新天地への至宝
「ン、じゃ行くぜぇー」
東端の城の上空で柢王は両手に雷光を呼び集めた。
「ちょっ・・・待って! 待ってくださいっ!!」
地上で桂花が制止の声をかける。
「なんだよっ」
柢王は不満気に顔をしかめながら桂花の隣に降りてきた。
「壊す前に考えてください。使えるものは除けておかないと・・・城を壊してから見つけるんじゃ大変ですよ」
「そっか」
それならと柢王はさっさと城の中に入っていった。
柢王が桂花を抱え蓋天城から逃亡したのは昨日。
新しい生活の為、東端の城を壊し家を建てるという柢王の提案で二人はこの地へ来ていた。
「そんで、何がいるんだ?」
「そうですね・・・暮らしていくんだから、まずは衣食住でしょう」
「衣食住!?」
「吾たちが置きっぱなしにしている服や食器や調理具。それに敷物や窓布も必要ですし・・・」
桂花は考えながら必要なものを挙げていく。
「寝台と敷布も必要だぜ」
負けずと柢王も付け足す。
「・・・ですね。とにかく陽があるうちにやっちゃいましょう」
二人は城に入るとひとつひとつ品定めをしていく。二人というより、桂花の目にかなった物に柢王は霊力で起こした風を絡め、外へと運び出す。
老朽化が進み当に使われていなかったが、王の視察の城だけのことはあり、古いがどれも最高級の品ばかりだった。
一応生活に必要なものが揃った所で柢王は桂花に声をかける。
「ま、こんなもんだな。じゃ、今度こそ壊すぞ」
外に出るよう桂花を促す。
「ちょっと、待っててください」
桂花は奥の部屋に入ると両手に籠を抱え戻ってきた。
「おまえの商売道具か」
柢王も見慣れたその籠には、桂花が薬を精製する道具が入っていた。
「じゃ、それも外に出すぞ」
柢王が籠に風を絡めようとするのを桂花は首を振って拒否した。
「これは吾が運びます」
「!? ・・・そっか?」
ま、いいかと柢王はさっさと外に出て行った。
一人になった桂花は、そっと腕の中の籠に視線を落とした。
この道具は初めて柢王が桂花に買い与えてくれた物だった。
製薬道具なんか何も知らないくせに桂花と並んで真剣に選んでくれた。
『金なんかいくらカかってもいいから気に入った物を探せ』と何軒も何軒も店を回って・・・・。
柢王にとっては何でもないことだったのだろうが、桂花は嬉しかった。
そう、吾は嬉しかったんだ。・・・道具を見ながら改めて思う。
「桂花っ、なにやってんだ?早く来いよ」
柢王の急かす声が聞こえてくる。
桂花は僅かに微笑み、足早に柢王の元に向かった。
これからの生活へ、心の支えになるだろう至宝を大事に抱えて。