二人の寝台
まどろみの中、ころん、と半回転して恋人の寝床だと意識した。
感覚は真夜中だと告げていたから、アシュレイは目を開けない。
抱き合って、そのままで眠った裸の体をくるみ込む寝具も梔子の香も、相思相愛の恋人の気配も、何もかもが気持ちよかった。
このままもう少し、ティアと自分、甘やかされていようとアシュレイは二度寝をしようとしたのだが。
ぺたぺたぺた。ぺたぺた。
…ぺた?
うっすらと瞼を上げれば、隣のティアは上体を起こして背を向けていた。
綺麗な貝殻骨が動くのを色っぽい気分半分、寝惚け半分で眺めていたが、ぺたぺたという音はそのティアの手元からしていることにふと気付く。
「…ティア?」
アシュレイの声にぴたっと動きが固まる。
「なにしてんだ」
覗き込もうとするアシュレイに、ティアはゆっくりと振り返った。
「見たね」
声は低く、まなざしは静かに深い。
しかし、その両手にガムテープが見えるのは何故だ。
夢かとごしごし目をこすってみても、やはりガムテープはガムテープ。
自分の眉が寄るのを感じる。
すごく聞きたくなかったが聞いてみた。
「それ…なにしてる?」
「ちょっと工作をね」
「ああ?」
目に力を入れてみせたら、たちまち澄まし顔が崩れて困り笑いで降参した。
これ、と見せられたガムテープの表面に数本の髪の毛が貼り付いている。
もしかしなくても。
アシュレイは脱力した。
「……証拠隠滅か?」
「だって! 寝台に違う髪の毛が落ちてたら、使い女達に勘繰られるじゃないか。
こんな、君の髪だってバレバレだっていうのに!」
横目で自分の髪とガムテープ上の髪の毛を見比べれば、確かにそれは言える。
「そりゃーそうだが…」
「これは、私達の関係を守るために必要な努力だよ。誰に恥じることも無いって言えるけど、不毛ないざこざは避けたいし。そのためにやってるんだから愛だよ、愛のため!」
ガムテープを握りしめて力説するティアにアシュレイはこめかみを押えた。
天界の至高・守護主天が、深夜に全裸でガムテ両手に寝台の上を這いまわる…。
そんな守天に誰がした。自分か。
ちら、と見ると『呆れた?』と目顔で伺っているティアにじっと見つめられていた。
盛大に渋面ひとつ。
「貸せ。俺もやる」
そうして二人並んでぺたぺたぺた。共同作業でぺたぺたぺた。
ふいに、あ、とティアが嬉しそうな声を上げる。
「ねえ、知ってる? 人間達のジンクスでね。恋人の特別な部分の毛髪を持ってるとお守りになるんだって」
ぴきっ、と不穏なものを感じて振り返って見ると、恋人様がうきうきとガムテープから怪しいうねり毛を一本剥がそうとしているところだった。
「やめろー!!」
「わっ! …ひどいよ、燃やすことないのに!」
「そんなもん取るな!!」
それこそ万一 幼馴染みと例の魔族の目にでも触れたとき、元の持ち主を推察されてはたまったものじゃない。
「照れなくたって。私のもあげるよ」
「変態」
「あー! 傷付いたよ! 絶対もらうからね!!」
無防備だったバックをいきなり取られ、掻き分けられ探られて。
「ま、まさぐるなぁああっ! …ぁ…」
夜明けにはまだ遠い―――。