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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.140 (2007/07/30 20:33) title:恋愛ドラマの作り方  −Final step−
Name:実和 (u064017.ppp.dion.ne.jp)

 アシュレイは天界テレビの社長室から大都会の夜景を眺めていた。まさかこんなところから夜景を見られるようになるとは思わなかった。
「お前、いつも仕事しながらこんなの見てるんだな」
「まぁね。でもこのきれいな光を作っているのって遅くまで仕事している人達なんだなって思うと複雑だよ」
「きれいなものって大変だよな」
アシュレイも頷いた。
ティアはデスクから立ち上がるとアシュレイの横に立った。
「ドラマが中止にならなくて良かった。本当にありがとう。アシュレイのおかげだよ」
「俺はただ仕事しただけだ。お前こそ、しょっちゅう差し入れ持って来てくれてありがとな」
ティアは忙しい仕事の合間を縫って、こっそりスタジオに差し入れを持って来てくれた。それが普段では食べられないような高級な物ばかりでスタッフ達は恐れおののきながらもおいしく平らげていた。もちろん他の番組スタッフには内緒だ。
ティアは首を振った。
「1度現場をじっくり見たいと思っていたんだ。夢が叶ったよ。私こそとても楽しかった」
「そっか?」
準備中のスタジオの様子を本当に熱心に見ていたティアはすっかり現場のスタッフとも顔見知りになってしまっていた。ティアは本当に楽しそうで、アシュレイも何だか嬉しかった。
「うん。アシュレイが何であんなに一生懸命になっていたのか改めて分かったよ。本当に楽しそうだったよね。最終日は涙が出そうだった」
準備完了を祝ってスタジオで乾杯したのだが、ティアも呼ばれて参加したのだった。
「お前も来てくれて、みんな喜んでたぜ」
「本当?まぁ、これからはあんなことできないと思うけど」
ティアは社長だ。生真面目で、それ以上に上司思いの秘書が渋い顔をしながらも時間を作ってくれたけれどいつまでも我侭は言っていられない。
「また、通常業務に戻らなきゃ。現場を近くで見せてもらって今まで以上に頑張ろうって思ったよ。今回みたいなことがまた起こらないようにしっかりしなきゃ」
ドラマ再開の報を聞いて病床の会長はすっかり元気になったが、「恋愛はご自由になさって構いませんが、我が社のためにも番組のことはスタッフ達に任せて下さい」と愛息子に、にっこりぶっすりと釘を刺され、また倒れそうな顔色になった。
「社長業も大変だな」
いつ何が起こるか分からない。誰かに足を引っ張られるかもしれない。それらを全て背負っていかなければならないのだ。
ティアは視線を落とした。
「うん。本当は私がこんな事態になる前にきちんと処理しておかなくてはいけなかったのに。迷惑かけてごめんね。でも・・・本音を言うと逃げ出したいことばかりだ。君が羨ましいよ。私と違って君はたくさんの味方に囲まれている」
思わぬティアの本音にアシュレイは目を見開いた。
「な、何言ってんだよ。1人じゃねーだろ。俺だっているじゃねーか!」
「本当!?」
項垂れていた頭がガバッと上がり、ガシッと両腕を掴まれた。
「本当に私のものになってくれる!?」
・・・一体どう聞いたらそう解釈できるのだ。
「私には君しかいないんだ。20階で会った時からそう思っていた」
いるじゃねーか。あの秘書とか、秘書とか、秘書とか、秘書とか・・・。
「今回は君のために頑張ったんだよ。もちろん親友が主演するからっていうのもあったけど」
「そーだ!ほ、ほら、そいつがいるじゃねーか!」
「あいつは親友。恋人の対象じゃないよ」
こ、恋人!?
アシュレイはザザザーっと後ずさりしたが、ティアは両腕を掴んだままズンズン付いてくる。アシュレイの腰辺りに障害物があたってついに行き止まり。はっと振り向けば高級ソファがスタンバイ。
「ふふふ・・・。この間船便でやっと届いたんだ。イタリアの家具はいいよ」
何の話だ。
「ティ、ティア。俺、い、急いで手直ししなきゃいけないとこが・・・」
「そうだね。私達もやっとクランクインだ」
いっちゃった目でいっちゃった台詞を言うティアを止められる人間は、残念ながらこの場(この地球上)にはいなかった。

「ティア〜〜〜〜!!!」

・・・クランクイン。

 昼少し前、アランは20階の回廊を急ぎ足で歩いていた。今日はゆっくり食事をしている時間がない。テイクアウトしたパスタが入ったランチボックスを抱えてエレベーターホールを目指していると、窓際のソファに誰かが座っていた。通り過ぎようとした時、その人物がヒョイと振り返った。
「やあ、君はアランだったね、営業部の」
「社長!」
アランは立ち止まって、慌てて頭を下げた。
ティアは立ち上がるとアランの前に立った。
「今回のことは君達の頑張りのおかげで予定通り撮影に入ることができた。本当にありがとう」
「いえ、社長のご尽力のおかげです。本当にありがとうございました」
アランはもう1度深く頭を下げた。
「スタッフ達も頑張ってくれたし。ところで君は大道具のアシュレイとは随分親しいみたいだね」
「はい。仕事がきっかけで。あの人は仕事への情熱がすごくて、俺も見習いたいなと思っているんです」
「…でも、彼は職人気質で気難しいところがあって、大変じゃない?」
「いえ。俺、あの人の我侭に付き合うのが楽しいんです」
営業の職業病ですかね。アランは照れくさそうにそう言うと一礼して歩き去った。
ティアはその背中を見つめながら
「異動させちゃおっかなぁ・・・」
と据わった目で呟いた。

「何だ、これってあいつらの話しじゃねーか」
苦笑すると柢王はソファに寝そべりながら眺めていた台本をテーブルの上に放り出した。
「なーに?何か言った?」
声の方へ視線をやるとショートパンツからスラリと伸びた足が近づいてくる。その持ち主は人気女性ファッション誌の専属モデルで、最近はよくCMにも出ている。彼女は柢王の隣のソファに腰を下ろすと台本を手に取り、パラパラと捲った。
「あ、これ、今度あなたが出るドラマでしょ?どんな役?」
「ドジでひたむきなヒロインに恋するプレイボーイのサラリーマン」
「やーだ、ハマリ役じゃない」
「そーお?」
感情移入が役者にとって必須なら、自分には恋愛物なんて1番向いていないと思う。そういえばこの間撮り終えた映画も恋愛が絡んだものだった。映画にしろドラマにしろ、恋愛が全く絡まない話を探す方が難しいだろう。役についてはもちろん毎回真面目に考えているが、特に感情移入しなくてもやっていけるので構わない。
 いつの間にか、彼女は携帯電話でお喋りに興じていた。相手はモデル仲間らしい。柢王は視線をボンヤリと天井に向けた。
スカウトされ、何となくこの世界に入り、人気モデルとしての地位を確立した頃、たまたまもらったドラマでの役がきっかけで瞬く間にトップ俳優となってしまった。周りは常に一流モデルや女優、アイドル達で華やかだし、仕事は結構面白いし順調だ。順風満帆、というのだろう。
「ねぇ、今度のあなたのドラマのヘアメイク担当、誰か知ってる?」
「さぁ?」
話しかけられて我に返った。電話は終っていたようだ。
「『桂花』よ!アタシもさっき聞いてびっくりしちゃったんだけど」
その名前なら聞いたことはある。メディアには出ていないので一般には知られていないが芸能界やファッション業界では知らない者のいないヘアメイクアーティストだ。
「前に友達がショーで彼にメイクしてもらったことがあって。それがぶっちゃけ他のどのヘアメイクさんよりも上手いんだって。おまけに桂花って超絶美形なのよ、アタシも顔だけは見たことあるんだけど。でね、友達が言うには手も超綺麗で、その手で顔や髪に触られて気絶しそうになったってー」
「ふーん」
「あーん、アタシもいつか彼にメイクしてもらいたいな。いーわねぇ、一緒に仕事できるのよ!」
そう言われても男である自分はヘアメイクにはあまり関心が湧かない。むしろソイツが男であることに少々がっかりだ。
「もうっ。柢王ったら!ちっとも関心ないんだから。ちょっとはリアクションくれたっていいんじゃない?」
そう言うと彼女はスプリングをきかせて柢王の頭の横に座ると、唇を尖らせて可愛らしく睨んだ。
「そりゃあ、面白くないさ」
柢王は細い腰に腕を絡ませた。
「とびきりの美人が俺以外の男に目を輝かせているときちゃあね」
彼女は嬉しそうに微笑んで柢王の頬を長い指でつついた。爪はネイルサロンに行きたてらしく、この間会った時とは違う色になっていた。それは昨晩デートした女子アナの爪と同じ色で、流行りなのかなと思った。
「やーね。柢王よりいい男なんていないって思っているのに」
「どーだか」
彼女の柔らかい唇の感触を楽しみながら柢王はアシュレイのことを話すティアの顔を思い出していた。
見たこともないくらいに幸せそうだった。そこまでの過程は柢王も詳しくは知らないが、アシュレイの存在がティアの心を癒したのだろう。そしてアシュレイも。アシュレイは多分顔を真っ赤にして噛み付くように否定するだろうが。その様が目に見えるようで柢王は思わず笑った。
「なーに?」
「べーつに」
いつかそういう相手が自分にも現れるだろうか、と一瞬浮かびかけた思いを柢王は笑い飛ばした。理想と現実が違うことくらいよく知っている。理想は理想でしまっておいて、現実を適当に楽しむのが自分には1番だ。ティアとは背負う物が違い過ぎる。彼は皆が羨むような地位にいるが、日々神経をすり減らす毎日だ。人の羨望なんて何もしてはくれない。それよりも心癒される存在の方が必要だ。自分は世間に顔を知られている分、ある程度の不自由さはあるが、何を背負っているわけでもない。守るものは自分の身一つだ。そんな浮遊感に言いようのない不安が時折掠めるが、それも一瞬だけ。空虚が心を満たすのを許すにはやることが多すぎる。仕事に遊びに。これらがあれば時はそれなりに楽しく過ぎる。順風満帆。結構じゃないか。それで充分だ。
 
 さて、明日はクランクインだ。午前中からだから適当にして寝ておかないと。明日、アシュレイには何と言ってやろうか。きっと何を言っても面白い反応を返してくれるに違いない。

 柢王は片手で彼女の髪に触れながら、もう片方の手で台本を閉じた。

Fin


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