投稿(妄想)小説の部屋

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No.492 (2003/05/01 01:29) 投稿者:マダム・バタフライ

ハッピータイム (後)

 そして1時間後。
「今日はねー、忍のためにあんまり甘くないプリン焼いてみたんだっ」
 結局あのあと小沼の手料理をご馳走になった俺達は、いまデザートの焼きプリンをいただいている。
「こっちはねー、同じので途中でかぼちゃを入れてみたんだけどっ…」
 そんな小沼はやっぱりとっても可愛いんだけど、隣で吹き荒れるブリザードにほんのちょっとでいいから気づいてほしいよ…。
「…あ、美味しい」
 正面のふたりに気をとられてたから、突然口の中で広がったふわっととろけるような触感のプリンとカラメルソースの相性のよさに、自然と感動が声に出てしまっていた。
「ほんとっ? …忍、難しい顔してたからちょっと心配だったんだっ。よかったー。…でもねー今日はちょっと手抜きっ。ただ焼いただけだもんっ」
 焼いただけのはずないだろうに。料理音痴な俺だってそれくらいわかるよ。
 いつもみたいに、ひとつひとつの作業が丁寧で、心がこもってるんだよね。
 卵の優しい感じが、なんだか嬉しい。
「ほんと美味しいよ。いつもご馳走様、ありがとう」
 俺が笑うと、目の前の小沼も、えへへって感じで笑ってくれた。
「忍、労働の後だからさー、ほんのちょっと甘くて喉越しつるんって感じのにしようと思って。ムースとかゼリーとかいろいろ考えたんだけどねーっ」
 考えすぎて時間がなくなっちゃったから、手抜きで普通のプリンになっちゃったんだ、ってまた、えへへって笑って話してくれた。
 小沼の手作りはいつも本当に美味しいんだけど、小沼自身がすごく可愛くて、料理にもその性格が出てるっていうか。
 俺、バイト始めてから花言葉とか前より見るようになったけど、あれっていろんな説(?)があるんだよね。小沼の名前も見たよ。桔梗の花言葉はいくつかあるけど、たまたま今日見たのは「優しい温かさ」だった。おまえの料理にもこの家にも、それが感じられる。
 ここも、おまえも、大好きだよ。
 ………って、場の雰囲気を読まないのは、小沼だけじゃなく、俺もだったらしい。(汗)
 いま、俺と小沼のほのぼの劇場を、ブリザード悠とジェラシー二葉が観劇中…。
 い、いけないっ!
 俺だって、小沼や二葉や一樹さんやバイトのおかげで、人との付き合い方が少しはわかってきたはずだし!
 俺が話題転換しないとっ…!!
「でっ、でも、小沼って料理だけじゃなく、ほんとマメだよね。いつ来ても部屋ん中片付いてるし。
 …そうだっ、カードや年賀状とかも必ず手書きでメッセージ入ってるよねっ」
「キョウは昔っからそーゆーとこハズさねぇよな。誕生日前のさ、卓也の欲しいものリサーチ力は、半端じゃねぇし」
 ああっ…、二葉が乗ってくれたのはいいけどっ…ここで卓也さんの話題は得策じゃないかもっ…。
「もうっ、そんなことないよっ。(照れ照れっ)」
 小沼にはヒットだったみたいだけどな。…なんてったって卓也さん話だしな。
「そうそう。あんまりおだてると木に登っちゃうからね、こいつ」
 悠には、エラーか…。やっぱり…。
「俺は豚じゃないもんっっ!!」
「あれ? おまえの名前『コブタキキョウ』じゃなかったっけ?」
「オ・ヌ・マ!! …もう、いいじゃんかーっっ。ちゃんと謝ったのにーっっ」
 …エラー、じゃない?
「こいつが作ったとかいう二葉の卒業式の招待状、『宇佐美 怒』様で来たんだ」
「わ〜〜〜〜っっっ!!!!! 内緒だって約束したのにーっっ!!!」
 悠の言葉は、俺達に聞かせるようでいて、…なんかちょっと違う。
「…ていうかさ、おまえ、昨日も間違えてた」
「…えーっ?」
「俺の控え室の名前、あれおまえが書いただろ。『宇佐美 怨』様。」
「あ、あれはさ〜〜〜〜っっ………」
「あれは?」
「…うぇーっ、忍ぅ〜〜〜〜」
 俺のほうに泣きついてこようとした小沼を自分のほうに引き寄せると、
「おまえはっ、俺のこと『怒』とか『怨』ってイメージしてんのがバレバレなんだよこの〜〜〜っっ」
 悠は拳骨で小沼の頭の両脇からグリグリしだした。
「なっ? 前に俺が言ったとおり。こいつら仲いいだろ?」
「うん…」
 二葉はおかしそうにふたりを見てるけど。
 牽制だよね、たぶん。悠、俺達を牽制してるんだ。(…しかも楽しそう)
 俺達が向こうに行くと、小沼にはこういう悠との時間がもっと増えるんだろうな。
 でも小沼は、悠のことどう思ってるのかな。悠の気持ち、知ってるのかな。
 そんなふたりを見る俺になにか感じたのか、二葉がちょっと心配げに俺の顔を覗き込んで訊いてきた。
「ん? なに、どした。言ってみろよ」
 二葉は悠が小沼狙いって、…そこまでは思ってないよね?
「…ちょっと…さびしいかなって」
「バーカ」
 二葉が笑って俺のことを抱き寄せた。
「俺がいるじゃん?」
「そうだね…」
 いまはまだ、そんなに心配することじゃないのかもしれない。
 伊田のときだって、小沼は伊田のことも二葉のことも考えてたし。
 自分の気持ちだけじゃなく、人のこともちゃんと見えてて。
 だから、悠のこともきっと大丈夫。
 そんなことを思いながら、俺は目を閉じると少し力を抜いて二葉に甘えることにした。
「今日は帰ろうか、二葉」
「でもおまえ、泊まるって言ってきたんだろ」
「うん。だから…」
「よしっ!!みなまで言うなっっ!!」
 ときどき俺限定でエスパーな二葉には、俺の言いたいことがわかったらしい。
 そうだよね、俺にはおまえがいるもんね。
 ときどき恥ずかしいことやってくれちゃう恋人だけど、おまえが
「いちばん大好きだから」
 宣誓するように、そっと声に出して言ってみた。これじゃ二葉のこと恥ずかしいなんて言えないな。
 でも、まあ、俺より二葉がもっと嬉しそうに笑ってくれたから、いいかな別に。
 そして俺も二葉に向かって笑いかけた。

 …そうして、すっかりふたりの世界にハマってた俺達は、
「バカーっっっ!! ふ、二葉も忍もっ…い、いい加減助けろよーっっ…うぇーっっ!!!」
 夜の青山にこだまする小沼の絶叫で、現実に戻されたんだ。

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ちなみに、二葉所持の「対・一樹用」アイテム。(現在2種)
 ・イエローカード。
  カードは寝てる忍に対しての一樹用。
 (忍を起こさないようにカードで一樹を撃退するという二葉なりの配慮)
 ・笛は、それ以外の場面で適宜活用予定。(うるさいのがたまにキズです)


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