投稿(妄想)小説の部屋

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No.606 (2005/11/08 15:26) 投稿者:碧玉

Birthday after and before

「あああーっ!! またかぁ・・・」
「もう、あきらめなよ〜。俺、二葉ならいいよ。忍も俺ならいいって言うよ。きっと・・・ねっ、忍?」
「ハァ〜〜〜」
 ガックリうなだれている二葉と、慰めているらしき小沼に挟まれ俺はため息をつく。
 そんな俺をさらりと無視し、小沼は二葉に語り続ける。
「それにしても、何度目だよっ?」
「―――五回」
 答え、とうとう二葉はカウンターにつっぷしてしまった。
「え〜、俺と一緒だぁ〜。又リセットしちゃおうかなぁ」
「――――!!」
「ハァ〜〜〜」
 小沼の言葉に異常反応した俺を察し、今度は二葉がため息をつく。
 それが、又、俺の神経を逆撫でし、キッと二葉を睨みつけ言い放った。
「だから!!見合いでも何でもすりゃいいだろっ。俺がいいって言ってんだから」
「!!んじゃ、何だよっ。俺が、いや、俺の『ユリっち』におまえ以外の子供ができてもいいって言うのかよっ!!」
 ガバッと跳ね起き二葉は拳を握り締め力説する。
「・・・二葉じゃないだろ。どーして、そこまで『たま●っち』ごときに夢中になれるのか、そっちの方が俺は不思議だよっ。それに仕方ないだろ?俺のも二葉のもオス同士なんだから」
 ピピッピキピー♪♪
 どんどん風向きが悪くなっていく俺と二葉の横で小沼は呑気に自分の『たま●っち』の世話をしている。
 その耳障りな音を聞きながら俺は『騙された!!』と再度思う。

 一ヶ月前。
「へへへっ、分かったよ。二葉が・ほ・し・い・も・の」
 小沼が満面の笑みでやってきた。
「助かった」
 来月に迫った二葉の誕生日に、毎度ながら悩んだものの一向に閃かない。
 二葉とのつき合いも年月を重ね、互いの好みも分かってきたけど、だけど二葉は俺が選んだものは何でも手放しで喜んでくれるのが常であって、実のところ、二葉が今、一番何が欲しいのか分からないんだ。
 そこで久しぶりに小沼に相談することにした。
 小沼は昔から秘密ってのが凄く好きだったから、張り切って引き受けてくれた。
「ってことで、明朝6時にウチね」
「・・・ってこと?・・・6時?」
「並ばないと買えないんだよ、それ。ついてるねっ、俺たち明日はフリーじゃん♪」
 何故かノリノリの小沼。
 あーあ、あの時ヘンだと気づきゃよかった・・・。
 あくる日、早朝から並んで手に入れたのが、今、俺たちの手の中でピコピコいっているコレ『たま●っち』だった。
 俺だけじゃなく、小沼も買ったんだ。それも2個。
 つまり、結局のところ欲しかったのはコイツだったわけで・・・。
 予想外だったのは二葉がメチャクチャはまったこと。そして、今現在の二葉の願いは俺との間に子供をってことで・・・。
 けど、何故か二葉と俺の『たま●っち』はオスしか生まれず、反対に小沼の持ってる2つは(卓也さんに渡したところ、突き返されたらしい)これまたメスしか生まれない。
 だから、毎回これの繰り返し。
「なぁ〜、もう一度。もう一度だけリセットしようぜ。なっ!!」
「ヤダ!!だかがゲームだって二葉も小沼も言うけど、気に入らないからやり直すのって・・・俺も・・・いずれ俺も二葉に切り捨てられて・・・」
「そんなワケねぇーだろ」
 涙ぐむ俺の肩をあわてて二葉が抱き寄せる。
 『たま●っち』ごときにと言いつつ、一番ムキになっているのは実のところ俺かもしれない。
 だけど、気に入らないからリセットするって使い捨てるような感覚、やっぱり俺は嫌だった。
 ピッピキピッピーピー♪♪
<あーあ、二葉、わざとだよ。涙ぐむ忍見たいからってよくやるよねぇ>
 桔梗は五代目『タク子っち』におやつをあげながらも二葉の策略をしっかり見抜いていたりする。

「あれっ、珍しいね」
 此処『イエロー・パープル』の支配人である一樹さんは、俺たちを見て嬉しそうに笑った。
 開店数時間前だったから、フロアーにはまだバイトの人すらいない。
「三人がこの時間にいるのって、すごく久しぶりだね」
 コーヒーでも淹れようか、と一樹さんはスルッとカウンターの中に入った。
「・・・一樹さん!?」
「うん?」
「それっ・・・!?」
 変だと思ったのは俺だけじゃないようだ。二葉も小沼も一樹さんの喉下に釘付けだ。
 一樹さん好みのシルクシャツの下には、いつも見慣れない金色のチェーンかぶら下がっている。
 彼がネックレスするのは然して珍しいことじゃないけど・・・でも、その長さってやっぱり変。
「ああ、これ?いいでしょう?何でもイタリアで屈指の職人さんの品だそうだよ」
 一樹さんは長い指でそっとネックレスに触れた。
「ケド、変!!」
「スゴク、変!!」
「二葉っ!!小沼っ!!」
 ブーイングの二人を叱咤したものの、やっぱ俺もピンとこない。だって一樹さんのセンスじゃないもの。
「失礼な子達だねぇ。この光沢、細工。どれひとつ取っても一流品だよ」
「それ、慧嫻のプレゼント?」
勘のいい小沼が切り込んだ。
「そうだよ。早く欲しかったから、ちょっと早めのバースデープレゼントなんだ♪」
 にっこり笑って一樹さんはネックレスをそっとつまんだ。
ズルズルズルズルズルズル
「―――――――――――――――――!!」
――――――『たま●っち』――――――
 俺も二葉も小沼も、目を見開き絶句した。
 そう、シャツに隠れたネックレスの先端には、あの『たま●っち』がついてたんだ。
―――――普通つけるか?
―――――職人技のネックレスに??
―――――「早く欲しかった」ってストラップの為???
―――――失礼なのは一樹さんの方じゃ・・・・・・????
 と俺たちは思った。
「ああ、音消してたから気づかなかった」
 一樹さんはやんわり呟き、絶句している俺たちの前でピッピキ世話をし始めた。
 ピッピキピピピ―――――♪♪
 俺のだ。既に条件反射。音と同時に上着のポケットに手を入れた。
「あれっ?忍も持ってるの?」
「え!? あ、はい」
「忍のはオス? メス?」
「・・・オスです」
「ちょうどよかった」
「ダメだっ!!」
 一樹さんからコンマ1秒。二葉が即座に口を挟む。
「兄貴は慧嫻と仲良くやりゃいいだろっ」
「ん、それがね。慧嫻のは何度やっても俺と同じメスばかりでね」
「えっ、俺と同じ!!」
 小沼は同類を見つけ嬉しそうに叫んだ。
「俺たちって呪われてんのかよっ」
「『たま●っち』に?」
 ぷっ、プププ―――ッ。皆で吹きだす。
「慧嫻なんて大変だよ。説明書から攻略本、果てはハウツー本まで読破したらしい。彼、勤勉だから」
「―――――――――――――――――!!」
 又しても俺たちは絶句した。
―――――大の大人が!
―――――それも彼のような一流の男か!!
―――――そって、やはり一樹さんの魅力の賜物なのだろうか!!!
「それより、ねっ、忍。俺と子供作ろうよ」
 魅惑の微笑を浮かべ一樹さんは誘いをかけてくる。
 魅力というより魔力の方かもしれない。
 頷きそうになったギリギリで二葉に引き戻され、何とか横に首を振った。
「そ、残念だね。でも、気が変わったら報せて。俺ならきっと美形を生んであげられるよ」
「―――――――――――――――――!!」
 ――――――――――――――――美形!!
 又々しても絶句する俺たち。
 美形の『たま●っち』なんてあるのだろうか!?
 想像をも絶する。
 ピッピキピッピッピー♪♪
 俺たちの『たま●っち』が一斉に鳴り出す。
 俺たちは各自、手のひらでウニョウニョ動く『たま●っち』を見つめ・・・そして同時にため息をついた。


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