sweet pillow
「・・・・・眠い」
「ん?」
「俺、先に寝ていいですか?」
「ああ」
じゃ、先にベッドに入らせてもらいますね、と言うと、絹一はすぐ隣に座る鷲尾の肩に倒れこみそうになっていた頭をどうにか起こして、ソファからそっと立ち上がった。
このままこうして彼の隣にいると、いつのまにかベッドに運ばれているのがいつものオチなので。
たまには自分でちゃんと寝室に入ったほうがいいと思ったのだ。
・・・それに。
あからさまに言っては来ないが、翌日のブランチを食べ切れなかったりすると、さりげない言葉が降りてくるのだ。
また少し軽くなったなんじゃないか? と。
いつもの穏やかな表情でそんなふうに鷲尾に言われると、いつもベッドに運ばせてしまうのなら、少しは軽い方が・・・などと屁理屈と承知であえて言いたくなる絹一だった。
そんなくだらないことを考えつつ、寝室に入りいつものごとく鷲尾のベッドにごそごそと入る。
青というよりは藍に近いシーツは、肌触りのいいリネンのもので、大事に使えば20年は持つらしいと自分に言った鷲尾。
自分自身の事も、他人の事も。
ごく自然と大事にすることの出来る彼が選ぶのものは、さりげないが本当に上質なものばかりで。
それらがこの部屋に収まることで、ただでさえ居心地のいい部屋がもっと良くなるのだ。
「・・・・・だから自分の部屋に帰りたくなくなるんだ」
自然の香りさえしてきそうなシーツに頬を埋め、こっそり呟いてみる。
「自分の部屋に・・・なんだって?」
「!」
人の気配など感じなかったのに。
長い髪の上から耳に静かに囁かれた言葉に、これ以上ないほど絹一はびっくりしてしまう。
身体が硬直した状態でどんどん自分の顔が赤くなっていくのがわかって、絹一はまるで逃げ場を失った小動物のような心境だった。
そんなことはおかまいなしに、いつものように鷲尾の大きな手は絹一の長い髪をゆっくりと撫でていく。
鷲尾に背を向けている姿勢で硬直したままの絹一の薄い背に、ベッドに乗り上げて座る鷲尾の脚が触れている。
暑がりなくせに、自分から触れたくなってしまう熱い体温を持つ鷲尾の身体。
過ごしやすい秋になるのを待ち望んでいるはずなのに、この熱さにはいつも手を伸ばしてしまう。
現実の残暑はとても厳しいけれど。
背中に感じる眩しい夏になら、ずっと照らされて続けてもいい。
夏には弱いのを、あえて承知のうえで・・・・・
「・・・鷲尾さん」
「ん?」
ようやく緊張の解けた身体を反転させ、絹一は鷲尾の脚にそっと頭を乗せた。
絹一が何をしていようと、変わることのない大きな手の動き。
手のひらから伝わってくる優しさに急激に眠気を誘われて、絹一は開きかけた口から小さな欠伸をもらした。
ちゃんと鷲尾に伝えたいことがあったのに。
彼の魔法の手は容赦なく自分を眠りの国に誘う。
そしてやはりいつものように彼の腕に包まれ、底知れぬ世界の中でも安心して意識を手放すのだ。
だから。
眠りにつく瞬間、こっそり心の中で呟いた。
このリネンシーツもとても好きだけれど。
貴方の膝枕は寝心地が良すぎて、離れたくなくなる・・・と。