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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.120 (2007/06/05 21:33) title:ニュースの時間
Name:実和 (u188080.ppp.dion.ne.jp)

「次のニュースです」

 ティアはそう短く告げると次の原稿を一瞥した。そして後は一度も視線を落とすことなく、美しい微笑をたたえ、画面に向かってニュースを伝えている。現在、日本全国がテレビの前で骨抜きにされているだろう。そして一体その中の何人がこのニュースを聞いているだろうか。下手したら当事者、関係者すらも聞いていないかもしれない。
 ティアは夜10時から生放送で放映されているニュース番組の看板キャスターである。
 完璧な美貌、完璧な話術、優雅な物腰。
番組のインタビュー中にティアに迫り、有権者から総スカン喰らった大物政治家、ティアの会話運びと笑顔につられるままに、聞かれてもいない自社のトップシークレットを喋ってしまった大物経営者。ちなみにその内容とは当時、特捜が捜査していた事件の核心に触れまくったことだったので、大スクープとなってしまった(後の裁判でその経営者は、このインタビューを、「誘導尋問だ!」と騒いだが、当然のごとく裁判官から無視された)。

と、いうわけでティアは今、最も注目を浴びているアナウンサーなのである。
 
 ニュースはスポーツコーナーも終わり、終盤に差し掛かった。と、その時、スタジオ内が俄かに慌しくなった。ティアも異変は感じ取ったが、何事もないかのように番組を進行していく。と、ADが静かにやって来てカメラに映らない場所からティアの方へと原稿を一枚滑り込ませてきた。それにさっと目を通す。
「たった今、新しいニュースが入ってきました」
ティアはまっすぐ眼差しを正面のカメラに向けた。
「新宿で強盗事件が発生しました。犯人は現在、人質をとってビルに立てこもっている模様です」
現場に急行したスタッフから映像はまだ送られて来ていない。
「映像が届き次第、状況をお伝えいたします」
とりあえずはそれで締めくくり、次のニュースへと移った。が、ティアの気持ちはすでに強盗事件の方へと向いていた。映像が入ってきたら中継になるだろう。状況を見ながら喋らなければならない。が、ティアはトップキャスターである。そんなことを気にしているのではない。ティアは焦る気持ちを何とか顔に出さなかった。

 番組はCMに切り替わった。
スタジオ内は慌しい雰囲気に包まれている。スタッフも情報収集などであちこち走り回っている。
「おい、映像はまだか!?」
「現場もまだ、状況が把握しきれていないそうです。もう少し把握してからではないと、番組で流せません」
「おい、他局に先越されるなよ。うちが1番現場に近いんだぜ」
「カメラはアシュレイが担いでいます。あいつなら危ない現場だろうが、レポーター置いてでも突っ込んでいきますよ」
「もしかしたらスクープが期待できるかもしれないな、以前も身体張っていい映像取ってきたから。コメントも期待しているぞ」
ディレクターの閻魔は期待に満ちた顔で頷き、熱の籠もった目でティアを振り返った。

が。

「あれ??」
振り返るとメインキャスター席には、いつも閻魔の目を感激に潤ませる、麗しい姿は掻き消えていた。
「桂花、ティアは?」
閻魔はいつもティアの隣で補佐に当たっているもう1人の美貌のキャスター、桂花に尋ねた。しかし彼が答える前に、スタッフが飛び出してきて閻魔に声をかけた。
「現場から映像が届きました!」
閻魔は慌ててモニターを確認しに行く。
「もうすぐCMが終わるぞ!流せるか!?」
モニターには野次馬と警察でごった返している現場の様子が映し出されていた。新宿の繁華街にあるビルの周りはネオンのせいで昼間のように明るい。そこにパトカーの赤いランプも加わって騒然とした雰囲気だ。さらに・・・
「ティアー!!何しに来てんだよ、テメーは!」
「だってアシュレイ、君、いつも無茶な映像撮ろうとするから心配で。」
「俺は仕事してんだ!お前の方が心配なんだよっ。CM終っちまうんだぞ、スタジオ戻れ!」
「ありがとう、私の心配してくれるなんて・・・。でも君だけを危険なところにやっておいて私だけが安全なスタジオから見ているだけなんて、耐えられないよ・・・(涙)。どちらにしろ今からスタジオ戻ったってどうせ間に合わないよ。それに番組の方は大丈夫、桂花が完璧に進行してくれるから♪(←問題発言)」
「お前はそれでもメインキャスターかー!!」
「事実を視聴者に伝えるのがキャスターの仕事じゃない。事件は現場で起きてるんだよ、アシュレイ」
某人気映画の名セリフを言いながら、ティアが笑顔でカメラの前に姿を現した。そして
「こちらはいつでもOKです」
とカメラの前で優雅に手を振った。
「勝手に決めんなー!」
アシュレイの怒号だけが音声を通して聞こえてくる(彼はカメラを担いでいる)。

 スタジオでは桂花が冷静に本番に入る準備をしていた。スタッフ達は淡々とCMから番組に切り替える準備に入っている。
 人気番組「天界ニュース」では時々、メインキャスターが事件現場に飛び出して実況をする。「危険も顧みず、現場の臨場感を伝えてくれる」と、これもまた視聴者を感動させている要因なのだが、メインキャスターを現場へと駆り立てる動機を、視聴者は誰も知らない。
「(まぁ、仕方ないよな・・・、視聴率はどこのニュース番組よりも取れてるし。ナンバーワンキャスターだし・・・)」
スタッフ達は皆、心中で呟いていた。彼らは高視聴率と共に、ティアの美しい笑顔と自分達に対する気配りと、完璧な仕事振り(と、桂花の完璧なフォロー)を思い、諦観を抱きつつ日々、番組制作に励んでいる。
 
 スタッフのカウントで、CMから番組へと切り替わった。桂花が正面のカメラを見つめた。
「先ほどお伝えしました、新宿で発生している強盗事件の映像が届いた模様です。現場の様子を伝えてください」
映像が切り替わり、画面には騒然としている現場をバックにティアがマイクを持って現れた。
「はい、こちら現場です」

 ティアは自分の人気に優雅に胡坐をかいてはいない、とても仕事熱心なアナウンサーである。

 優秀なキャスターとスタッフの手によって、「天界ニュース」は今夜も高視聴率であろう。


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