑らせる。
「そうだね、お前もいるしね」
やわらかな笑顔を見せた彼にぴったりと寄りそって、龍鳥は大人しくなった。
柢王が帰ってくる頃にはもっとここに馴染めているかもしれない。
そうしたら―――――――きっとあの人は驚くだろう。
嬉しそうに、笑いながら。
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