投稿(妄想)小説の部屋

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No.510 (2003/11/10 04:45) 投稿者:桜草

11月10日

「はじめてだな」
「ん?」

 風になびく髪を片手でおさえながら、一樹は小首をかしげ、ゆっくりと卓也を見た。

「お前が、海を見たいなんて言ったのは、初めてなんじゃないか?」
「…そうかもしれないね」

 ふっと軽い笑みをこぼし、一樹は小さく呟いた。
 碧い海を目の前に、一樹と卓也は二人並んで座っている。
 足跡一つつない白い砂の上。
 海にはサーファーの影すらない…

「冬の海は楽園…だな」
「ただ寒いだけじゃないか」

 いったいどうしたたんだ?
 卓也の瞳がそう一樹に話しかけている。
 言葉にせずともそれだけで通じる。
 一樹を見ていれば、なんとなく伝わってくるものがある。
 どれだけ長い時間を一緒に過ごしてきたか。
 プライベートに口は出さずとも、プライベートな空間にまで入り込んでしまってるほどに、お互いを知り尽くしてる関係。
 親友?
 兄弟?
 いや、それよりも、もっと理解しあえる不思議な関係。

「ああ…そうか」

 唐突に卓也は声をあげると同時に、肩に手をかけ一樹の身体を一気に引き寄せた。
 そうしておいてから、そっと耳元で囁く。

「年下の恋人の代わりは勤まらないが…」

 一樹の肩を抱く卓也の腕に力が入る。

「この冷たい風から、お前を守ることぐらいならできるぞ」

 11月10日
 今日は32回目の一樹の誕生日。
『すまない、一樹。どうしても仕事の都合がつかない』
 1本の電話とともに、軽く開いた薔薇の花がローパーに届いたのは2日前。
 今頃店ではその薔薇が、一樹を抱くよう大きく花びらを広げていることだろう。


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