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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.141 (2007/08/01 15:16) title:密やかに囚われる心
Name: (p142037.ppp.dion.ne.jp)

(来た……)
 上ばきのかかとを踏んで、あくびをしながら目の前を過ぎて行く赤い髪。
 受付で返却本を揃えながらナセルの目は彼を追う。
 水曜日。 
 決まってこの時間に現れる彼は、本を借りるどころか読むことすら一度もなく、ただひと眠りして帰って行く。
 今日もいつもの定位置に腰をかけると寝る体制に入った。 
 自分を入れても片手に満たない人数。
 他の曜日なら、そんなに利用価値が無いのかと、嘆くところだが水曜日は別だ。

『アシュレイ』

 声には出さず、口だけ動かして呼んでみる。彼が貸し出しカードを使ってくれる相手だったなら、その名を誰かの口から聞くこともなかったのに。

――――早く帰りな。勉強なんか、家でやれよ。

 作業を淡々とすすめながら様子を伺う。残っている者たちは連れ合いらしく、たまにボソボソとなにか話をしていた。
 一週間に一度だけしか訪れてくれない人。まだ話したこともない人。

 今日もダメだな…

 二人きりになるチャンスはなかなか巡ってこない。
 ナセルが諦めてため息をついた時、残っていた二人連れが同時に席を立った。
 ガタガタと椅子を戻し数冊の本を借りて図書室から出ていく。

 再び訪れた静寂。

 夕焼けが窓からゆっくりと室内を照らしだし、アールグレイに染めていく。
 ナセルは足音を忍ばせながらアシュレイの前に立った。
 穏やかな呼吸をくりかえし、長いまつ毛がかすかに震えている。
 自分とアシュレイしか存在しないひととき。

「アシュレイ・・・・」

 洛陽が一段と輝きを増し、眠る彼の体をやわらかく包みこんでいった。


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