YMCAの真実 vol.1 二葉バージョン
「じゃあ、俺ちょっと…」
何やら語尾を濁して、忍がバタバタと部屋から出て行った。
それまで蹴られてもベッドから叩き落されても起きないほどの爆睡状態だった俺は、ドアが閉まる音とともに飛び起きた。
忍が今週からYMCAに通うつもりなのは分っている。
あいつがこそこそ電話したり、ネットでYMCAについて調べたりしているのには気付いてたから。
内容からして(立ち聞きなんて、女々しいかな俺…)、どうもフィットネス施設の利用を考えているらしいけど。
だけど、だ〜け〜ど、何でYMCAなんだ!!!
あそこは、やばい、かなりや〜ば〜い場所なのに!!!
大体、大学にも何でも揃っているのに。
一緒に眠っている時、あいつが時々俺の二の腕や、胸板やヒップ(!?)をさり気なく触っているのに気付いた俺は、
「忍、こんなところからアメリカナイズされてくれたのか!!!」と、感激したんだけど、何やらぶつぶつ呟いているから、たぬき寝入りで聞き入ってみたら、
「二葉の上腕二頭筋、二葉の大臀筋、二葉の腹筋…。内層筋も、表層筋もすごく綺麗…」
「俺の…」ブランケット代わりに包まったシーツの下で、忍は自分の二の腕あたりをさすっているらしい。
そのまま、「ふ〜〜〜〜〜〜」と長いため息をついた後、突然睡眠モードに突入したらしい。
隣で健やかな寝息が聞こえるけど、俺ははっきり目が覚めてしまった。
「忍って、筋肉フェチに!?」
「俺はもともとスポーツやってっから自然に筋肉ついてるだけなのに…。でもさっきの様子だと、俺の身体羨ましいみたいだし…」
しばらく考えても分らない。わ〜か〜ら〜な〜い〜。
そのまま眠ってしまった。
しかし、謎はその翌日の忍のこそこそした態度の電話の内容で、判明!!!
忍は身体を鍛えようとしている!!!
どうしよう、マッチョの忍なんて!!!
いや、それはないと思い直した俺。だって、忍みたいな体質は、どんなに頑張ってもマッチョにはならないんだよな。
一樹だって、学生時代はそこそこ運動していて、身長もあるけれど、やっぱり俺みたいな体格ではない。
同じハーフだっていうのに…。忍も同じタイプだよな〜。
そんなことより、忍やっぱり気付いているんだろうな。会う人のほとんどすべてが連発する、「キュート!」が、褒め言葉だけを意味するのではないのに。
あいつ、頭良いからな。
こっちはやっぱり、顔はともかくマッチョな男が、いい男!!! なんだよな〜、ヨーロッパと違って。
でもさ、俺が今の忍が最高可愛いと思っているんだから、他人の目を気にしなくても…。
大体、身体鍛えてどうするつもりなんだ!?
俺はこのとき、自分の底なしの体力が、そもそも忍がYMCAに行こうと思った発端になったことなど思いもよらずに、忍の突然の行動を理解しかねていた。
それにしても、YMCAとは。
あそこは、あそこは、油断していたら、ロッカールームでも襲われちゃうんだぞ〜〜〜!!!
しかも水着も用意していたよな。(たぬき寝入りしながら、こっそり見ていた俺。やっぱり女々しい!?)っていうことは、プールも〜〜〜!!!
俺の大事な忍を、他の野郎が涎たらして見放題の場所に野放しするなんて。デンジャラ〜ス!!!!!
ドアが閉まった途端に、頭にバンダナ巻いて、サングラスして。
俺は忍の後を追うために部屋を飛び出した。