投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「やれ、夏はしんどうて敵わん」
閻魔は冷蔵庫に手を伸ばすと中から缶ビールを手にとり、ツマミはどこかと中をひっかきまわす。
奥の方に冷えきったスルメが小さく畳まれたのを発見し、最近傷む歯で噛めるだろうかと思案したのち、それはゴミ箱行きとなった。
「うぃ〜・・・・効くのぅ・・・この暑さの中での一杯は」
年金でマッサージチェアーを購入してしまった閻魔には、それのローンがまだ残っている。本当はエアコンも買いたかったが、日頃のお遊びのせいですっからかんだ。
今ハマっているゲイバー『教主の館』。そこの教主ママに閻魔は骨抜き状態なのだ。
「今月はもうムリじゃな・・・・あぁ、教主ママに会いたい」
うっとりとした顔でつぶやくが、すぐに暑さによって現実へと引き戻された閻魔は、残りのビールをいっきにあおって、扇風機のスイッチを入れる。
風力を「強」に切り替え、顔を近づけた状態でお決まりの「あ”〜」の一声をあげた。
頭の中で来月の小遣いはいくらまで使えるか、ソロバンをはじきながら。
その夜。
怒号のようなイビキが響きわたる六畳一間という狭い空間で、あるもの達が嘆いていた。
「もう、嫌だ・・・嫌なんだっこんな生活っ!」
「どうした、ティア」
「だってっ!くる日もくる日もあんなジジイの肩や腰揉んでるんだよっ!」
「それが仕事じゃねーか」
アシュレイが一刀両断する。
「そうだそうだ。俺だってなぁ、あんなジジイに風送んなきゃなんねーンだぞ?しかも、あのヤロすっげー近くまで顔寄せやがって、泣きたいのはこっちだ!」
柢王もうなりながら声をあげた。
「それを言うなら吾だって。においのキツイものを入れられて、何度も体を開かれて中を覗かれてひっかきまわされて・・・」
―――――――ゴクッと喉を鳴らしたのは柢王(扇風機に喉?)
「お前・・・その言い方よせよ・・・なんか・・妙な想像しちまったぜ」
「なんだなんだお前ら!仕事だろ?文句ばっか言ってんじゃねーよ」
「だって・・・アシュレイには分からないよこの気持ち。君は夏場は・・・・」
「そうですよ。あなたなんて、最近めっきり仕事されてないじゃないですか」
言いよどんだティアの台詞を引き継いだ桂花が容赦のないひとことを放った。
「なっ、なにおうっ」
「そーだよな、お前ヤカンだし。夏場は熱いものなんて飲まねーもんな」
「ヤカンって言うな!ケトルって言えっ、ケトルって!」
「・・・同じじゃね―か」
「うるせーっ!うるせーっ!俺だって好きでボーっとしてんじゃねーよ!他の家じゃ、ちゃんと麦茶を煮出してから冷やしてんだっ!こ、ここはあのクソジジイだから水に入れるだけの・・・・あんなの『邪道』だ・・・・くそぅ・・・・このクソジジイのせいだ・・・・・屈辱だっ」
「ア、アシュレイ、落ちついて?私は君のその真っ赤な体とか熱いところとか大好きだよ?こんな家に来ちゃってとても悲しかったけど、君に出会えたからこれまで我慢してきたし」
ティアが必死になぐさめるが、アシュレイは聞く耳をもたず低い声で唸っていた。
数分後。
火にかけていないヤカンが、何故かひとりでに熱くなり発火したことによって、閻魔の部屋から火が出てしまう。
幸い飛び起きた閻魔によってすぐに消火され、小火ですんだが・・・・「これで来月教主ママに会いに行くことはできなくなってしまった」と、彼はハンカチを食いしばるしかなかった。
一方、火の手が上がるのを間近で見ているのに、逃げることもできなかった三人は、それ以来アシュレイを怒らせるようなことは決して言わなくなったとか。
Powered by T-Note Ver.3.21 |